第一話 ていうか、新大陸から出れない?
『……申し訳ありませんが…………今は非常に立て込んでおりまして……』
「…………最短でどれくらいですか?」
『……早くて……一ヶ月ほどでしょうか』
一ヶ月!?
「うぅ〜……ま、また……連絡します……」
『本当にすいません……』
プツン
……頼みの綱だったニーナさんもダメかぁ……。
パーティ名の船の底抜きは、船乗りの間にまたたく間に広がったらしく……全ての船で乗船お断りとなった。
あまりにムカついたので、暴れてやろうかな〜……とも考えたけど……。
「なあにが乗船お断りだ! このヤロー!」
「天誅天誅大天誅!」
「ぎゃああああ! 助けてくれえええ!」
……腹いせに拳と梯子を振り回し、船員をボコるリルとリジーを止める方が先決だと気づいて……思いとどまった。
「はああ……もう……や・め・な・さ・いぃっ!!」
ばごばごばごばごどごおおおん!!
「「ぴぎゃあああああ!!」」
ばたっドサッ
「……すいませんでした……ヴィー、回復お願い」
「はい。≪回復≫」
「いたた……あ、傷が……」
「これ、つまらないモノですが……ほんっとに申し訳ありません……」
お詫びに菓子折りを差し出す。ああ、また出費が……。
「お、おお……オレも言い方が悪かった…………大変だな、パーティメンバーがあんなのじゃ……」
被害者から同情の目で見られるほど、私は情けない状態らしい……。
「いえ……では失礼します……」
リルとリジーを引き摺って、船乗り場から離れた。
「おおい、ちょっと待ってくれ」
ん? さっきのボコられた船員Aさん?
「誰が船員Aだ! オレにはピンキーって名前がある!」
……船員Aのほうが良くね?
「あ、それよりもだ。あんたら船を探してるんだってな。もしかしたらなんだが……」
……んん?
『……大陸同士を繋ぐ地下通路? あるよ』
そんなのがマジであるんかい! あの船員からの情報……「大陸間横断海底歩道があるらしい」という眉唾どころじゃない、怪しすぎる情報は……ソレイユの肯定によって真実となった。
「な、なら最初から使ってればよかったのか……!」
『リル、そんなに甘いはずないじゃな〜い。もし安全に使えるなら、皆使ってるっしょ』
……確かに。
つまり、何かあるわけか……。
『サーチ、あったり〜♪ 大陸間横断海底歩道はね、できて一年も経たないうちにダンジョン化しちゃったのよ』
ダンジョン化……ってことは!
「ソレイユ! あんた大陸間横断海底歩道にダンジョンコア放り込んだわね!」
『ふふ〜ん。その通りよん♪ おかげで世界最長のダンジョンが出来たのだ!』
「うれしそうに言うなあああ!」
あんたの過去の諸行が私達に多大な迷惑をかけてんだよ!
『……でもさ。普通に船に乗ったり、アタシと転移するよりも……レベル上げに最適なんじゃない?』
……あ。
「……というわけで。ダンジョンを突破しつつレベル上げもしつつ、前にいた大陸へ移動することになりました」
「大陸間横断海底歩道ですか……まだあったのですね」
「ヴィーも知ってたの!?」
「はい。言われて思い出しました。確か……危険なダンジョンと化した為に入口は封印されている、と聞いてます」
「場所はわかる?」
「はい。サクランドの最南端に祠がありますが、その地下にあるはずです」
よし! 入口の正確な位置はわかった!
「じゃあ今日明日で準備するわよ! 最低でも一ヶ月分は食糧は必要だからね!」
「一ヶ月分だぁ!? ちょっと前に食糧かき集めたばかりだろ!!」
「……大陸から大陸へ歩くのよ……どれだけ時間かかると思ってんのよ……」
「…………そうだな」
一ヶ月近く洞窟の中を歩くのよ……。
あ、考えたら滅入ってきた。
「でも一ヶ月も真っ暗闇だと、松明だけじゃ明かりは厳しいですよね」
あ、そっか。
魔法の灯火も必要かな。
「それでしたら私は≪明かり≫が使えます」
「え? 聖術?」
「はい。効果時間は約一日です。私を中心に光が広がります」
ヴィーを中心にって……仏様の後光じゃないんだから……。
「……MPを消費するんでしょ? ヴィーは回復要員なんだから、節約しないと」
「そう……ですね。そうさせてもらいます」
うーん……明かりかぁ……何かいい手はないかな。
「………………ねえリジー。常に光る呪われアイテムなんてない?」
リジーは半目で私を見ながら。
「……サーチ姉、私の呪われアイテムを何だと思ってるの……」
「たまーに便利品……と思ってる」
「……出すの止める」
「ああ、ごめんごめん。冗談よ冗談」
リジーはしばらく頬っぺたを膨らませていたけど、何だかんだ言いながらも出してくれた。
「魂の焔火〜!!」
……ある特定の効果音が響きそうな出し方したわね。
「これは持ってるだけで明かりがつくランプ。当然MPは消費しない」
「ス、スゴいじゃない…………って確か魂の焔火だったわよね? まさか……」
字面的にイヤな予感しかしないんだけど……。
「ん。持っている人の命を削って「ダメダメダメ! そんなの絶対ダメ!!」……わかった……残念」
命削ってまで欲しい明かりなんて無いわよ!
「でも大丈夫。命削られても一日寝れば回復する程度だから」
「ずいぶんエコな呪いね! っていうか、それを早く言いなさいよ!」
「ごめんごめんご」
……絶対わざとよね……口が笑ってるし!
「じゃあ明かりの係はリジーね! 朝から晩まで照らしてもらうわよ!」
「いえすまむ」
……つっこむまい。
「じゃあエイミアとヴィーとリルで食糧とかの物資の買い出しね! 私とリジーで情報を集めてくるわ!」
「「「はーい」」」
「……さて。行くわよリジー」
「うぃ!」
……つっこむまい、つっこむまい……。
それから三十分もしないうちに、情報収集も終わったので。
「あんたの武器を考えないとね」
「……私の?」
……狭い洞窟内で梯子を振り回すのは無理でしょ。
「なら大丈夫。サーチ姉から貰った〝不殺の黒剣〟がある」
懐かしいわね。
斬りつけた対象の二割しか斬れない、という意味不明な呪いのかかった黒剣。
……ん? でも呪剣士のリジーは呪いが無効なんだから……?
「私には呪いは無意味。だから八割斬れる」
「八割って……呪い無効になってないじゃない! ていうか、反転してない!?」
「呪いの種類によっては無効にもなるし、反転もする。繊細は不明」
「へ、へえ〜……」
……まあ八割斬れれば、まず相手を倒せるわね……。
「なら問題ないわね。なら久々に相手してあげるわ。時間はあるし」
「え゛っ」
「……あんたが最近、短剣の訓練をしてないのは知ってるからね?」
「……うあ……」
「おーい、戻ったぞ……って何でリジーがヘバってるんだ?」
「ん、まあ……時間がたっぷりあったもんだから……やり過ぎた」
「やり過ぎたって……リジーも災難だな」
「サーチ、それよりダンジョンの情報は?」
「うん、非常に簡単だった。正直二人も必要なかったわね」
「ふーん……どんなダンジョンだって?」
「……ひたすらまっすぐ。それだけよ」
「「「……は?」」」