第二十三話 ていうか、またまた温泉回!?
お風呂から上がると、恥ずかしまぎれの勢いのまま、酒盛りへと突入した。
その流れにリルとエイミアは嬉々として乗っかり、やがてリジーを巻き込み、ヴィーも巻き込み……夜半過ぎ辺りからの記憶がとんだ。
「……ううん……」
ま、眩しい……。
みんなを酔い潰してから一人で飲んでたけど……私も寝ちゃったみたいね……さて、起きますか……ん?
「……あれ? あれ?」
か、…身体が動かない?
な、何で? あれ、あれ?
「ん? 待てよ……もしやこれが『金縛り』!?」
をを! 人生初金縛り!
前世ではなったことなかったから、どんなんだろうな〜って思ってたんだけど。思ってたより締め付け感が強いわね……何かロープでぐるぐる巻きにされてる感じ。
「どうすれば治るんだろ……ひゃう! うひゃい! ひう!」
こ、今度は身体のあちこちがくすぐられてる……! ていうか、変なとこ触るんじゃない! こ、こら……変な気分になる……じゃなくて!
金縛りで身体がくすぐったくなるなんて、聞いたことないわよ!
「この! この! むう、少しだけなら動くかな……ん?」
「シャ?」
布団の中から、何か長いモノがにょろにょろと這い出てきた。ていうか、蛇よね? 蛇ってことは……。
「……あんたヴィーの蛇?」
「シャシャ!」
頭を縦に振る。たぶん「そうだ」と言ってるんだろう。
「……なら本体は?」
質問に反応するように、蛇は布団をずらす。そこにはぐっすりと寝入っている本体がいた。
「……なるほど……これが金縛りの正体ね……」
……私の全身に蛇を巻きつけ、抱き枕代わりに私を両手でガッチリとロックしていた。身体がくすぐったくなったのは、蛇の舌だろうな。
「……あんた達、今すぐ私から離れなさい」
「シャ〜♪ シャシャシャ♪」
……離れる気はないってか? 完全に面白がってるわね。
「……≪毒生成≫でナメクジの成分を作れるかな……」
「「「シャッ!? シャアアアアアア!!!」」」
あ。蛇だけど脱兎の勢いで逃げ出した。蛇、蛙、ナメクジの三竦みってウソだって聞いてたけど……こっちの世界では該当するみたいね。
「……たく……何かベトベトするからお風呂行こうかしら……」
脱ぎ捨ててあった浴衣を着る。あ、まずは下着を……ってあれ? この黒いのは私のじゃないけど?
「これって……ヴィーのよね……あらら」
ヴィー……そういえば酔った勢いで、ストリップショーをやってたわね……。
「……風邪ひくわよ……まったく……」
とりあえず布団をかけてあげようと思い、ヴィーに近寄ると。
「……ふぁ……あれ?」
……ねえ、なんでこのタイミングで目が覚めるかな……?
「さ、サーチ! いつも言ってますけど、ちゃんと服を着てくださいよ!」
……この状況下……妙な疑いをかけられることは確定なわけでして……。
「あれ? 何故サーチが私の下着を持って……って、ん? ……っ!!」
……ヴィーが布団で自分の身体を隠し、片手を振り上げるわけでして……。
「いやああああああっ!! セクハラ許すまじぃぃぃっ!!」
ばっっちいいいいん!!
……≪怪力≫の発動したビンタで、意識が飛んじゃうわけでして……がくっ。
「すみませんでしたっ!! 本当に申し訳ありませんでした!」
またまた露天風呂。
私が一撃でノックアウトされてた間に、蛇達が本体に事情を説明してくれたらしい。私が目を覚ますころには疑いは晴れていた。
で、先程からヴィーが私に謝り倒してるってわけなんだけど……。
「別に気にしてないわよ」
「いえ。私は誤解してとんでもない事を……」
……下手にマジメだと、思い詰めた時は厄介ね……。
「本当にいいって。ヴィーが酔っぱらったおかげで良い思いもできたし……」
「良い思い……ですか?」
こういう場合は、笑い話ですませちゃお。
「そ。ヴィーが抱きついてきたからさ、感触はサイコーだったわよ〜」
「!!!」
「私はそっちの気はないけどさ、ちょっとグラついたよ……ってあれ? ヴィーどしたの?」
さあ、ここから笑って「そんな、またまた〜」で終わる……というタイミングだったのに、ヴィーは真っ赤になって俯いてしまった。
「あれ? ヴィー? もしもーし」
「……申し訳ない……」
「……はい?」
「……申し訳ないんですけど……私には好きな人がいまして……」
……へ?
「サーチの事は……実は好きなんです……だけど、私の中では魔王様の占める割合が圧倒的なんです」
…………な、何か爆弾発言を始めちゃいましたけど……。
「で、でもサーチが望むなら私を抱」「ちょーっとストップストップ!!……少し向こうへ行こうか!」
……やべやべ……話を聞いてた他のご婦人方の視線が痛かったよ……。
少し離れた場所に移動した私達は、周りからは影になる岩の裏に回った。
「……大丈夫ね……ヴィー、ちょーっと落ち着こうね?」
「何を言ってるのれすか。私は酔っていません」
……ん? れ?
ていうか酔ってないって……。
「まさか……あんた、まだ酒残ってるの!?」
それで妙なことを口走ったのか!!
「酔いを覚ましなさい! ヴィー、聖術に≪解毒≫ってあるでしょ?」
「ありますよぅ……≪解毒≫」
ヴィーは自分自身に聖術をかけ、体内のアルコールを分解する。
一応アルコールも解毒できる……はず。
「う〜〜ん…………あ、サーチ。何だか頭がスッキリしました」
……酔いが覚めた……のかな?
「……私は……いつからお風呂に入っているのでしょう?」
「……昨日の夜にかなり飲んだの、覚えてない?」
「あ、はい。あまり飲まないように気を付けていた……と思います」
……最初から大ジョッキ(っぽい木のコップ)を一気飲みした人が言うセリフじゃないよね。
「……慎重に酔わないようにしたつもりだったのですが……やはり私はお酒には弱いのですね……」
「いやいや、あれだけハイペースで飲めば、誰だって酔うと思うよ!?」
私以外はだけど。
「そ、そんなにハイペースでしたか……」
「私のペースに釣られたのね…………ヴィー、何か普段から溜め込んでることがあるんじゃない?」
「へ? べ、別に溜め込んでなんていません!」
……顔にもろ出てるんですけど……ちょっとつついてみるか。
「……ソレイユに関することとか……」
「ひう!! ままま魔王様になな何も思うところはありません!」
「……好きな人に関することとか……」
「ひゃう!! 何もにもにもありません!!」
にもにもって……。
「ふーん……ならいいけど……」
「……ほっ……」
「ま、私のことも好きだって叫んだことは黙ってようかな〜」
「はうっ!? |%≧∞〆√∀@¥>〜〜!!」
顔を真っ赤にして何か叫んでいるヴィーに止めを刺すことにする。
「……観念しなさい。さっきまでヴィー自身が話してたことよ」
ヴィーは顔をゴシゴシしたり、手をわたわたと振ったりしていたけど……やがてカクンと頭が下がった。降参みたい。
「……お願いですから魔王様には……」
「言わないわよ。ヴィーのことだから、ずっと秘めておくつもりだったんでしょ?」
「…………はい…………〝繁茂〟様もいらっしゃいますし……魔王様にバレて嫌われるのは耐えられませんし……」
……ソレイユはそんなことでヴィーを手放すほどバカじゃないと思うけどね。
「……それと……私のことを好きだって……」
「ちょちょちょちょっと待って下さい!! これはその………………ひくっ」
ふえっ!?
ヴィーが泣き出した!?
「やっぱり気持ち悪いですよね……同性が好きだなんて変ですよね……。だけど……お願いです……お願いですから……嫌わないでぐだざい゛……うわあああああん!」
「ちょっとちょっと! 私がそんなことで嫌ったりするわけないでしょ!」
「……え?」
「……はあ……別にヴィーは恋愛感情じゃなく友達としての『好き』なんでしょ?」
「!? は、はい」
「なら全然いいじゃない。私は大歓迎よ。私もヴィーのことは大好きよ」
「………………何だ………………そうだったんですか……ふぅ」
ヴィーは落ち着きを取り戻したらしく、普段の笑顔を浮かべた。
「すみませんでした。少し取り乱しました」
「別にいいわよ。もし何かあったら私に話しなさいよ。話すだけでも、案外スッキリするものよ?」
「そうですね。私も身に沁みました」
ヴィーは立ち上がり、湯船から上がる。
「サーチ。ありがとうございました……これで吹っ切れました」
……?
「……まあ……良かった良かった」
「そうですね……では失礼します。愛してますよサーチ」
「あーはいはい。私も愛してる」
ヴィーが離れていく水音がした……と思ったら、また戻ってきて。
「どしたのヴィー……わ」
ヴィーが背後から私の首に手を回した。
そして、私の左頬に温かい感触。
「……サーチ……ありがとう」
と言ってから。
「……覚えておいて下さい……蛇は執念深いんですから」
と言って離れていった。
「しゅ……執念深いって……」
……どういう意味でしょうか?
ヴィーの種族であるメドゥーサは、恋愛には非常に寛容な種族です。