第二十一話 ていうか、ちょっと百合めいた話になる?
「あ、あの……ドラゴン仲間にも救援をお願いします」
『御意』
「えっと……まま魔王軍と分担して……」
『宜しければ我から魔王様に話を通しておきますが?』
「そそそうで脛、お願いします」
『……女性にコキ使われる事こそ我が本懐。お任せあれ……行くぞ土竜!!』
ハッハッハッ!
……変態骸骨はモグラの背に乗って、地中深くへと消えていった。
……モグラに乗るより、転移魔術を使った方が早いんじゃないかしら?
「それとエイミアはテンパり過ぎ。あんたの方が立場は上なんだから、堂々としなさいよ」
「〜ですね」が「〜で脛」になってたのは、噛んだうちに入るのかな……あえてつっこまないけど。
「まあいいじゃねえか。エイミアのスキルのおかげで、私達があちこちに出張らなくてもよくなったんだから」
確かに。
世界中にある〝八つの絶望〟を飛び回るなんて、私だって願い下げだ。
「逆に……やることが無くなったような……」
「…………………………そういやそうね」
リジーの一言に、何をすべきか考え込む。
「……私達も魔王様のお手伝いを」
「却下」
「な、何故ですか!」
「変態骸骨が動いてくれた以上、ほとんどのドラゴンの種族が集まるわ。ならば確実に音竜も来る」
「あ、そっか。探知能力に関しては音竜が一番だからな」
「戦力よりも探知能力が必要とされる作戦だから、私達が行ったところで役に立たないわよ。モンスターにだって私達以上の探知能力を持ってるヤツはいっぱいいるでしょ?」
「……確かに。他の方向性を見出だす方が良さそうですね」
「あの……なら、戦力が必要になる時のためにダンジョンでレベル上げ」
「却下!」「却下!」「却下です」
「ええっ!? まだ最後まで言ってないのに!!」
「あのですね、エイミア……『戦力が必要とされる事態に備えてダンジョンでレベル上げ』というのは、下の下の下以下の策ですよ?」
「はうっ! うぐっ! くはあっ!! がくっ」
……エイミア、KO。
「いいですか。備えるのであれば体力を温存し、休養に努めるのが常識です。わざわざ疲れる事をして、しかも怪我をするリスクを負うなんて以ての外。大体そんなギリギリの状況でレベルを上げるなんて普段の鍛練を疎かにしているいい証拠です。日々の訓練の積み重ねこそが、着実なレベル上げのくどくどくどくど」
「ちょっと待ったヴィー……ここでストップ」
「くどくどくどく……何故ですか?」
「エイミアの魂が抜けてどっか逝っちゃってる。まったく聞いてないわよ」
「え? エイミア?」
ヴィーが見ると……そこには口をポカンと開けて、白目を剥いて涙するエイミアの姿があった。
「わあああ!! エイミアすいませんしっかりしてくださああい!」
そう言って≪蘇生≫をかけ始める。
ヴィー、エイミア死んでないからね。ちょこっと現実逃避してるだけだから。
「……私はヴィー姉が言っていた『体力を温存し、休養に努める』に賛成する」
「……ぶっちゃけ?」
「サクランドで温泉入ってまったりしたい」
「「はい決定!」」
「えええっ!? 温泉に入るって……」
「何よ、これはヴィー自身が言ったことでしょ? 体力の温存、休養に努めるってんなら温泉はうってつけよ」
「そうなんですけど! 凄く私情が込められてる気が……!」
「何を言ってんのよ……」
「「「私情じゃなくてパーティの総意」よ」だ」
「私の知らないところでそんな話が進行してたんですか!? と言うより、その団結力を普段の戦闘に」
「はーい、グダグダ言ってないでちゃっちゃと行くわよ〜」
「「了解!」」
「ちょっと待って下さい! 私の話はまだ途中ふぐっ! むー! むー!」
……こうして、まだ魂が戻らないエイミアと、ロープでぐるぐる巻きにされて猿ぐつわを噛まされたヴィーを担ぎ上げ、ダンジョンから撤退した。
「むぅぅっ! ふぐぅぅっ!」
馬車馬を文字通りに馬車馬の如く働かせ、普通の半分の日程でサクランドに到着した。
その足でギルドに貸し馬車を返しに行ったんだけど……。
「……お客さん……うちの馬、どういう扱いをしたんですかい?」
「え? 普通にムチ打ちまくって、普通に走り続けただけですけど?」
「普通にムチ打ちまくるな!! 馬の尻にみみず腫ができてるだろが!!」
「え〜私そんなに力無いし〜」
「やかましいわっ!! オマケに蹄鉄が三つも外れてるなんて……どんだけ無茶な走らせ方させたんだ!! 金輪際あんたらには馬車貸さねえからなっ!!」
……メチャクチャ叱られて罰金を払わされた上で、出禁を食らった。不条理だ。
「お前らの馬の扱いの方がよっぽど不条理だよ!!」
……さいですか。
「むぅぅっ! ふぐぅぅっ!」
「こーら、ジッとしてなさい! 脱がせにくいでしょうが!」
「いや、脱がされたくないから暴れてるんだろ」
私達は鈴情館に到着するなり、縛ったままのヴィーを抱えたまま露天風呂へ向かった。二日近くヴィーを縛ったまま荷台に入れっぱなしだったので(全員忘れていた)そのまま湯船に放り込む予定。
え? 何でロープをほどかないのかって?
……ヴィーって怒ると怖いから……。
で、さすがに服着たままは可哀想なので脱がすことにしたんだけど……まあ暴れること暴れること。
〝名無しの杖〟の効果で≪怪力≫が封じられてなければ、旅館の建物は崩壊しただろう。
「ほら、次はインナーよ〜」
「むぅぅっ! むぅぅっ!」
「あら、ヴィーって結構大胆な……」
「むぎぃぃ! むぐむぐ!」
「さ〜て。いよいよブラかな」
「ふっぐうううう!!」
「暴れるなっつーの……はい、御開帳!!」
「ふむぎいいいっ!!」
「……うむぅ……色と形といい……羨ましい……えい」
「ふむう!?」
「それそれそれー♪」
「ふっ! ふっ! ふむう!」
「……おい……止めてやれよ……。ちょっと百合めいてきたぞ……」
え……?
あら失礼、おほほほ。
「でもヴィーもかわいいわね……顔を真っ赤にしちゃって」
「ふぐぅぅっ!」
「……飽きたからさっさと脱がそ。んしょんしょ」
「………………」
あ、ヴィーも大人しくなった。諦めたかな?
「……よーし完了!」
からんっ
「あ、しまった。杖落としたわ……」
ぶちぶちぶちぃ!
「……え?」
「……サァ〜アァ〜チィ〜……」
し、しまった!
杖がヴィーから離れたから、≪怪力≫が発動しちゃった……!
「……覚悟は……」
や、ヤバい……わね……。
「…………出来てるんでしょうねええええっ!!!」
「ひ、ひええええっ!!」
「待ちなさいぃぃ!! 待てと言ってるでしょおお!!」
きいいああああああ!! お助けえええええっ!
「……私達は先に入りましょう」
「……そうだな」
「……同じく」
どがあああああん!!
「天誅! 天誅! てええんちゅううううっ!!」
「ごめんなさああああああいいいぃぃ!!」
こいつら、世界の危機だって状況を忘れてる。