第二十話 ていうか、何故かまたダンジョン巡りな予感。
「……つまり……〝八つの絶望〟のどれかに現れると?」
『そういう事じゃな』
「……このひっろい世界のあちこちに点在する〝八つの絶望〟をまた巡れと?」
『そういう事じゃな』
ウソでしょおおおおおおおおっ!?
『良いではないか。汚泥内海は、その限りではないぬおうっ!?』
「あんたの言い方は何かムカつくのよ!!」
『無体な真似をするでないわ! それを八つ当たりというのじゃ!』
「んなことは百も承知よ! けど大魔導であるあんたは、どうせ不死身なんでしょ!?」
『む? ……まあ余程は消滅することは無いな』
「だったら私に八つ当たられなさいよっ!!」
『何故そうなる……ぎゃあ! 待て、待つのじゃあ! いくら我とてミスリルで攻撃されれば致命的じゃ! 止めぬかあああ!』
「腕の一本や二本すぐ再生するでしょ! 大人しく八つ当たらせろおお!」
『う、腕の一本や二本!? じょ、女性に千切られるならば本望……』
う゛っ!
「い、いやああああっ! ヘンタイのスイッチが入ったあああ!」
『待て! 待たぬか! 腕の一本とは言わず、足もあばらも背骨もある! 人体には二百以上の骨があるのじゃぞおお!』
「きゃあああっ! 誰か助けてえええっ!」
「……サーチが馬鹿やってる間に対策を考えるか」
「そうですね……リジー、あなたの呪いセンサーには七冠の魔狼は反映されますか?」
「……半径10kmはカバーできる。七冠の魔狼かどうか特定できるかは不透明」
「半径10kmでしたら十分です。エイミア、あなたの意思伝達能力はドラゴンのみが対象ですか?」
「あ、はい。今のところは。堕つる滝には親しくしているワイバーンもいますよ」
「親しいワイバーンは有難いですね。リルの鼻は広範囲の探知は可能ですか?」
「……風向きによるな…………ははぁ、ヴィーの考えてることがわかってきたぞ。ドラゴンとソレイユの力を借りるんだな?」
「あ、リルにはわかりましたか? そうです。魔王様には私からお願いして軍勢を動かしていただきます。あとはエイミアの伝を頼ってドラゴンの力を借ります」
「え? 七冠の魔狼と戦うんですか?」
「………………あなたは話を聞いていなかったのですか? 七冠の魔狼と戦うなんて無謀な事を防ぐ為の布石なんですよ?」
「え? あ、そうなんですか?」
「エイミア姉、要は魔王軍とドラゴンによって〝八つの絶望〟を監視してもらうの。後は私とリル姉で細かな位置を割り出す手筈」
「え? そんな事ができるんですか?」
「「「それを可能かどうか話し合ってる」んです!!」んだろが!」
「す、すいません……」
「じゃあ私は魔王様にお願いしてみます」
「……じゃあ私もアブドラさんに……」
「アブドラさん?」
「はい、堕つる滝にいるワイバーンの隊長さんです…………あぁ! 思い出しました!」
「?」
「アブドラさんから貰ったモノがあったんでした! 確か『困った時に吹きなさい』って……」
「え? ま、まさか…………それは……ドラゴンの角笛……!」
「あ、そうです。アブドラさんが自分の角を加工して作ったって」
「エ、エイミアは≪竜の絆≫を!? でしたら大変な戦力になります!」
「?? あの……? ≪竜の絆≫って何ですか?」
「≪竜の絆≫とは…………」
「っはあはあ……げほげほ、ぜえぜえ…………どうにか……逃げ切った……」
つ、疲れた……。
あまりにもしつこいから、大魔導の頭を蹴って崖に落とした……。
『我が頭は此処ぞ! 我が身体よ、早く拾うてくれいい! じゃが放置されるもまた良し!』
……あいつとは関わりたくない……。
「お、サーチ。やっと間抜けな追いかけっこは終わったか?」
い、言い返せない……!
「……もう御免よ……ていうか何してんの?」
「お前がいない間に対策会議」
……すいませんでした……。
「で、対策に関してはメドが立ったんだが……」
「……だが?」
「エイミアのスゲエ特技が発覚した」
エイミアの特技?
「≪竜の絆≫っていうスキルがあってだな……………………」
「あってだな…………で?」
「………………ヴィー、出番」
お前もわからないんかよ! さっきまでの偉そうな態度は何だよ!
「っ……何故私が引っ張り出される事に?」
「リルの無知」
「あ、成る程……≪竜の絆≫の事ですね?」
「そうなの。教えてもらえる?」
そう言われたヴィーは、突然手を合わせて乙女モードに移行した。
「ある島で、両想いのドラゴンと人間の少女がいました」
……はい?
「しかし二人は別々に生きる事になり……その時ドラゴンは、自分の角を追って渡しました。そして『もし僕の助けが必要な時は角笛を』」
「ちょっと待って待て待てチョイ待ち!! そこから先はいろいろとマズいから!」
「え? あ……すいません、違う話に逸れてましたね……あー恥ずかしい」
赤くなった顔を両手でパタパタしながら、ヴィーは話を切り替えた。ていうか、こういう仕草が絵になるのっていいなあ……。
「ドラゴンは自分達以外の異種族に信頼を寄せる事は、まずありません」
「……でしょうね。元々排他的な種族だし」
「その代わりに一度信頼できると認めた相手には、種族をあげてとことん好意的になってきます。その証として身体の一部を渡す習慣があるんですが……角を渡されたということは、最上位の信頼ですね」
「ちょっと待って。とことん好意的になるって下りの前に、『種族をあげて』って聞こえたんだけど……」
「言った通りです。ドラゴンは種族間の絆が非常に強固です。ですから一匹のドラゴンが寄せた信頼と好意は、種族全体からの信頼と好意と同じなんです」
それって……スゴいことよね?
「ですから信頼された相手には≪竜の絆≫というスキルが発生します。効果はドラゴンからの無制限の支援です」
「……つまり……エイミアからの頼みを断わるドラゴンは……」
「あり得ません」
……下手にエイミアに危害を加えようものなら、ドラゴンの団体さんの集中ブレスが降ってくるわけか。
「その≪竜の絆≫のスイッチとなる道具が、エイミアが貰った竜の角笛なのです」
「……だったらここでは吹かないほうがいいわね」
「え? 何故ですか?」
「だって……大魔導も元ドラゴンじゃない」
「あ……竜人でしたね」
ぶおおおおお〜♪
「「あ……」」
……今の音って……。
『何と! お主は≪竜の絆≫の持ち主であったか! 我が力、存分に使うと良いぞ!』
「きいあああああああああああ!! 骸骨が! 骸骨が迫ってきますうううっ!」
……今度はエイミアと変態骸骨との追いかけっこになった。
「……猫とネズミのケンカよね……」
あの有名なアニメの、だけど。