第十七話 ていうか、エイミアが地の真竜と会話してる間、私とリルとヴィーは?
圧倒的な息づかい。
圧倒的な存在感。
圧倒的な魔力。
……そして。
(((((くっさ〜……)))))
……圧倒的な臭気。
私達はついに地の真竜と対面した。
(ていうかさあ……これがドラゴンなの?)
圧倒的な魔力と存在感によって、真竜なのはわかる。わかるけれども!
この外見からはまったく納得がいかない。
ガリガリガリッ
長く伸びた爪によって、毛むくじゃらなお尻を掻きむしる。
ギリギリギリギリ
……長く裂けた口からは歯ぎしりが響き、ヨダレが垂れ落ちる。
そしてなぜか丸目のサングラス。
ぐがああああああああああああ…………
そして、洞窟が崩れるんじゃね!? と言いたくなるくらいの大音量の……イビキ。
……真竜って……こんなのもいるわけ? はっきり言ってモグラよね……。
(……このまま帰ろうか?)
私の投げやりな提案に。
(のった)
(賛成)
(異議なし)
(……これが真竜だったとして……マトモな話はできねえだろうな……)
全会一致で承認された。
(じゃあ起こさないように帰るよ。起きてくると逆に面倒だし)
(そうだな。それじゃヴィー、脱出聖術頼むわ)
(わかりました)
「は、はあっくしょんっ!!」
っ!!!
「こんんんの…………バカエイミアアアア!!」
「だ、だって! 我慢できなかったんでふきゃ! いったあああい!」
「だから騒ぐなって言ってんのよ! 起きたら大変なことになるかもしれないのよ!?」
「いたあああい! びえええええっ!」
「バカはお前だサーチ! お前の声が一番でっかいんだよ!」
「バカとは何よバカとは!? あんたの声のほうが十分にデカいわよ!」
「だから黙れっつってんだよ! お前のキンキン声は耳に障るんだよ!」
「キンキン声だあ!? 何かトラブる度に出るあんたのニャーニャー声の方が、よっぽど耳障りよ! あんたこそ黙ってなさいよ、このダメ猫!」
「だ、ダメ猫!? うるせえよ露出狂!」
「はん! 形勢が悪くなると『露出狂』呼ばわりすればいいと思ってるわけ? 露出する自信がないからやっかんでるんじゃないの!?」
「な、何だあコラア!?」
「そんな貧乳だと、露出しても恥ずかしいだけよね!! 悔しかったらビキニアーマー着てみなさいよ、このペチャパイ女っ!!」
「うっがあああ!! 言ったな! 言いやがったなああ!! 殺す! 絶対にぶっ殺す!!」
「かかってきなさいよペチャパイ女!! ……って、あれ?」
「後で泣くなよ露出狂女!! ……って、あれ?」
かちんっ
あ、足が石になってるぅぅぅ!?
「二人ともストップです」
「「ヴィー!?」」
「二人がエイミアのくしゃみ以上に騒いだのが原因で……ほら」
ヴィーが指差した先に視線を移すと……。
「げ! 動き出してる!」
「は、早く石化解いて!」
私達が焦ってヴィーに石化の解除を頼み込むと。
「大丈夫です。何故かエイミアと真竜との間に会話が成立しているみたいなので」
……そういえば……エイミアって滝の真竜に異様に気に入られてたわね……。
「……流石勇者……元だけど」
「そうか……なら安心だな」
「安心だな……じゃありません!!」
うわっ!? 今ヴィーの背後で雷が光ったエフェクトが入ったわよ!
「リジーに聞いたんですけど、二人は毎回毎回同じような言い争いをしてるらしいですね?」
はあ……まあ……。
「「……たまに」」
「たまに喧嘩なさるのは結構です。好きなだけなさって下さい……ただ時と場所を考えて下さい! もしもこのダンジョンの真竜が、人間に牙を剥くような凶暴な竜だったらどうするつもりだったんですか!!」
うぐ……言われてみると……確かに。
「……ごめんなさい。ちょっと冷静さを欠いてました」
「……ごめん」
「……あまり反省している様には感じられませんね……」
そう言って私達に近づくと、私達の膝の部分だけ石化を解いた。
「「わわっ!?」」
突然動くようになった膝は、バランスを崩して前のめりになる。私は正座の姿勢で膝から着地することで転倒を防いだ。リルも同じような状態になる。
「≪石化魔眼≫」
かちんっ
え!? また膝を石化してきた!?
「強制的に正座していただきましたので。ちなみにですが、石化したのは表面のみ。内部はしっかりと血が通ってますので、しっかりと痺れます。では反省してくださいね」
え!? えええっ!?
「ちょっと待ってくれよ! 冗談じゃねえって! おいヴィー!!」
……ヴィーは完全に無視してエイミア達のほうへ歩いていった。
「ちょっ! マジでカンベンしてくれよおおお!!」
「……仕方ないわ。私達が悪いんだから」
「た、確かにそうかもしれねえけど……!」
……リルは足が痺れるの大っ嫌いだからね。私は正座しても痺れないから平気だけど。
「我慢しなさいよ。私は半日はイケるわよ」
「うわきったねえええええ!」
……はい、座禅座禅。
「ううう……足が、足がああ……」
……リルはもう限界みたいです。
「早いわね。まだまだ先は長いわよ」
「いつになったら許してもらえるんだよおう……サーチに過剰反応した私がバカだった……」
「……ごめんねリル。私が明らかに言い過ぎたわ……」
「いや、ちげえよ。私が過剰に反応しすぎちまったんだ。私が悪いよ」
「違うって。私が………………って止めた。こういうのは水掛け論になるだけだしね」
「……そうだな」
「「………………」」
そういえば……しばらくリルとお茶してないわね。
「リル。今回の一件が片付いたらさ、二人でお茶しながらしゃべらない?」
「……フフ……いいな。たまには甘いモノでも行ってみるか」
「いいわね」
……なんて会話をしていたら、一時間経つのにも気がつかなかった。
「……反省しました?」
「……はい」
「……気をつける」
私達の反応をみて、ヴィーは納得したみたいで。
ぱきいん……パラパラ……
……足の石化が解けた。
「じゃあ二人で握手しましょう」
そう促されたので、私から右手を差し出す。するとリルは照れくさそうに、ぶっきらぼうに手を重ねた。
「はい、仲直り達成ですね。それじゃあ私もごめんなさい」
「「ヴィー!?」」
「私も生意気な事を言って、しかも正座させちゃいましたから」
ヴィーはペロリと舌を出してから、小走りで離れていった。
「……ねえ、リル。お茶行くときはヴィーも誘いましょ」
「……そうだな」
そう言って歩きだすリル。
少し歩き方がぎこちないな……。
「……ちょん」
「うニャアアアアアアアアアア!!」
あ、やっぱり痺れてたのね。
「サ、サーチ!! てめえええ!!」
うーん。束の間の仲直りだったわ。
今回は足が痺れてるリルだったので、簡単に逃げられた。