第一話 ていうか、エイミアの才能開花。
新章開始です。
「さあ! 行くわよ!」
「お、おー……」
「……………………………………おー」
エイミアはともかく、リルはすごいローテンションだった。必死に少ない布をたくし下ろして足を隠そうとしているのが可愛い。
「……そんなに恥ずかしいの?」
「サーチみたいな露出狂にはわかんねえよな!」
な……!
「露出狂とは何よ! ちゃんと隠すところは隠してるわ!」
「そういう問題じゃねえ!」
しばらく話が脱線した。
ちなみにエイミアは、多少は恥ずかしそうにしつつも、色々とアレンジを加えてちゃんと着こなしていた。
スタイルが良い子は自分の魅せ方もわかっているものだ、というのは本当らしい。
「じゃあ、ここをこうして……こうやって……」
仕方ないので≪偽物≫で器具を作って革の鎧を改造する。
「この部分がキチキチに作ってあるから広げれば……ちょっと引っ張るわよ」
「あ! ちょっ……! 変なとこ触るな!」
ゴンッ
「痛っ! じゃあ脱ぎなさいよ!」
「脱……! 着るものが」
「あーもう! エイミア、何か羽織るモノ貸してあげて」
何とか苦心して、革の鎧の股下にスパッツを履けるくらいにはした。
「ありがとう、サーチ。あー、これで助かった」
……あの防具屋さん、よくコンマミリ単位の仕事仕上げたたわね。もしかして凄腕だったのかしら。
用途がすごくムダな凄腕だけど。
ホワイトヤタの目撃情報は事前にギルドで集めた。
最近はスパミーネ山で猟師がよく目撃しているそうだ。
「スパミーネ山か。ここからだと……」
「だいたい歩いて一日半くらいだな。馬車を借りてけば早いが」
「……予算がね……」
私達のパーティの場合、互いに役割分担をしている。
方向感覚が優れていて、種族柄狩りが得意なリルはマッパーと野営での食料調達を担当している。
元貴族のエイミアは上流階級の礼儀作法に通じているため人受けが良い。そのため情報収集や交渉なんかは得意みたい。
ただ……やっぱりお嬢様な面があってたまに一般常識に疎い。それと家事全般は壊滅的だ。その辺りがこれからの課題かな。
あと私は財政担当。エイミアはともかくリルまでどんぶり勘定だったのには驚いた。
リル曰く「獣人は基本的に自給自足だ」とのこと。さいですか。
あとは料理も私が担当することが多い。片付けはリルとエイミアが順番でやってくれてる感じ。
で、リルはたまに先行して色々な情報を地図に書き込んでいる。私もマッパー的なことは得意だと思ってたけど……リルには敵わない。嬉しい誤算だ。
その地図を覗きこんでいたリルが山の北東部を丸く囲んだ。
「さっき気づいたんだけどさ、この辺りからあまり嗅いだことがない臭いが風に乗って流れてきてるんだ。私が知るモンスターの中にはこんな臭いのヤツはいない。たぶん、ホワイトヤタじゃないかな」
「うーん……リルが言うことを参考にすると……」
地図をなぞって私達がいまいる場所から、リルが丸く囲んだ場所の直線上の距離を測る。
「……だいたい3㎞……リル、このくらいの距離なら臭いの判別はつく?」
「余裕だな」
よし! なら可能性は高いわね!
「それじゃあ……ここで張り込むわよ!」
結局予算の関係上、徒歩以外の選択肢はなく、夕方までひたすら歩いた。
歩き慣れている私とリルはまだ余裕はあったものの。
「はあー、はあー、はあー……」
大の字になって寝転がるエイミア。やはりお嬢様育ちにはキツかったか。
「ごめん……なさい……。足……引っ張っちゃって……」
「いや、エイミア凄いわよ」
「根性あるなー、エイミア」
感心した、というのが私とリルの感想。
結局辺りが暗くなってリルが「今日はここで野営だな」と言い出すまで、エイミアは一言も弱音を吐かなかったのだ。
正直今の今までエイミアがそこまで疲労していることに気が付かなかったくらいだ。我慢強いというか、性根が座ってるというか。
「エイミア。今度からはちゃんと言えよ。無理して体を壊すほうがよっぽどバカだぜ」
「ん……気を付ける」
川で汲んできた水を飲みながらエイミアは頷いた。
「でも本当に大丈夫なんです。何故か回復は早いから」
「回復が早い? 嘘はつくなよ!?」
「本当なのよー」
回復が早い……ねえ。エイミアにそんなスキルあるのかな……。
ん? スキル? ≪蓄電池≫って……もしかして……。
「ねえ、エイミア」
「何ですか?」
「もしかしてだけど、筋肉痛って異常に治り早い?」
「早いですよ」
「でさ、病気なんかは……治りが早くないんじゃない?」
「……そうですね……風邪ひくと一番長引くタイプです」
やっぱりそうだ!
≪蓄電池≫の効果だ! たぶん自然に電気治療してるんだ!
「たぶんエイミアのスキルの効果ね」
「へー! 便利だな!」
もしかしたら、これを上手く使えるようになればエイミアのスキルの幅が広がるかもしれない。
「エイミア。この力、訓練してみようよ!」
「え? そんなに凄い事なんですか?」
「凄いわよ、その≪電気治療器≫」
「……サーチ、いま何か読み方おかしくなかったですか?」
鋭い。