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第十五話 ていうか、最奥はゾンビとハエとゴキブリのパラダイス!

「ち、チクショウ……絶対に仕返ししてやる……」


 半泣きで私達の数歩後ろを歩くリルが、ブツブツと呪いの言葉を吐いている。

 だがそこは猫の獣人。高確率で一時間以内に忘れる。流石に三歩歩くと……ということはないと思う。


「まだ先なの?」


「もう少しよ」


 リルとは打って変わって、にっこにこで歩くリファリス。


「……何か異様にリファリスの肌がツヤツヤしてるわね……。リルなんか通夜通夜なのに」


「誰が上手い事を言えと」

「リジー意味がわかるの!?」

「ううん。何となく突っ込んだ」


 ……何となくでつっこまないでほしいんだけど。


「ねえリファリス。あんたサーシャ・マーシャっていうエルフの冒険者を知ってる?」


「サーシャ・マーシャ!? あったり前よ! あたしが院長先生の次に尊敬してる冒険者だよ!」


 ……類は友を呼ぶ。


「それがどうかした?」


「マーシャンは私達のパーティに入ってるんですよ」


「え!? そうなの…………………………まあ、紹介はしてくれなくていいからね」


 ……正しく認識されてはいるようです。



「ひあっくしょいよいよい!!」


「?? ……な、何すか、今の……?」


「ム……気にするでない」



「ここだよ、最奥へ行く通路の入口は」


 ……何でダンジョンの入口まで戻るのかと思えば……。


「入口のすぐ左側に隠し扉かよ……」


 これって絶対にソレイユの仕業よね!?


「それにしても、リファリスさんはよく隠し扉に気付きましたね」


「んーん。あたしが気付いたんじゃなくてさ、来たら何故か開いてたのよ。この隠し扉が」


 ……は?


「なーんにも気付かずに入ったらさあ、銀髪で白っぽい法衣を着た美人さんとかち合ってさあ」


 絶対にソレイユだよ!


「『こんにちはー♪ 用事が済んだら扉、閉めといて下さーい』って言われたから『はーい、わかりました♪』って返した……どうかしたの、さーちゃん?」


 ……何でそんなに朗らかに魔王様(ソレイユ)とニアミスしてんのよ……。


「な、何でもない何でもない……とにかく行きましょ。時間もあんまりないし」


 もうすぐ夕方なはず。夜になる前には脱出したい。


「よーし、じゃあ行くよ」


 リファリスを先頭に、深い階段を下りていく。


「……凄い瘴気ですね」


 ランプの灯りの中に、紫色の煙みたいなモノが反射する。

 これって……。


「リファリス。土属性のダンジョンってことは……ゾンビ系が出るの?」


「ていうか巣窟」


 うげぇ……マジっすか……。


「ゾンビが出ますか……皆さん、鼻栓(・・)の用意を」


「「「「んなモンあるかっ!!」」」」


「え? 普通に持っていないモノなのですか?」


 そう言うとヴィーはポケットからコルクの栓を取りだし、鼻の穴に詰め込んだ。


「私達の村にはゾンビもいましたから、必需品だったんです」


 ……意思のあるゾンビもいたんだ……。


「……単なる知的好奇心ですけど……その方の職業は?」


「コックです」


 絶対に食中毒蔓延するぞ!!


「大丈夫でしたよ? たまに腹痛を起こす人もいましたが……」


 ……すでに食中毒は起きてたのね。


「あ、話が逸れました。無ければハンカチか何かで代用しましょう」


「あの……何故ハンカチが必要なんですか?」


「……エイミア……わからない? ゾンビだらけ(・・・・・・)なのよ?」


「………………あ! うぇぇ」


 今から吐き気を催してどうするのよ。これからヒドくなるのよ……臭いのが(・・・・)



 ブウウウウン……


 ……すっげえ臭い。

 で、スゲえハエ。


「モ、モンスターより厄介ですね……」


「大丈夫よ……リル! 前に出て!」


 もはや半泣きを越えて、わんわん泣いているリルが前に来た。


「ニャんニェわたしニャまえにじぇニャきゃニャらニャニャイニョよ!」


 鼻を摘まみながらしゃべるな! 何言ってんのかわかんないわよ!


「いよいよあんたの〝除虫護符〟の真価が発揮されるわよ」


「……ニョえ?」


 リルが近づいた途端に、堰を切ったかのように逃げ出すハエ。


「しゅ、しゅごいでしゅね……ハエがいっきに……どうしみゃしたか?」


「エイミア……あんたは鼻を摘まみながらしゃべるのは止めなさい」


 ……リファリスが萌え死にそうになってるから。


「ハエは問題ないわね。これだけでもずいぶんと戦いやすくなったわよ」


「臭いよりハエが大敵だからね、ここは……」


 リファリスの様子を見る限り、相当ヒドい目にあったみたい……。


「厄介だったよ。戦ってる間に目・鼻・口にハエが入っ」

「止めてくださああい!! 言わないでえええっ!!」


 ……エイミアは想像しちゃったらしい。


「ハエ以外にもゴキブ」

「ぎいゃあああああああああああっ!!」


 エイミアはリルにくっついて離れなくなった。


「……おい……動きにくいんだけど……」


「リル、お願いです!!離れないでえええっ!!」


「……お前、絶対私じゃなくて〝除虫護符〟目当てだろ……」


 それ以外ないじゃない。


「……リル姉、護符の効果範囲はどれくらい?」


「え? ………………知らね」


 おい。


「…………ハエの避け具合から計算して……半径3mくらいね」


「わかった。大体これくらいね」


 リジーはヒモを取り出し、6mくらいの長さの輪っかを作る。


「この中に入ってる移動すれば安全範囲」


「リジー、頭いいです」


「……鼻高」


 …………それって…………。



「………………」


 ……いい年齢になった婦女子が六人並んで。


「……汽車汽車シュッポシュポ……」


 しかもダンジョン内で。緊張感が皆無なのは私だけだろうか。


「……サーチは何を言ってるんですか?」


「何でもない。ただヤケになってるだけ」


「おい、右側にゾンビが三体いるぞ!」


「リジー! かえんほうしゃよ!」


「はーい……」


 ボオオオッ!


「……倒したけど…………サーチ、何故≪火炎放射≫(ファイアブレス)のことを、たまに『かえんほうしゃ』と発音する?」


 ……何となく。


「あ、左側からリビングデッド一体!」


≪聖々弾≫ホーリー・ホーリー・バレット

 ズガアアンッ!

「……倒しました」


「この調子でいくわよ!」


「き、きあああ!」


「何よエイミア! ……って死霊の手か」


 要はゾンビの手だけが地面から生えてるヤツ。歩いてる冒険者の足を掴んで、行動不能にするくらいしか害はない。


「でも戦闘中にやられたら致命的な隙になりかねないからね……≪偽物≫(イミテーション)


 ミスリルのリングブレードで撃退する。


「ひ、ひ、ひえええっ!!」


「今度はヴィーなの!? どこよ死霊の手は!?」


「いや! いやああああ!」


 ヴィーは一目散に逃げていった。

 ……あ、死霊の手が出たんじゃなく、ミスリルを嫌がってたのね……。


「うみゃああああああああ!!!」


「今度はどしたの!!」


「……護符の効果範囲から出たヴィーが、ゴキブリの団体に追っかけられてる」


 …………すまん。助太刀ムリ。

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