第十四話 ていうか、ダンジョンにはさらに奥があった!?
「今度ひゅーちゃんに手を出したら承知しないからね今回は拳骨だけで済ませてあげるのはサーチがあたしの妹分であるからだしヴィーちゃんとエイミアたんとリジーちゃんはあたしの好みだからってことは関係無いからねもしもひゅーちゃんに傷痕が残ったら連帯責任で鞭打ちの刑だからねでもあたしの趣味じゃないからな女王様とお呼びおほほほあらあたしって意外とそういうキャラなのかしらていうかていうかくどくどくどくどくどくどく」
……私達は全員、頭にたんこぶを作った状態で正座させられていた。
(……まだ終わらない?)
リジーの問いに私は首を振る。まだまだこんなモノじゃないんだから……。
(……途中突っ込みたい箇所が幾つかあったのですが……それはリファリスさんの思うつぼなのでしょうか?)
あったり〜!!
そんなことしたら、さらにリファリスの小言で文字数がカウントされます。
(文字数?? 何の事ですか?)
……? あら? 何で私そんなこと口走ったのかしら? 忘れてください。
「あなた達全員反省が足りません! よって罰として、私が汚泥内海の最奥まで同行致します!」
「「「「……はい?」」」」
あっちゃあ〜……そうきたか。
(サーチ? 何でリファリスさんが同行する事が罰なんですか?)
(……あんたらさっき何されたか忘れたの?)
(え……? ま、まさか……?)
(……一緒に寝ようって言われないことを祈りなさい……)
「ひ、ひええ……」
エイミアの顔が真っ青になった。周りを見てみると、ヴィーとリジーも同様の顔色になっている。
「うふふ。あはははは。みんな大変だな〜」
……一人だけリファリスの好み対象外認定されてるリルは気楽そうだ。エイミア、ヴィー、リジーからは恨めしそうな視線を向けられてるが、リルはどこ吹く風だ。
だけどそんなリルを見逃すほど、リファリスは甘くなかった。
「あ〜嫌われるのも悪くねえな〜あはははひゃあうっ!?」
リファリスは背後から近づき、リルの太ももを擦った。
「あら〜あらあらあら♪ リルちゃんの足って、とっっても綺麗ね♪ あたしのモロ好みだわ〜♪」
「あ、あ、あ……ひあああああああああっっ!!」
リルは猫なのに脱兎のごとく逃げていった。
「あっははははは! あ〜愉快愉快……あ、心配しなくてもちゃんと反省してるなら、本人が嫌がるような事はしないわよ。好みドンピシャな娘達に嫌われたくはないからさ」
そう言って私達にウィンクすると、再びヒュドラ……ひゅーちゃんの元へと歩いていった。
「あの……リファリスさんの言った事は本当?」
「そうよ。あの時に一切反省する素振りが見られなかったら…………本当にリファリスの餌食になってたわね」
リルを除いた三人はホッとしつつも「あ、危なかった……」と呟いた。
「それじゃリルは……」
「あはは………………生け贄確定」
「「「………………」」」
……全員でリルが逃げていった方向に手を合わせた。
合掌…………礼拝。
「……ていうかリファリス、ダンジョンの最奥って何のこと? ダンジョンコアがある神殿が最奥じゃないの?」
何となくリファリスの言動で気になっていた部分を聞くと、リファリスは目をまん丸にした。
「へ? あれで最奥だと思ってたの?」
リファリスは「やれやれ」と言いながら両手を開き、肩を竦めて首を振った。何かイラつくポーズね。
「いい?〝八つの絶望〟のある場所には、それぞれの属性を司る真竜がいるのは知ってるわよね?」
……………………ああ、いたわね。そんなのが。
すっかり忘れてたわ。
「………………あんた、忘れてたわね」
鋭い。
「……まあいいわ。で、魔王は何故か真竜が住んでいる近辺に〝八つの絶望〟を作ったのよ」
……たぶんソレイユのことだから真竜への嫌がらせだと思う。
「で、この汚泥内海は真竜の洞窟の途中までをダンジョン化したらしいの。だから真竜が眠っている最奥があるのよ」
「なるほど、そういう事か……でもさ、わざわざ私達が真竜に会いに行かなきゃならない理由はないんだけど?」
「え? あんた達ダンジョン攻略のために汚泥内海に来たんじゃないの?」
「そ、そうよ」
さすがに「世界の平和のためです! キリッ」とは言えないし……。
「なら奥の奥まで行っちゃわないと。ダンジョン走破もできるし、レベル上げにもなるし。おまけにあたしの御尊顔を長い間拝めるのよ」
「あーはいはい」
……ここまで来ても七冠の魔狼の手掛かりはない。となると……真竜のいる最奥に何かがある、と見た方がいいか……。
「……わかったわ、行く」
「なら、あたしが道案内してあげよう! 感謝するのじゃー」
「あーはいはい」
「……ねえ、エイミアちゃん。さーちゃんが冷たいんだけど……」
「は、はあ……」
「ヴィーとリジーもいいわね?」
「わかりました」
「さーいえっさー」
……リジーはどこで、ああいう返事を覚えてくるのかしら。マジで謎なんだけど……。
「あの……サーチぃ……」
「何よ……ってリファリス! エイミアにまとわりつかないの! 嫌われるぞ」
「えぇっ!? エイミアちゃん嫌わないでね。ね? ね?」
「わ、わかりましたよ」
「え? いいの? やりぃ!」
リファリスはさらに大胆にまとわりつく。
「ひあああ!」
「あーあ……ちょっと油断するとリファリスは図に乗るから」
「早く言ってくださいよおお!」
「……サーチはリファリスさんとは付き合いが長いのですよね? 何故まとわりつかれないのですか?」
「なぜって……私とリファリスは赤ちゃんの時からの付き合いよ。まとわりつかれるなんて程度じゃすまないことしてるわよ。一緒に風呂に入ったりするのもザラだったから、極端な話だけど、お互い身体中のホクロの位置まで知ってるわよ」
「うっわ生々しい……」
「何言ってんのよリル。あんたもそうなるのよ……今からね」
「ひえっ!?」
「……そうですね。私達に降りかかりつつあった不幸を喜んでいたリルには……当然の末路ですね」
「……リル姉は不幸になってしまえ。呪われてしまえ。よければ呪われアイテムを進呈する」
「リルぅぅぅ!! 代わってくださああああい!」
「そ、そんな……」
私はリファリスに耳打ちした。
(今度みんなで温泉に行けるように手配するからさ、しばらくリルにまとわりついて)
(マジか! わかった!)
リファリスはエイミアを解放し、リルににじり寄った。両手は当然ワキワキしている。
「な、何だよ……近づくな、近づくなよ……」
リルは髪の毛を逆立てつつ、後ずさる。
「リルちゃあん……可愛がってあ・げ・る(はあと)」
「い、いニャアアアアアアアアアア!!!」
リルはマジ泣きしながら逃げ出し。
リファリスはヨダレを拭いながら追いかけた。
「ま、リルの『素早さ』なら逃げ切れるでしょ」
「いえ。逃げ切れなくて結構です」
「『素早さ』をダウンさせる呪われアイテムもある」
「それリルに付けちゃいましょう……天罰です天罰」
……あんたらもねえ……。
結局進まなかった。