第十一話 ていうか、ダンジョンコアゴロゴロ♪
結局私が梯子を使わずに昇りきり、上からロープを垂らした。
「……いないわね、あの駄犬……」
ダンジョン内にも痕跡は一切なかった。ソレイユからの情報はガセネタだったのかしら……?
「……よいしょっと……ん? どうしたんだ、サーチ」
「ん? ん〜……七冠の魔狼の影も形もないな〜、と思って……」
「そうなんだよな……痕跡すらまったくないんだよな……」
あとはダンジョンコアのある神殿内だけ……か。
大きさ的に入れないだろうなあ……ていうか、ヒュドラもいない?
「リル、ヒュドラの痕跡もなかったの?」
「いや、それはあった。壁や天井に、ウロコ状の擦り傷がいくつかあったな」
……じゃあ……まだダンジョン内にいるっていうの……?
「ふう、ふう……昇りきりました〜!」
「これで全員昇った」
「……あれ、ヴィーは?」
「「え?」」
さっきまでいたのに……どこへ行ったのよ。
「私はここです」
「何だ、まだ下にいるんじゃない……何でまた戻ったのよ?」
「すみません、私はここで待っています」
「何でよ?」
「その神殿、ミスリルの匂いがプンプンします」
ミスリルぅ? あ、ホントだ。
この柱とか床材とか、全部じゃないけどミスリルが含まれてる。
「ていうか贅沢な神殿ね……もったいない。どんだけミスリルを混ぜ込んだのやら」
「ミスリル!? この神殿全体にミスリルがあるのか!!」
「ふわぁ……物凄い金額になりますよ……」
「呪われアイテム買い放題……」
……あんたらね、人の話を聞いてたのかしら。
「さっき言ったでしょ。柱や床材に混ぜ込んであるって。純粋なミスリルじゃなく単なる合金だから、価値なんかないに等しいわよ」
「え、え〜……」
だから「もったいない」って言ったでしょ。
「ヴィー、ミスリルの合金だけどムリ?」
「……できれば遠慮したいのですが……」
「……どのくらいのレベル?」
「……吸血鬼が十字架を前にジャンピング土下座して命乞いするレベルです」
わかりやすいな!
「わかったわ。じゃあヴィーはそこで見張りをお願い」
「わかりました」
さて……古代の邪教神殿の御開帳といきますか。
ギ……ギギギィ……
「あ、開いた……やっと開いたわ……」
これって数百年レベルで閉まりっぱなしよね……!?
「ホントにソレイユはここに来たのか? ホコリが……ケホ」
「きゃああ! 蜘蛛の巣が! 髪の毛に蜘蛛の巣があ!」
「クンクン……強烈な呪いの匂いがする……」
真っ暗なので無限の小箱からランプを出して火を灯す。
「……何あれ……いろいろといかがわしい絵が書いてあるわね……」
「ん? これは……おい、この絵、〝知識の創成〟じゃねえか?」
「……そうです。この絵は簡略化はされてますけど、間違いなく〝知識の創成〟を描いてます」
邪教神殿に〝知識の創成〟? よくわからないなあ……。
「あれ? 待ってください……この絵だと、中心にいなくちゃならないのは〝知識の創成〟のはずなのに……?」
「どうしたのよ」
「えっと……本来なら中心に〝知識の創成〟が描かれるはずの構図なんですけど……何故か十二天使の末席が中心に描かれてるんです」
はあ? 十二天使の末席?
……あれ? ちょっと待ってよ。確か十二天使の末席って……。
「……確か……〝真鉄〟よね?」
「そうです……あ」
……邪教神殿って。
「「「「……魔王様を祀ってたのね……」」」」
……そりゃ邪教認定されるわけだわ。
「……じゃあ、あのミスリルは……」
「モンスター達が寄ってこれないようにするためじゃないかな。たぶんこの神殿は、ヴィー達みたいな意思のあるモンスターが建てたんでしょうね。それを人間が占拠したんでしょ」
「んじゃ何か? モンスター達が苦労して建てた神殿を、人間が横取りしたってか?」
「……そうだと思われる。秘密の村で読んだ本にそのような記録があった。人間でも魔王様を尊敬する人がいたという事けど……神殿を奪いとるなんて最低」
いくら同じ信仰であっても、これはNGだわね……。
「……だからソレイユがダンジョン化して、人間が近寄れなくしたのかも……しれねえな」
「かもね。それよりもヴィーをあんまり待たせちゃ悪いから、チャッチャと神殿の中を調査して合流するわよ」
「「「はーい」」」
「……ホコリと蜘蛛の巣しかねえな」
「あるとしても、ダンジョンコアくらいしかなさそうです。そろそろ壊しますか?」
「あのねえ……あんたは私達の話を聞いてなかったの? ソレイユが人間の立ち入りを阻止するために設置したダンジョンコアでしょうが。壊したら元も子もないでしょう」
「あ、そうですね」
「でも物騒だよな……ダンジョンコアを守るためにいるはずの守護神がいないなんて」
「ソレイユがヒュドラ置いてったらしいけど……?」
……まあ遭遇したくないから、いないに越したことはない。
「他に探索してない場所あったっけ?」
「どうだろうなあ……なんせマッピングができねえからな……」
「ん〜……仕方ないか。地道にダンジョンを探索しよ」
食料はそれに見合う分は持ってきてるし。
「それしかねえな……はあ、一番選択したくねえ方法だな」
「どんまいどんまい。エイミア姉も行こう」
「はーい」
つるっ
「わっ! きゃあ!」
ずでえんっ!
……ゴロン
「何?」「何事?」「……ってエイミアがコケただけか……ってうわああああ!」
「何?」「何事? って、ぎゃああああ! ダンジョンコアがあああ!」
ゴロゴロゴロゴロ!
「何? ……ってダンジョンコアが転がっていく……」
「ヤバいヤバいヤバいいい! リル止めてえええ!」
「ダメだ間に合わねえええっ!」
ばきゃあん!
転がってったダンジョンコアが扉を破って外に出たあ!
あの先は……ヴィーのいる縦穴!!
「ヴィー! ≪怪力≫全開で受け止めてえええっ!」
ゴロゴロゴロゴロ!
『な、何があったんですか!?』
ゴロゴロずぽん!
『何か落ちてきへみゅ!』
ヴィーが潰れた!
ゴロゴロゴロゴロゴロンゴロン!
「待あああてえええっ!! リルはヴィーをお願いいい!」
「おうっ! しっかりしろヴィー!」
「きゅうぅ……」
ヴィー! 仇はとってあげるからね!
ゴロンゴロン! ゴロゴロゴロ!
「だりゃあああああ! よっし追いついた!」
けど……どうやって止めれば……?
ゴロゴロゴロゴロ! ひゅ〜……
「お、落ちた!? 待てえええ!」
……ていうか、しまった! 私まで落ちてどうするのよおおお!
「ぎいあああああぁぁぁぁぁ………………」
どぼーん!
……下が水で助かった……。
ダンジョンコアも滝壺にハマって止まったし……。
「……バカエイミア……覚えてなさいよ……!」
『………………おーい! サーチぃぃぃ………………』
あ、リルの声だ。
「リル、ここよ! 滝の下よお! 私もダンジョンコアも無事よ!」
『………………わかったああ! すぐに向かうぅ………………』
……ふう……助かった……。
グルルル……
「ん? 何の音……げ」
振り返った先には、ドラゴンの顔があった。
グルルル……
上からも音がしたので視線を向けると……ドラゴン。
グルルル……
反対からも聞こえたので振り返ったら……ドラゴン。
……こんだけドラゴンの顔があるってことは……。
「……ここでヒュドラっすか……」
ギャオオオオオ!!
……やべえ。