第九話 ていうか、教訓! 地属性のモンスターを甘くみると痛い目に遭います! あとエイミアを泣かせても痛い目に遭います!
次の日、準備を早々に整えた私達は、鈴条館を朝早くに立った。
ギルドで借りた貸し馬車に乗って二日程で、今回の目的地である〝八つの絶望〟の一つ、地の迷宮汚泥内海に到着する……予定。
汚泥内海。
さっきも言った通り〝八つの絶望〟の一つに数えられる、地属性の難関ダンジョンである。
ただし他の〝八つの絶望〟よりは、比較的難易度は低いとされていて「一番最初に攻略されるのは汚泥内海だろう」と言われていた。結局私達が獄炎谷を一番最初に攻略した(ことになっている)ため、その予想は外れたわけだが。
とはいえ汚泥内海も決して楽なダンジョンではない。名前通りにダンジョンのほとんどが汚泥で覆われているため、進むことも困難なのに……泥の中からバンバン地属性のモンスターが襲いかかってくる。しかも泥が流れることによってダンジョンの構造自体も変化してしまうため、マッピングも不可能。結果的に入口付近で諦めて帰ってしまう人が多いそうだ。
……逆に言えば、泥さえ何とかできれば攻略するのは簡単。その方法もヴィーのアイディアによって解決済み。
私達はかなり楽観的に汚泥内海へと馬車を進めていた。
……当然、そんな簡単にすむわけがないんだけど……。
道中に馬車に襲いかかってくる敵は、ゴブリンやらオークやらスライムやらとザコばかり。鼻歌まじりで撃退できた。
途中の戦闘で、エイミアのドラゴンローブの中にミニスライムが入り込み【いやん】されかかるという珍事もあったけど……笑い話になる程度。 私達にしては珍しいくらいに順調な旅となった。
「ここが……汚泥内海か……。マジで泥だらけだな……」
汚泥内海は内海全体が泥でできている海で、ダンジョン化しているのは内海にある島と島を繋ぐ洞窟だ。
「最終目的地は内海中央にある島の神殿よ」
「神殿!? 怪しいことこの上ないな」
「聞いた話だと、古代の邪教の総本山がここだったとか……。その神殿の中にある像にダンジョンコアが設置してあるって」
「? ヤケに詳しいな。攻略されてないはずだろ?」
「作った本人の情報だから間違いないわ」
「なるほど…………何かズルしてるような気分だな」
そう?
楽に攻略できるなら、それでいいじゃない。
「ああっ! 忘れてました!」
「どうしたの? エイミアだから、大したことじゃないと思うけど」
「聞き込みにいったギルドで『竜の牙折りのリーダーに出頭命令が出ている、と伝えるように』って言われてたんでした!」
「……どこのギルド?」
「……帝都ですんぎゃひん!」
「ばああああかああああもおおおおんんんんん!!! 何てことをしてくれたのよおおお!!」
「あ、あのサーチ? そこまで怒ることなんですか? エイミアが可哀想『ギロッ!!』ひいっ!」
「……いやあ……ことと次第によっては大変なことになるな……ギルド本部からの出頭命令を無視すると、かなりのペナルティを食らうから」
「ペナルティを?」
「ああ。ギルドからの除名は当たり前。下手したら莫大な罰金を背負わされて、一生借金取りに追いかけ回されるハメになる」
「えええっ!? そ、そんなああああ! だったら最初に言ってくれればよかったのにいいっ!」
「「学校で一番最初に散々言われたでしょ!?」ろうが!!」
「……そ、そうでしたっけ?」
「一番不真面目だったサーチが覚えてるくらいだから間違いない!」
「……ご、ごめんなさいい〜……びええええええっ!!」
…………まあ、最初からそんなヒドいことにはならないと……思う。事情を説明する機会は設けられるはずだから……その時にちゃんと説明すれば大丈夫でしょう。
……エイミアはこっぴどく叱られるだろうけど……それは「いい薬になる」ということで。
「そのことは後で考えるわ。じゃあ行くわよ!」
「「「おう!」」」
「びええっ!!」
「……≪聖火弾≫」
ゴオオオオッ!
お、おお!
ヴィーのアイディア通り、泥がカラカラに乾いたわ!
「これなら足を取られることもないわね。泥も乾いちゃえばただの土かあ……考えつかなかったわ」
ヴィーの存在感が増すばかりだわ。
「びえええええっ!!」
……エイミアの存在感も増すばかりだわ。
「おい……あんまり泣くなよ。声に反応してモンスターが寄ってくるだろ」
「びえっ? ……びええ」
「案外今の≪聖火弾≫で、モンスター全滅してるかもよ」
「……そんなわけないと思う」
「……リジーの言う通りだったわね」
ダンジョンに入ってしばらくは、何も出てこなかったんだけど……。
「囲まれましたね」
地面からモンスターが生えてくるわ生えてくるわ……。どうやら泥は乾いてもモンスターには影響はないらしい。
「地属性には火が効くはずなんですけど……あまり効果はないみたいです」
「たぶん≪聖火弾≫が迫った時に、地面に潜り込んでやり過ごしたんじゃないかな」
機転がきく連中ね……厄介な。
「地属性なら水も効果あるから……≪聖水弾≫で流してもらうか?」
「それやったら泥を乾かした意味がないじゃない!」
モンスターがゆっくりゆったり迫ってくる中、どう対処するかを言い合っていると……。
「びっえええっ!」
どかん! ばがん!
「エイミア!?」
「びええっ! びえびえびええええっ!」
ずどん! どがどがん!
エイミアの正義の棍棒が唸りをあげる!
「すげえ……一撃でコアまで破壊してるぜ」
地属性のモンスターを倒す場合は、身体の中にある「コア」と呼ばれる部位を破壊しないと、何回でも復活してくるのだ。
何せ地属性のモンスターはゴーレムとかマッドスライムとか……土や泥の塊ばっかだから、再生するための材料が有り余るこのダンジョンでは厄介なことこの上ない。
それを一撃でパッカンパッカン破壊していくのだ。マジで圧巻だ。
「びええっ! びええっ! びええええっ!」
……しかも泣きながら。
「……! サーチ姉、エイミア姉の頭……!」
え? 頭…………げっ!
「な、何あれ!? 角が伸びてる!」
「エイミアは鬼族とのハーフですよね? ならば興奮したことで≪鬼化≫が起きたのではないかと」
「≪鬼化≫!? 獣人の≪獣化≫みたいなもんか?」
「正にそれです」
「びええええええええええっ!」
どがどがどがあああん!
……つまりエイミアは泣くとパワーアップするのか……。
「……サーチ姉、今度からエイミア姉を泣かすのは気をつけたほうがいいかと」
……はい。
結局エイミア一人でダンジョン内のモンスターを壊滅させた。
エイミア、半端ないって……。