第七話 ていうか、世界の危機なんですけど、温泉を堪能してもいいですよね♪
「「「〝竹竿〟!?」」」
「うん……。あの技はA級冒険者〝竹竿〟の得意技に似てる……」
「お、お前知ってるのか!? ほとんど姿を見たヤツがいないもんだから、存在を疑われてるような冒険者だぞ!?」
「……私も直接会ったことはないわよ。マーシャンの話だととっくに亡くなってるらしいし」
「「「……はい?」」」
まだマーシャンがパーティにいた頃、私はある武芸者と成り行きで手合わせをすることになった。
その武芸者は近くに生えていた竹を一本切り出してきて、それを武器として構えた。私は≪偽物≫で短剣を二本作り出し、片方を逆手に持って……つまり本気モードだ。
そのまま三十分ほど激突し、結局引き分けということで別れたのだが……。
『いやいや感服したわい。〝竹竿〟の冴え、見事じゃったな』
『へっ、〝竹竿〟!? じゃあ、あの人がA級冒険者の!?』
『いや、違う違う。あやつは本人ではない』
『本人じゃない? なら二代目?』
『ウーム……おそらく弟子の一人じゃろう』
弟子……か。
『……満足のいく戦いだったけど……一度でいいから本人と戦ってみたいわね……』
『ああ、それは無理じゃな。本人な人間じゃったからの、既に逝去しておるわい』
『死んでるの!? ウッソだー! まだ冒険者登録されてるはずよ!』
『……うむ……先に誤解を解いておく。〝竹竿〟は初代の異名だと思われておるが、実は違う。あれは流派の名前じゃよ』
『流派の?』
『うむ……本人に聞いたから間違いない。そもそもこの流派では〝竹竿〟を先につけて名乗る習慣があってな……』
……あ、なるほど。
『もし私達がその流派に属していたとしたら、私は〝竹竿〟のサーチ、マーシャンも〝竹竿〟のマーシャンって名乗らなきゃならないってこと?』
『その通り』
じゃあ〝竹竿〟は無限増殖するだけじゃない!
『……それじゃあ……ギルドに登録されている〝竹竿〟は……』
『あちらこちらで〝竹竿〟が出現するから、正確な安否がわからなくなったのじゃろう。本人が名乗り出るまでは、放置する事にしたそうじゃよ』
「……だそうよ」
「そうだったのですか。一時期モンスターでも〝竹竿〟を名乗る者がいたので何故だろう? とは思っていたのですが……」
モンスターにも〝竹竿〟いるのかよ!
広がるのは友達の輪じゃなく〝竹竿〟の輪なのかよ!
「……どんだけいるんだよ、〝竹竿〟は……」
……さあ。
「どっちにしても、あの女将さんは〝竹竿〟を習っていたって事ですよね? 凄いじゃないですか!」
「ありがとうございます。そう言っていただけると幸いです」
……え?
「ってうわ!? いつの間に!?」
急に聞き慣れない声が話に割り込んできたなあ……と思っていたら、窓枠に女将さんが座ってるし!
「ど、どうやってここまで……?」
「あの竹竿を使いまして……」
女将さんの指差す先には、地面に突き立ったままの竹竿が揺れていた。
「……棒高跳びですか……」
「棒高跳び? いえ、≪竿高飛び≫です。〝竹竿〟の技の一つですよ」
技の名前はどうでもいいんだよ!
「でも納得したぜ……道理で女将さんの動きが洗練されてたワケだ……」
〝竹竿〟の極意は「竹を越える身体のしなやかさ」だとは聞いてたけど……。
「そういえば皆さん初代の話をされていましたね。主人の事に興味がおありですか?」
主人?
「えっと……文字通りの主人ですか? 旦那さんの方の主人ですか?」
「あら、失礼致しました。私の元旦那の事ですわ」
元……か。もう亡くなってるんだし。
「……すいませんでした。未亡人だとは知りませんでしたので……」
「ああ、気にしないでください。元とは言っても十二番目の主人ですから」
「「「「「十二番目ぇ!?」」」」」
「あ、あの……何回結婚されたんですか?」
「ウフフフ……」
また笑って誤魔化したよ!
「それでは失礼致しました……ごゆっくり……」
そう言うと、女将さんは落ちていった。
って、落ちていった!?
「ちょっと女将さん…………あれ?」
……いない……。
「……忍者かよ……」
「……ニンジャ?」
気にしないで。
リル、メモ用意しないで。
部屋風呂も魅力的だけど、温泉からやっぱり露天風呂♪
ということで。
「「いやっほううううっ!!」」
ざっぱあああん!
リルと私が最初に飛び込んだ。
え? はしたない?
スルーしてスルー!
「私は止めときま「ほいほいほいほい!」ちょっとおおおっ!!」
どぱああああん!!
遠慮しようとしていたエイミアを、リジーがムリヤリ湯船に放り込む。腹から行ったので相当痛かったんじゃないかな。
「……私は静かに入ります」
……ヴィーは空気を読まずにゆっくり入ってきた。
なので潜水して静かに近寄り……。
「ふう……きゃあ!! ぶべぶ! ごぼごぼごぼ……」
足をすくい上げた。
「ぶくぶくぶく……ぶはあっ! 何をするんですかサーチ!」
「こういう時はね、自ら飛び込むのが礼儀なのよ」
「そんな礼儀は知りません! そもそも風呂に飛び込む行為自体が非礼です!」
……ごもっとも。
「……誰もいないので問題ないと思われ」
「あ、そうだったわ。この露天風呂混浴だったわ。サッと温まってサッと出るわよ!」
「ええ〜……温泉ですからゆっくり入りたいです……」
「いいわよ。男の人に全部見られたければどうぞどうぞ」
「サッと入ります!」
わかればよろしい。
「ヴィーも……いいよね?」
「当たり前です。男の人に裸を見られたいと思う人なんて、絶対にいないでしょう」
「「「……サーチは該当する」」」
「おいっ! 人を露出狂みたいに言うな!」
「え゛っ」
……何よ、ヴィー。
「……自覚してなかったのですねはぐぅ!」
「どーいう意味よ! 殴るわよ!」
「イタタ……すでに殴ってますよ」
……流石モンスター。あんまり効いてない……。
ていうか、思い出した。
「話は変わるけど、鎧の使い心地はどう? サイズもピッタリだったよね」
「あ、はい。とても良いです。防具を装備するだけで随分と耐性も変わりますね」
帝都の防具屋で作ってもらった、竜のウロコ製の鎧。初心者用の革鎧と似たデザインにしてあるため、動き易さは抜群だ。
「何より通気性がいいですね」
通気性?
「胸の部分の切れ目から……」
あー……胸の谷間を風が通るのね。
「………………ちらっ」
「………………ギロッ」
……やっぱり……リルが睨んでた。
「……リル姉が着れば更に風通しがガッ」
「私が着れば……何だって?」
何でリジーはリルの地雷をバンバン踏むのかな……。
「……殺されるか死ぬか逝くか好きなのを選べ」
「全部一緒お……ふがっ」
「今の状況下でツッコミをいれられる元気があるんだな……ヒュドラの胃か七冠の魔狼の胃か、どちらかでもいいぞ?」
「遠慮します」
「……放っておいて……出ましょうか」
「そうですね」
「いいんですか? そろそろ男性陣が」
「「いいのいいの」」
私達が風呂上がりの牛乳や麦芽酒を堪能していた頃。
リルのモノと思われるけたたましい悲鳴が響いた。
合掌……礼拝。
毎度おなじみ温泉回。