閑話 ビキニアーマー紀行 2 巻き込まれた人
「特別な素材がいるな……」
“剛壁”ことアップリーズが幾つかの素材をあげる。
ドラゴン、不死鳥、ケルベロス、そしてフェンリル。
……。
何でそんなSクラスのモンスターばっか!?
「なん」
「なんでって言いたいんだろう?」
ま、まあそうだけど。
「君がいま装備しているビキニアーマーの素材。それは大王炎亀ですね」
こくん、と頷く。
間違いない。私が刈ってきた大王炎亀だ。
「硬さで言えば大王炎亀の甲羅はSクラスのモンスターの素材にも引けをとらない」
そうなのだ。
大王炎亀はBクラス。多少の炎を吐きかけるくらいしか攻撃はしてこないが、とにかく硬い。この硬さだけでBクラスにランクされているくらいだ。
「ただしなやかさには欠ける。そうなると……君の要望を叶えるにはSクラスのモンスターの素材しか無理だ」
うう……Sクラスの素材なんて……市場に出ることすら稀。
となると……。
「自分で……調達するしかないのね……」
「大丈夫だろう?君だけならともかく……Sランクパーティなら」
「……というわけでパーティ集合!」
宿屋に戻ってから連絡用魔道具「念話水晶」を使う。
『……しばらく自由行動って言い出したのサーチでしたよね?』
ちょうど風呂上がりだったエイミアが頭を拭きながら答える。
肩まで伸ばした金髪とさらにパワーアップした胸が揺れる。
『まったくだ。いま故郷に向かいだしたばかりだぜ』
こちらは野宿中らしいリル。後ろにブラッディベアーが何頭か置いてある。
焚き火に照らされるリルは一段とキレイになったものの胸は全く成長していない。
『あれ?マーシャとサーシャは?』
私はため息を吐いた。
「音信不通。いい加減念話水晶持ち歩く癖つけてほしいわ」
『……それじゃあ仕方ありませんね。私達だけで話を聞きましょう』
そう言いながら≪蓄電池≫の応用で髪を暖めて乾かす。
「……毎度思うけど便利ねー、その≪電子レンジ≫」
『……たまにサーチの発音に違和感を感じるのですが……』
鋭い。
『まあいい。間怠っこしいのはキライなんだ。ストレートに言ってくれ』
ブラッディベアーの肉を噛み千切りながらリルが叫んだ。
「……リル。あんたもさー。そんだけ綺麗なんだから少しは行儀良く……」
『あのなあ、万年裸族のサーチにだけは言われたくないな』
『それは私も同意します』
うっ、と言葉に詰まる。
……まあ、確かに全裸多いけど!
楽なんだからいいじゃない!
「い、いいじゃん! 別に人前で全裸でいるわけじゃ」
『『私達の前なら良い、てわけじゃない!!』』
……ごもっとも。
ああ、また話が逸れた。
『で、今回は何が標的だ?』
「ん〜、いろいろ候補はあったんだけど……一番近いとこのがいいかな」
『候補?どういうことですか?』
「まあそれはさておき」
急にジトーっとした目で睨んでくるエイミア。
『……サーチがそういう言い方する時ってろくなこと考えてないんですよね』
……エイミア、本当に鋭い。
『んで?一番近いのって一体何なんだ?』
「えーと、魔界門のケルベロス」
ぐほぉっ!
ぶぴーー!
リルが肉を、エイミアは飲んでいた果実酒を吐いた。
「きったないわね」
『は、はいーー!?』
『ケ、ケルベロスだとー!? 何を考えてやがる!?』
めちゃくちゃ動転し始める二人。
「落ち着きなさいよ。ドラゴンよりはマシじゃない」
『ふ、ふざけんな! 地獄門のケルベロスだろ!!』
『下手すれば≪嘆きの竜≫に匹敵するじゃないですか!』
まあ……ちょっと大変かな。
「仕方ないな〜……なら凶樹山脈の野良フェンリルで」
『の、野良フェンリルって……簡単に言ってくれますね……』
『まあ……地獄門のケルベロスに比べれば……まあ……』
よし、これで決まりね。
「じゃあ3日後にハギフィールドの近くにあるバンブー村に集合で」
『わかりましたわ』
『何か納得いかねえが……おーけーだ』
そう言って念話水晶の映像は途切れた。
「よし。これで素材は何とかなるわね」
魔道具の懐中時計で時間を確かめる。
「さて……明日には宿を引き払ってと……ふわぁ……」
そのままベッドに潜りこんだ。
その1週間後。
後に「狂気のフェンリル討伐」と呼ばれ、冒険者の間で語り継がれることになる大規模な戦い。
その目的がビキニアーマーの素材だったとは、あまり知られていない。
次回、新章です。
注!
嘆きの竜 ローレライ
最強クラスの竜。会ったら死ぬ。
地獄門のケルベロス
最強クラスのケルベロス。会ったら死ぬ。