第四話 ていうか、ヴィーはずっと普段着のままだったから、装備品を作る。
「しかしヒュドラが相手だと……少し装備を見直さないとね……」
「見直すんですか?」
「見直すんですね?」
「見直すのか?」
「見直す?」
「……何か予想できる展開だから止めましょう……」
「「「「はーい」」」」
……朝っぱらから何をやってるんだろ、私達……ていうか、昨日のうちに大体の買い出しも終わらせて、汚泥内海の最新情報も手に入れた。乗合馬車も都合がついた。
「だけど引っ掛かるのよね……ソレイユが放ったヒュドラの存在が……」
ヒュドラが相手だとブレス対策は絶対だ。それと炎系魔術も必要になってくる。
「炎系魔術ですか? 何故必要なんです?」
「ヒュドラを倒すには全ての頭を斬り落とす必要があるんですが、ただ斬っただけでは再生してしまうのです」
「そ。その対策は二つ。対ドラゴン用の猛毒を傷口に塗るか、傷口を焼くかね」
「あ、だから炎系魔術が……だったら大丈夫じゃないですか。サーチが≪毒生成≫で……」
「流石に毒の成分がわからないとムリよ。ドラゴンに効果がある毒なんて、ある意味伝説級よ……」
「……なら、リジーの≪火炎放射≫で……」
「無理。ヒュドラは完全にブレス系に耐性がある」
「え、えええ……なら無理いってマーシャンに出陣お願いしますか?」
……そうね……。
「……エイミアがバスタオル一枚巻いた姿でおねだりすれば……間違いなく飛んでくるわね」
「な、何でそうなるんですか! 嫌ですよ? 絶対嫌ですからね……! な、何ですか、その手は!? ちょ、待って! いやあああ!!」
「ん!? 何故かわからぬが、ワシにとっても良いことが起きる気がする!」
「……そんな事言ってないで、チャッチャとハンコ押してくだせえ」
「うううるさいぞオシャチ! わかっておるから待っておれい!」
「ぐす……びえええっ」
「……そんなにイヤ?」
「当たり前じゃないですかああああっっ!!」
マジギレされました。
頬っぺたに強烈なのいただきました。
「あの……私できますよ」
「……え? ヴィーが? タオル一枚で迫るの?」
「何でそうなるんですか! 私はモンスターですので魔術は使用できませんが、魔王様に教えていただいた聖術で炎系は使用できます」
ウソぉっ!? モンスターが聖術って……!!
「……ちなみにどのくらいの威力まで?」
「≪弾≫は一通り。炎系でしたら≪球≫まで」
うん、問題ナッシング!
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
「は、はい、こちらこそ……」
「……? 何じゃ? この意味のわからぬがっかり感は……」
「……あっしが慰めてあげやしょうか?」
「……別にいいわい」
「がーーーん!!」
「……あとは装備か……」
エイミアはドラゴンローブ装備だからブレス対策は完璧ね。
リルは……小手に竜のウロコが使ってあるし……暴走羊の毛皮ならある程度は炎に耐性があるから大丈夫か。
私は……いざとなったらミスリル製の盾を≪偽物≫で作っちゃえば無問題だし……。
「……問題は……リジーとヴィーね」
リジーはまだ鎧とか装備してるからいいけど……ヴィーなんてずっと普段着だしね。
「リジーの呪われコレクションにはブレスに耐性のあるモノはある?」
「…………………………」
「……リジー?」
「……一度整理してみる」
把握してないのかよ!
「今すぐ開始! 急げ! 走れ!」
「……はーい。急がないけど走る」
「逆よ! 『走らないけど急ぐ』よ!」
「……ボケをボケで返しただけ……では」
……つ、疲れる……。
「……だんだん掴み所がない性格になってきているとエイミアから聞きましたが、そうなんですか?」
……そうね……ルーデルと分離したばかりの頃とは別人だわ……。
「出自を聞いた限りですと、周りの影響を受けて人格を作り上げたと思われます。つまり……」
「……私達三人の性格が混ざると……ああなると?」
「……おそらく」
……はああ…………考えても仕方ないから、棚上げで。
「ヴィー自身は種族的な耐性ってある?」
「メドゥーサの耐性ですか? 蛇なので……氷系に弱いですね。あと毒は完全に無効にできます」
氷……! 氷かあ……!
「やっぱり装備品がいるわね……ヒュドラは吐けないブレスはないらしいから……」
「そう……ですね。何か考えないとマズいですね」
……とりあえず……防具屋に行ってみますか……。
「……ブレス対策って……ずいぶん気軽に言ってくれるじゃねえか……」
……ですよね〜……。
「完全に防ぎたいならドラゴンのウロコを大量に持ってきな」
「ありますが」
ドサドサドサ!
「はあっ!? 何でこんなに……!」
「まあいろいろありまして」
他にもいろいろあります。
……あ、そういえば。
「〝迷宮食らい〟の糸とかもあります」
「ちょ、超一級品ばかりじゃねえか…………これなら作れるぜ」
「……時間はどれくらい?」
「そうだな……普通で一週間、急いで三日」
「じゃあ明日の朝までに」
「はああっ!? な、何を無茶苦茶な事を言いやがる!!」
「金貨三枚」
「うぐ……!? ちょ、ちょっと待て」
「ヴィーのスリーサイズ計り放題」
「ちょっとサーチ!?」
「よしやってやる!」
「ちょっと防具屋!?」
「じゃあ前金で金貨二枚ね」
「毎度ありぃ!」
「露出は高めでお願いします……ぐぁ」
「まかせとけい……ぐぁ」
「…………二人とも…………」
「「す、すいません……」」
「……私のスリーサイズを計り放題とは……どういう事ですか?」
「…………だって……服を作るにしても鎧を作るにしても、身体のサイズを計らなくちゃダメじゃん」
「……あ、そうですね」
「うああっ! そうだったあ! 計り放題なんて言われて、ついせられてしまったああ!!」
どちらにせよ、計らなくちゃならないからね。
「あとごめんなさい、露出は控え目で」
「わ、わかった……」
一応防具屋にそう言うと、何故かヴィーが不思議そうな顔をしていた。
「え? 何故、露出度を控え目にする必要があるのですか?」
「「……え?」」
「露出が多ければ動き易いではありませんか」
……あ。
そういえば秘密の村の人達はみんな、ビキニアーマー肯定派だったっけ。
「わ、わかった……目一杯頑張って露出させる」
「はい、よろしくお願いします」
……まあ……本人が良いって言うんだから……いいか。
「……あの。突然関係の無い話になりますが……」
「ん? どした?」
「このベルトがなかなか興味深いのですが……」
ん? そ、それって……!
「おう、なかなかお目が高いな!それは高級蛇革のベルトだ!」
「……へ? 高級……蛇革?」
「あ、ああ。高級蛇革」
「……………………はう」
バッターーン!
「わっ!? どうしたお嬢さん!? しっかりしろ!おーい!」
……ヴィーにとっては自分の革みたいなモノだしねぇ……。
それから三日間ヴィーは寝込んでしまい、結局出発は遅れに遅れた。