表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/1883

第一話 ていうか、いきなりシリアスに始まる物語。

 わ…………我もここまで……か……。

 ふ……ふふふ……我が番が我に振り向いてくれることは……無かったな……。

 だが……我は……諦めぬ。

 例え我が身がただの獣に成り下がろうと…………我が誓いは曲げぬ。

 ………………。

 我が唯一、番と認めし女……サーチよ。

 我が元までたどり着いてみせよ。

 その時……我は……。

 我が誓いは…………。

 ………………。

 ………………。


『『『『『『『ウオオオオオオォォォォォォンンンン………………』』』』』』』



「……うわああ!」


 な、何いまの!?


「あ、あれ……? ゆ、夢……か……はああ……」


 ……す、すっげえリアルだった……。



 帝都から少し離れた場所にある宿場町。その一角にある旅館に宿泊した私達は、それぞれバイキング形式の朝ご飯を楽しんでいた。

 リルの反対側に座った私も、パンやら目玉焼きやらを目の前にしつつも、一向に湧かない食欲にため息をつくしかなかった。


「な、何なのよあれ……三つ首までだったら……単なるケルベロスよね……」


 だけど……夢のアレ(・・)は……。


「……四本の尻尾の先にそれぞれ頭が憑いてる(・・・・・・・・・・)って……すでに生き物じゃな」

 がちゃああん!

「うわびっくりした!! ど、どうしたのよ、リル……」


 リルは持っていたコーヒーカップを床に落としたまま、ブルブルと震えていた。


「……ホントにどうしたのよ……? リルらしくないわね」


「……お前……今なんて言った?」


 はあ?


「ホントにどうしたのよ、リルらしくないわね……とは言ったけど?」


「違う! もっと前! 独り言でブツブツ言ってたヤツだよ!」


「ん? ああ、七つ頭があるケルベロスのこと」

 パリィィン!

「……ってまた!? 今度は誰よ!」


 ヴィーだった。

 朝から被ったニット帽が怪しいことこの上ないけど、そのヴィーも野菜ジュースが入っていたコップを床に落としていた。


「な、七つ頭がある……ケルベロス……?」


 な、何なのよ、今日は? 私変なこと言ったっけ?


「見たのか!? ヤツを……見たんだな!?」


「イタタタタ!? ちょっとリル!?」


「答えろ!! 見たのか!?」


 リルの腕を強引に振りほどく。少しイラッとしたので語気も荒くなる。


「見たっつっても夢だよ!! 夢に出てきたケルベロスが何なのよっ!!」


「……間違い……ないのか……」


「リル。サーチは三冠の魔狼(ケルベロス)の刺青が身体にありましたよね? なら余計に影響があったのかもしれません」


「ああ、そうだな……そういやあサーチは三冠の魔狼(ケルベロス)の番だったな」


 私は認めた覚えはないけどね!

 ていうか……結局私の夢が何だってのよ?


「ねえ、そのケルベロスが夢に出ると何か起きるの?」


「はあ? お前、三冠の魔狼(ケルベロス)と繋がりがあるんだろ? 何も聞いてないのか?」


「いやいや、何も聞いてないどころか……会話した記憶すらないわね」


「……マジか……頼みのお前がその体たらくなのか……」


「だから……一体なんだってのよ? 誰か七つ首のケルベロス(・・・・・・・・・)のこと教えてよ!!」


「え? サーチは知らないんですか?」


 ……エイミアが知ってる!


「本当にサーチ姉の知識は偏り過ぎ」


 ……リジーも知ってる!


「じゃあ教えて! 知識をぎぶみー!!」


 エイミアとリジーが視線を合わせた時、ヴィーが進み出てくれた。


「……多分人間社会に伝わっている話よりは、詳しい事を伝えられると思いますので……私からお話します」


 そう言ってヴィーは三冠の魔狼(ケルベロス)の物語を語り始めた。



 三冠の魔狼(ケルベロス)には、元々頭が七つあった(・・・・・・・)と伝えられている。

 三つの頭がそれぞれの感情を司っているように、七つの頭にもそれぞれ司っているモノがあった。

 それは憤怒、怠惰、色欲、暴食、嫉妬、強欲、傲慢……所謂「七つの大罪」である。

 それぞれの大罪を司どるそれぞれの頭が、それぞれの大罪を犯して地獄に落ちた罪人を食らっていた。



「……あれね。地獄でウソつきの舌を抜く閻魔大王みたいなもんね」


 なーんだ。結構覚悟して聞いてたのに……単なるおとぎ話か……。


「……お前が言う『えんまだいおう』ってのが何か知らねえが……お前が考えてる以上の存在だぞ、七つ首のケルベロスは」


「あーはいはい……あれね。言うこと聞かない子供への脅し材料によく使われる……」


「バッカヤロオオオオォォォォッ!! そんなレベルじゃねえって言ってんだろうが!!」


 うわ! 耳が痛いぃぃっ!


「いいですか、サーチ。七つ首のケルベロスは架空の存在じゃありません。実在するんです(・・・・・・・)



 ある日、七つの頭同士で言い争いが起きた。

 どのような言い争いだったかは伝わっていないが、やがて争いは戦いへと発展していった。



「ていうかちょっと待って! 身体は一つで頭は七つなんでしょ!? どうやって戦ったのよ!? お互いに噛みつくくらいが関の山へぶぅ!!」


「……細かいことは気にせずに、話の続きを聞いてくださいね?」


 は、はい……。

 ていうか……ヴィーの≪怪力≫拳骨は……危険だと思う。頭が凹むかと思った……。



 どのような戦いだったかも伝わっていないが、その戦いで冥府の半分以上が焼け野原となったらしい。

 戦いの末に傲慢、強欲、色欲、暴食の四つの頭が姿を消した。

 そして憤怒、怠惰、嫉妬が残った。

 すると三つ首になったケルベロスは何を思ったのか、突然冥府の地獄門を蹴破って現世に現れた。

 そして好き放題に暴れた後に、現世側の地獄門の前で寝そべるようになったという……。



「……それが三冠の魔狼(ケルベロス)だと?」


「そうです。あなたが番となった相手が正に七つ首のケルベロスなのです」


 へぇ〜……あいつって結構スゴい経歴だったんだ……。


「……じゃあ私から七つ首同士の争いの繊細を聞けば……教えてもらえるかも」


「教えてくれると思いますよ……普段なら(・・・・)


 普段ならって?


「……もしも……人間の誰かが夢の中で七つ首のケルベロスを目撃すると……大変な事になります……」


「誰かって……誰でもってこと?」


「はい。この世に生きる人間全てです」


「なら……大変なことになるって……何が起きるの?」


「……詳しくは知らねぇ……何せ今まで起きたことがないからな……」


 エイミアとリジーが首を振る。二人も知らないらしい。

 ただ、ヴィーだけが……おもむろに口を開いた。


「ここから先は、魔王様だけがご存知だった事です」


 ソレイユ……だけが知っている……。


「人の夢に現れる……という事は、七つの頭のどれかが強烈な思念波を発している証なのだそうです」


 強烈な思念波……。


「……それだけ?」


 何も実害はなさそうな気が……。


「それだけの訳が無いじゃないですか!」


 さいですか。


「いいですか? それだけの思念波を発する、という事は……一つ以上の頭が目覚めようとしているんです!」


「あーなるほど。要は三冠の魔狼(ケルベロス)の残りの頭が目覚めて、完全な七つ首になるってことね?」


「そうです。それは世界の終焉を意味する(・・・・・・・・・・)んです」


 ……は?


「ちょっと待って。なんで七つ首に戻ることが、世界の終わりに直結するわけ?」


「……何故冥府の番犬であった三冠の魔狼(ケルベロス)が現世に存在できているのか……それが問題なんです」


 なぜ存在できるかって……確か三つ首の状態になった時に、現世に現れたって…………あ。


「完全な状態じゃない……三つ首の状態だから現世にいられる?」


「そうです。もしも現世にいる状態で(・・・・・・・・)完全な七つ首に戻る(・・・・・・・・・)と……」


「戻る……と?」


「ケルベロスかこの世界か……どちらかが耐えきれず(・・・・・・・・・・)に滅びる(・・・・)そうです」


 ……はあ!?


「ケルベロスじゃなくて……世界が壊れるっての!? あいつって、そこまでの存在なの!?」


「そこまでの存在なんです」


「……そんな……」


「だから七つ首のケルベロスは、ギルドで唯一のSSクラスに認定されているんです……」



 三冠の魔狼(ケルベロス)の真の姿。

 七つの狂える頭を持ち、七つの大罪を犯せし罪人を食らい尽くす地獄の番犬。



 SSクラスモンスター。

 〝七冠の魔狼〟(ディアボロス)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ