閑話 リファリス・リフター伯爵夫人…もとい女王様の憂鬱
「……ウフフ……可愛い子が三人も……ウフフ……」
念話水晶での連絡を終えた後、一人でほくそ笑んでいた。
最近は性癖が広く知られてしまい、警戒する人が増えてしまった為に……あたしの前に女の子が現れる率が格段に下がってしまった。
中には自分の娘を差し出してきて「どうか便宜を図っていただきたく……」とか抜かす馬鹿もいる。そういう場合は便宜を一切図らずに、娘だけ頂くようにしている。
「……リファリス様、ソサエト侯爵閣下の配下の方がお見えですが……」
そうして頂いた娘の一人、エリザがあたしに声をかけてきた。
エリザはこの屋敷に来てからはメイドとして仕えてくれていて、現在はメイド長を務めている。
頂いた女の子は何故か、あたしの家のメイドとして居座ることが多い。
「わかったわ……たぶん夕食までには戻るから、そのように準備しといて」
「畏まりました」
「……近いうちに皆を集めて夕食会をしましょうか」
「畏まりました。皆喜びます」
「段取りはエリザに任せるわ……じゃあ行くわ。あまりお客人を待たせるとソサエトの爺様がうるさいからね」
「そうですね」
ソサエト侯爵の配下……というより「パシり」と化しているミハエル坊やの案内で、帝都のある場所へと向かう。
「……何? あたしの顔に何かついてる?」
「え!? い、いえ、何でもありませんゴニョゴニョ……」
……何故ソサエトの爺様がこの坊やを、あたしの専属使者として遣うのか理解に苦しむ。まだ十代前半と若く経験の浅いこの坊やは、あたしを見る度に真っ赤になって口ごもってしまう。会話にもなりゃしない。
その事をエリザや屋敷の者達に話すと、全員生暖かい目であたしを見て「……リファリス様がリードしないと……」と忠告してくる。意味がわからない。
「あ、あの!」
「だから何?」
「ちちち近々、夕食会を開催されるそうで……」
「……そうよ」
また屋敷の誰かがミハエル坊やに喋ったわね。
「ぼ、ぼぼぼボクも……」
「来たければ来なさいよ。貴方に開かない門は我が家には無い、と何回言わせる気?」
「すすすいません! …………そそそれで……ボクは……は、はくはくはく」
……面倒ね。
「いつものようにあたしの隣に座りたいのでしょう? あたしの隣は貴方の為にいつでも空けてある、と何回言わせる気?」
「すいませんん!! じゃなかった、ありがとうございます!!」
エリザ達に言われなくても、ちゃんとリードしてあげてるわ。侯爵の使者としての待遇できちんと接しているわよ。
……だけど……「リファリス様はそちらの方面には疎いのですね」と言われる。メイドなのに主人に向かって失礼なことばかり言うのよね、ウチの屋敷の場合は。
「……私がですか?」
「うむ。そうなる公算が高い」
ミハエル坊やに案内されて着いた、改革派がよく秘密の会合を開くソサエト侯爵の別荘。
そこで爺様から言われたのが……。
「近いうちに保守派が蜂起する可能性がある。その場合はリフター伯爵夫人だけで処理してほしい」
「……私だけで? 何故?」
「軍を動かしたいのはやまやまなんじゃが……内部に間者がおるやもしれぬ」
「あら。間者の一人や二人、爺様が気になさるような事じゃありませんこと?」
「……その気色悪い喋り方は何とかならぬのか。普段通り話さんか」
「……気色悪いっていうのは聞き捨てならないわね……あたしだってTPOってモノがあるんだから。少しは貴族的対応にも慣れないとダメなのよ」
「はっはっは……お前からTPO等という言葉を聞く事になろうとはな」
「うるさい、クソジジイ! とにかく始末すればいいんだな?」
「そうじゃ。久々に暴れられるぞ?」
「……あのなあ……人を血に飢えた獣みたいな扱いしないでほしいな」
「何を言うとる。すでに極上の笑顔になっとろうが」
あら、本当に?
やっぱり血に飢えているのかしら?
爺様の予言が的中した。
分が悪くなった保守派の残党が帝都から脱出し、少し離れた山岳地帯にある砦を占拠したのだ。
現在帝都では革命が進行している為、軍が動くことができない。
「……つまり……あたしの殺り放題ってわけだよなあ! あは、あはははははははは!!」
あたしは普段のドレス姿のまま砦に歩み寄る。
『そこの婦人! ここは我等が正統性を示さんが為の戦場である! 今すぐに退去せよ!』
正統性だあ……? 争いに敗れて逃げ出した負け犬が偉そうに……! 懐から魔力充填式の手榴弾を取り出すと、返答代わりに数キロ先に投げた。
ドゴオオオン……
……命中。
……いいねいいね!
この焼け焦げた皮膚の匂い!
爆発に巻き込まれて死んだ兵士の無念の叫び!
そしてそして…………あちこちに飛び散る真っ赤な血液!
「あはははははは! やっぱりこれ最高だわ! あはははははは!」
あたしは愛用の三ツ又の短槍を取り出すと、くるくると振り回しながら叫んだ。
「あたしはリファリス・リフター伯爵夫人!!あたしの快楽に付き合える猛者はいないか! いないんだったら全員ぶち殺してやるよ♪ あっはははははははははは!!」
『お、おい! あれは〝逆刃〟じゃないのか!?』
『う、うわあああ! 勝てるわけがない、総員退避ぃぃぃぃぃっ!!』
逃がすわけないじゃないの……あはははは!
「閉門! 閉門ーーぅぐわ!?」
「門は閉める必要ないわよお……♪ あたしはもう……砦の中だから! あは、あはははははは!」
「ぎゃあ!」
「うがあっ!」
「た、助け……があああ!」
宙に舞う血、血、血……! とおおっても綺麗な光景だ……! あたしはこの絶景を求めて止まないんだ……!
「さあさあ! 仲間同士で血を流してちょうだい……≪女王の憂鬱≫」
「あ……が……あああああ!」
「あ、足元に線が……? ぎゃあ! な、何で仲間が襲って……ぐああ!」
「あはは! あたしの軍勢スキル≪女王の憂鬱≫はね、あたしを中心に広がったボードの上の人間を駒として自在に操れるのよ! こんな風にね!」
「あが! あががががが! ぐがっ」
「ほらね? ほらね? 自分で自分の首を斬り落としたりも出来るのよ……あっはははははは!」
「「「う、うあああああ!!!」」」
「さあて、あたしの兵士達……仲間の首を狩るのよぉ!!」
「や、やめろおおお!」
「手が! 手が勝手にぃぃぃ!」
「ぐぎゃあ!」
「あああああ!」
「く、くそお! 悪魔め! 悪魔めええええ!!」
「最高よ……最高の褒め言葉よ! ひゃはははははははははは!!!」
……お礼に槍の反対側についている錘で頭を叩き潰してあげた。
真っ赤な真っ赤な紅蓮の花火……♪ ふふふふふ……!
「「「お帰りなさいませ」」」
「あー面白かった……! エリザ、ギルドに依頼を出しといて」
「畏まりました。どのような?」
「山の砦にたーくさん生首が落ちてるから、全部集めてソサエトの爺様の屋敷に放り込んでって」
「はい」
「うふふ……今度はいつ快楽があるのかしら……ふふふふふ……」
「……今日はご機嫌みたいね」
「相当暴れられたんじゃない?」
「あ、あの」
「あら、ミハエル君どうしたの?」
「リフター伯爵夫人って……格好良いですよね……」
「「「何故そう変換できるの?」」」
「……やっぱりリファリス様の花婿になれるのはミハエル君だけね」
「ははは花婿!?」
「何をやってるの! 夕食会を始めるわよ! メイドの皆は集まりなさい!!」
「「「はーい」」」
「ミハエル坊やも早く来なさい! あたしの隣に座るんでしょ!」
「は、はい!」
明日から新章です。
ちなみに、リファリスの愛用の武器は…平たく言えばでっかい孫の手。