第二十五話 ていうか、革命が勃発、そして帝国の最後!
皇帝をまたメイド控え室に閉じ込める。だけど今回は何も抵抗することはなかった。
「……目が完全に死んでましたね……」
「当然の末路です。帝国など滅びてしまった方が良いんです」
いつもとは明らかに違うヴィー。
(ソレイユ、詳しく聞くつもりはないけど……ヴィーは帝国と何か因縁があるの?)
(ん……色々とね。かなり胸糞悪くなる話だから、本人が言う機会があったら聞いてあげて)
(……わかったわ)
なら……ここでの裁定はヴィーに任せて……私達は補助にまわろう。これがヴィーの一つの区切りとなるのなら……。
「まずは帝国の中枢を潰します。魔王様、サーチ、エイミア。協力してもらえますか?」
「ばっちこーい! って感じで待ってたよ。ならアタシが城の内部と……ついでに軍を制圧しとくね」
……ついでに、という感覚で軍を制圧できるんだ……。
「……じゃなくて! 近衛兵以外の兵士は、ソサエト侯爵が掌握してるはずだから制圧しなくていいから! ていうか制圧しちゃダメだから!」
「あ、そうなの? ちぇ」
残念がるな!
「……じゃあエイミアはスケルトン伯爵邸へ行って、皆と合流してバックアップと警備をお願い」
「わかりました!」
「あとは……ヴィー、帝国保守派の重要人物はどうする? 捕らえるか、始末するか……」
「……正直雑魚には興味ありません。いないならいないで何とでもなります」
「……ならできるだけ暗殺してくるわ。ついでに不正の証拠も集めてくる」
「……いいんですか? サーチに汚れ仕事を押し付けてしまう形になってしまいますが……」
私は「チッチッチッ」と指を揺らす。
「その汚れ仕事が私の本業だったのよ。ヴィーのために張り切ってるんだからさ、止めない止めない♪」
「サーチ……」
「じゃね……いよっとっ!」
少しだけ恥ずかしいセリフを残して、窓から飛び立った。
一時間後。
城はあっという間に制圧され、武装解除された兵士があちこちで拘束された。
帝国主流派であった保守派は何故か主要人物が動きを見せず、次第に混乱を見せ始めた。
その隙をやり手のソサエト侯爵が逃すはずもなく、次々と保守派は切り崩されていった。
何事もなく始まったはずの一日は、民衆に気づかれることなく事態は動き続け、夕方頃には……保守派と改革派の勢力図は、すっかり逆転していた。
異様に静かになった城に改革派の重鎮が集まったのは、数日後のことだった。
明日に迫った祝福の日に決行される革命についての最終確認だ。
あれから保守派はさらに勢力を弱めていった。改革派からの圧力に耐えきれなくなり、アプロース公爵を始めとした保守派残党は帝都から脱出して近くの砦に立て籠った。
軍を掌握しているソサエト侯爵がこちらにいる以上は、勝敗は明らかなんだけど……下手にぶつかって犠牲者を出すのは忍びない、ということで、保守派の残党への対策も議題となった。
「……ていうか、話し合う必要ないと思いますけど……」
何故か会議に出席するように言われて、結局巻き込まれた私。あまりにも進行しない会議に業を煮やし、思わず手を挙げてしまった。
「何か策があるのか?」
「策も何も……こういう時にうってつけの人物がいるじゃないですか」
ソレイユは表立って動けない。だけど帝国にはソレイユ並みに多数を圧倒できる人がいるのだ。
「……あ……リフター伯爵夫人か」
「ええ。リフター伯爵夫人……ていうか〝逆刃〟のリファリスに出陣してもらえば、一気に解決しますよ」
「あ、そうか。リフター伯爵夫人がいたな」
「彼女なら砦の一つや二つ問題なく潰せるな」
「歩く殺戮兵器だからなあ……彼女は……」
「見た目は可憐なのに恐ろしい事だ」
……後でリファリスにチクってやろ。
「しかしだな、誰が彼女に頼み込むのだ?」
「「「「「……あ……」」」」」
……全員静かになった。
「……皆さん……リファリスが苦手なんですか?」
「……あの笑い声を聞いたら誰でも距離を置くさ……」
「魂が磨り減るような声だからな……」
「一緒にいると首筋に刃物を当てられている気がするんだ……」
「寒気が……何故か寒気が……」
……絶対にチクってやろ。
「わかりました。私から話しておきます」
「よ、良いのか!?」
「ああ助かった!」
「また不整脈が酷くなるとこだったわい……」
「おお……ビキニアーマーを着た天使が……」
「……あの……」
……この人達、気づいてないのね……。
「あらあら、本人がいない時に随分な言い様ですわね」
ぴきいいいん
あ、貴族達が凍りついた。
たった今着いたばかりのリファリスことリフター伯爵夫人のこめかみに血管が浮かぶ。
「貴族の矜持を持ち合わせていらっしゃらないようで……困った方々ですね?」
リファリスは肩を竦めて言う。目は全然笑ってないけどね!
「そう言うな、リフター伯爵夫人。彼らも悪気があって言っているわけではない」
「あら、悪気が無いから余計に始末に悪い場合もありましてよ? 尤もソサエト侯爵の悪い癖は、悪気しか感じられませんが……」
ソサエト侯爵は「おお怖い」と呟きながら視線を逸らした。
「……もしかしてリファリスもやられたの?」
「……さーちゃんも?」
「ん……お尻を」
「あたしは胸だったわ……危うく殺しかけたけど」
……よく死ななかったわね。
「はっはっは! 儂の脳天に箸を突き立てたのは、後にも先にもリフター伯爵夫人くらいだろうて!」
箸を脳天……ってよく生きてたな!
「……さて、リフター伯爵夫人。行ってくれるかな?」
ちょっと! 話を流さないでくれる!?
「はいはい……ソサエト侯爵の仰せのままに」
そう大仰に答えて極端なまでに頭を下げ……リファリスは部屋から出ていった。
「……っていう、ちょっと待ってよ! すっっごく気になるんだけど! ねえったら!」
……結局私の疑問は無視された。
数日後、ソサエト侯爵の屋敷の庭に数百に及ぶ生首が放り込まれる事件が起きるが……犯人が誰かは言うまでもない。
そして翌日。
保守派という憂いが無くなった改革派は、誰に憚ることなく民衆を焚き付け。
帝国の終わりを告げる革命が勃発した。
すでに軍は民衆側に味方していたため、誰にも止められることもなく城内に侵入し。
なぜかキレイに縛られて転がされていた皇帝とその一族、そして近衛兵が捕らえられた。
そして引っ張り出された皇帝によって「勇者の血筋ではない」ことが発表され、永きに渡って民衆を欺いてきた罪を償う、として皇帝の退位が発表された。
こうして世界一の軍事力と、世界最古の歴史を誇ったランデイル帝国は……呆気なく滅亡した。
「……しっかし……こうやって街にいると……帝国って害悪でしかなかったんだな……」
帝国滅亡が決定的となって一ヶ月。
皇帝や保守派の貴族等の裁判が続くなか、何だかんだでズルズルと滞在するハメになり、ソサエト侯爵やリファリスにコキ使われた日々が続く。
「本当に……みんな活き活きしてますね」
リルの一言に、エイミアが感慨深げに返した。
「あ、向こうから歌も聞こえてきます……帝国の時代だとあり得ない光景ですね」
ヴィーも嬉しそうに目を細め。
「国敗れて讃歌あり」
リジーも上手いことを言う……て!?
「讃歌じゃなくて山河だから! ていうか、何でソレを知ってるのよ!?」
……まあ、何だかんだあったけど、私達は全員無事で、今回の事件を切り抜けた。
すぐに大事件が迫っていることも知らずに。
あと帝国始末記と閑話をはさんで新章です。