第二十四話 ていうか、いよいよ皇帝の断罪開始!
「いいわ、へヴィーナ。あなたが発言したいのなら許可します。存分にやってしまいなさい」
「……魔王様…………ありがとうございます」
そういうとヴィーは皇帝に向き直った。ヴィーの頭の蛇達は活発に動いて牙を剥く。
へヴィーナ自身の目も蛇のモノになり、手足の先にウロコが現れ……長い牙が口に生える。
その姿は、まさにモンスターだった。
「……ランデイル帝国第十七代皇帝……あなたに聞きたい事があります……」
「ひ、ひぃぃ!」
「……もしも何も答えなかったり……明らかに嘘を吐いた場合は……」
ヴィーの≪石化魔眼≫が発動し、皇帝の右手の親指だけ石化する。
「全身がその親指のようになります……そのおつもりで……」
「うぁ、うあああああ!!! わかった! わかったから殺さないでくれぇぇぇぇ!!」
……完全におちたわね。
「まず質問ですが……何故に魔王様に刃を向けようと思ったのですか?」
「は、ははい! 現在の帝国は……我の治世に刃向かう者ばかりで……税収が減り、我の贅沢にまで影響が出てきました。ですので……魔王……様を倒せば、再び我の思う通りになると……」
……ゲスね。
民のためでもなく、当然他の誰かのためではない。あくまで自分が贅沢したいがために……!
「……続けます。そもそも魔王様に勝てるつもりだったのですか?」
「わ、我は勇者の子孫……ならば帝国に伝わる聖剣を使えば、〝知識の創成〟の御加護によって討ち果たせると……」
神頼みっすか。
しかもあの〝知識の創成〟頼みかよ。
「……次です。なぜ魔王軍の内部に間謀を放ったのですか?」
「間謀!? し、知らん! 我は何も知らん!」
それを聞いたソレイユがニィィ……と笑った。
「知らないのねぇ〜? ホントに知らないのねぇ〜……嘘だったら腕一本貰っちゃうよ?」
「ひぃっ! よ、よよ良かろう! うう腕の一本くらいくれてやる! 我が知っていたと証明できるのならな!」
言質はとった……てヤツね。
「わかったわ〜♪ もし違ってたらアタシの腕をあげるわね」
「ま、魔王様!?」
「心配無用よ、へヴィーナ。アタシが信じられない?」
「そういうわけではありません! このような下賤な輩と自らを同列に並べるなんて……!」
あ、ヴィーが皇帝のことを下賤呼ばわりした。
「……アタシは負けないよ。絶対にね」
そう言ってソレイユは念話水晶を取り出した。
「…………もしもーし。聞こえる?」
『……は…………はい……はい、聞こえます』
「指示通りに貴族に会えた?」
『はい。もう捕らえてあります』
「お、行動早いね♪ ちょっとお願いがあるんだけど……」
『はい、何なりと』
「今からさ、皇帝陛下と会話してもらいたいんだけど、いいかな?」
『大丈夫です』
「じゃあ代わるね……はい、偉大な皇帝さん。証人よ」
「証人だと…………なっ!? 貴様は!?」
……おもいっきり動揺してるし……半分白状したようなもんね。
『お久しぶりですね、陛下。私は陛下から直接指示された通りに、魔王様の元で諜報活動を邁進していましたよ?』
ソレイユが念話水晶で会話し、皇帝と話すよう促した相手……それは秘密の村にエビルシャーマンに化けて潜り込んでいたエルフだった。
『私は純粋にモンスターの事を知りたかっただけでした。しかし陛下は私に間謀をするように強制した。そして……拒否したら……私の故郷を滅ぼすと……!』
「……ひどい」
エイミアの一言が周りに響いた。でもこの言葉は、皇帝を除いた全員が思っていることだ。
「……どうなの、偉大な皇帝さん。言い逃れはできないわよ?」
「ふざけるな! わ、我はこのような亜人は知らん! 全部捏造に決まっている!」
……ホントに往生際が悪い……。
「あっそ。じゃあ証人第二段ね〜♪」
すると念話水晶の中に、顔をあちこち腫らした貴族が出てきた。
「……スクード伯爵!? 何故?」
『……私は魔王の手先に捕らわれ……全てを話す事によって助命されました。私は陛下に命令され、このエルフを間謀として推薦しました! その後の連絡役にもなりました! これでいいのか!? これで私は助けてもらえるのだな!!』
「はいはい、約束は守るわよ……もういいわ、証言ありがとう」
そう言ってニッコリ笑うソレイユ。だけど目は笑っていないばかりか、汚物を見るような冷たい視線だった。
「う、うう……!」
「さて、これだけの証言が得られたんだから…………偉大な皇帝陛下が否定したところで通用しないわよ?」
「ち、違う! 違うんだ!」
「はい判決は有罪……へヴィーナ、執行」
「はい」
「が……うがあああああ!! 腕が! 我の腕が石に……ぎああああああ!!」
「……腕が石になったくらいでうるさいわねぇ……」
(サーチ)
(? ……なあに、ヴィー)
(痛いと思いますよ。わざと痛くなるように石化してますから)
(……グッジョブ)
(……へ?)
何でもないです。ヴィーには通じないわね。
「うぐうあああ! 痛い痛い痛いいいいい!」
「……うるさいわね……へヴィーナ、痛いのは止めて」
「はい」
「んぎいいい……は、はあ、はあ、はあ……」
皇帝は痛みから解放されると、石化した腕を抱えて座り込んだ…………げ、いろんな液体が流れ出てる……きったなあい……。
「……………………ぅぇ……」
「…………最低」
「………………………………ぅあ」
当たり前だけど…………全員ドン引き。
「…………さっさと終わらせましょう。見るに堪えません」
ヴィーは次の質問を始めた。
「あなたは自分が勇者の子孫だと言っていますが……本当ですか?」
「な、何度も言わせるな! 我が帝国は勇者の子孫たる我が統べる国ぞ!」
「だから……証拠は?」
「帝国に伝わる聖剣と王冠こそが確たる証拠ではないか!!」
「はあああ……ヴィー、その聖剣を貸して」
「この剣ですね……どうぞ」
ヴィーから渡された剣を持って何か呟くソレイユ。たぶん聖術だろう。
「…………ふうん、一応祝福がかかってるわね……効能は…………フムフム……ぶっ!」
熱心に調べていたソレイユは、突然吹き出して笑い始めた。
「あっはははははは! 最高! マジウケる……! ぶふふふ、あははははは!!」
「何? どしたの?」
「ははは、はあはあ……あーお腹痛い……! こ、これね、この剣ね、〝繁茂〟が作った〝癒しの緑剣〟よ!」
「癒しの……緑剣?」
「そう! この剣で斬るなり刺すなりすると……あーら不思議、逆に回復させるのよ」
「「「……はい?」」」
「だからね、どんな生物にもどんな大怪我でも……この剣を刺すと……!」
「回復しちゃうと?」
「そう! だからこの剣で戦うって事は……」
……普通に考えて……勝てるわけないわね。
「そ、そんな馬鹿な!」
「じゃあ実践♪」
ぶっすぅ!!
そう言ってソレイユは皇帝にぶっ刺した。
「いぎゃあああああ! いだいいだいいだいいい…………っ……あれ? 痛くない……」
「ほら、腕を見てみなさいよ」
「……な、治ってる………………な、何たる事だ……」
「あと王冠ね……皇帝陛下、被ってね」
ソレイユは〝覇者の王冠〟を皇帝の頭に載っけた。
「ぐ……ぐぉ……ぐごおおお!」
ごすっ!
あ、皇帝の頭が地面にめり込んだ。
「はい回復回復」
ソレイユは緑剣で皇帝をブスブス刺して回復させる。
「お、重い……! やはり我には無理だ……!」
「つまりあなたは勇者の子孫でも何でもないと。で、エイミア、被って」
「はい……ブカブカですね……って、あれ?」
明らかにエイミアの頭には大きすぎた王冠は、あっという間にエイミアにぴったりなサイズになった。
「あ、ジャストフィットしました」
「そ、そんな……では、お前は本当に……」
「そ。エイミアが勇者よ……元だけど」
……皇帝は、その場に崩れ落ちるように屈み……。
「…………我が非を……認める……」
……と呟いた。
この瞬間、ランデイル帝国の皇帝の権威は……潰えた。




