第二十三話 ていうか、ヴィーが皇帝陛下と対面。
『…………はい、リルだ……ってサーチか』
「もう伯爵邸に着いた?」
『ああ、とっくの昔にな。今はお茶飲んで寛いでるところだ』
余裕だな!
「……お茶飲んでるとこ悪いんだけど、一仕事頼める?」
『? ……何だよ』
「こっちにさぁ……〝覇者の王冠〟を持ってきてほしいのよ」
『はあ!? せっかく盗んできたヤツを持ってこいってか!?』
気持ちはよーくわかるから落ち着けい。
「別に盗んだ王冠を返すわけじゃないわよ。頭の悪いクソ皇帝を納得させたいだけ」
『クソ皇帝を納得って…………ああ、そういう事か……。確かに〝覇者の王冠〟ほどの確定的な証拠は無いわな』
「そういうこと。だから誰か持ってきてくれない?」
『あー、わかった。私が……』
『あ、ちょっと待って下さい』
リルが行く準備をしようとして立ち上がったところを、ヴィーに制止された。
『リル達は休憩中なんですからゆっくりしていて下さい。代わりに私が行きます』
「ヴィーが?」
あまり表に出たがらないヴィーが珍しいわね。
『はい。私も屋内に籠りっぱなしですので、少し気晴らしがしたいですし……』
ぐさっ!
「ごめんね、ヴィー……やっぱ警備ばっかり任せたのは負担だったのね……」
『そういうわけではないです! ああすいません私の言い方が……』
『落ち着けヴィー。サーチにからかわれてるぞ』
『え!?』
「ちょっとリル。言わないでよ、もう」
『お前とパーティ組んでれば、イヤでもわかるようになるさ』
『わ、私、からかわれてたんですか?』
マジメなヴィーはからかい甲斐があるわぁ〜。
『……どうしましょう。すごく恥ずかしい……と言うより悔しい……と言うよりムカつきますので石化していいですか?』
「良くない良くない! 謝るから止めて!」
さすがに仕返して石化はイヤすぎる!
『フフ……冗談ですよ。私もからかってみたんです』
そう言ってヴィーはペロリと小さな舌を出した。
「『………………』」
『?……どうしたんです?急に黙り込んで』
……私とリルはお互いの顔を見て、頷き合った。
「ヴィー、あんた……」
『その顔は人前でしたらダメだぜ……』
『……何故ですか?』
「『エイミアと同じ匂いがする』」
『え、嘘』
言われたヴィーは、自分の顔をペタペタ触り。
『私が……? エイミアみたいな……? ……え? え?』
顔が赤くなったり、身体をあちこち触ってみたり。混乱してるというか、困っているというか……。
「ヴィーって……エイミアを超える逸材かもしれない……」
これを意識してやっていたなら、マジで傾国の美女だわ……。
「え? へヴィーナが来るの?」
ヴィーが来ることを聞いたソレイユは、珍しく目を丸くしていた。かなり驚いているらしい。
「へヴィーナは人間が好きな割に、人間に会うのを嫌がる子だったのよ。どういう心境の変化なのかしら……」
「私達のパーティに加わったことが、何か影響してるんじゃない?」
「へ? パーティ加入?」
……あれ?
「もしかして、ソレイユは知らなかった? ヴィーは私達のパーティに加入したのよ」
「うっそおおお!? あの万年人見知りのヴィーが!? ってヴィー? いつの間に愛称まで……」
何かいろいろビックリしているソレイユ。これはこれで珍しい。
「……勝手に加入してマズかった?」
「んーん! んーん! 全然そんな事ない! それ以上に、村から連れ出してくれてありがとうだよ!」
連れ出してくれてありがとう……か。
「そんなに人間が好きなのに人見知りって……やっぱり頭の蛇を気にしてるのかしら?」
「そうねー……メドゥーサにしては蛇と仲悪いみたいだったし……帽子を被るわけにもいかないしね〜」
帽子……あ、それだ。
「ヴィーはいまニット帽を被ってるから、その影響か」
「ニット帽っ!? へヴィーナがニット帽っ!」
「うん。蛇をキンキンに冷やして冬眠させるヤツ」
「と、冬眠……成程、そういう手があったのか…………なら、同じ手を使えばいろいろ……?」
ソレイユが何やらブツブツと呟き始めた頃。
コンコン
「? 誰か来た……?」
「あ、へヴィーナよ。入りなさーい」
……すげえ……めちゃくちゃ早いな……。
「……はあはあはあ、失礼致します…………魔王様ご所望の〝覇者の王冠〟です」
「ありがと……って可愛いな! へヴィーナ、メチャクチャ可愛いな! 何よこの反則!!」
「あ、あの……? 魔王様……?」
「へヴィーナ、良い! あなた、とっても良いわ! 今度アタシとデートするからついてきてね♪」
「え!? えええ!? そんな、恐れ多い……!」
「あに言ってんのよ! これは命令よ! 魔王命令! 魔王命令は絶対なのよ!」
「はははいぃ! 承りました!」
「うんうん、わかればよろしへぶっ!」
「あんたはムリ言わないの! マーシャンと同じ趣味かよ!」
「イタタ……魔王の頭をど突いて、更にサーシャ・マーシャと同格に扱うなんて……! 屈辱だわ!」
ソレイユをど突いた私にびっくりしつつも、持ってきた〝覇者の王冠〟をエイミアに渡す。
「エイミア、どうぞ。但し相当重いですよ」
「は、はい…………って、あれ? 綿みたいに軽いですよ?」
それを聞いたヴィーは、私とソレイユを見やる。ソレイユは答えるように頷く。私もそれを見て奥のメイドさん控え室へ向かった。
ドアを開けて、押し込めてあった皇帝を引っ張り出す。
「ムー! ムー!」
パンツ一丁でぐるぐる巻きの猿ぐつわ姿。はっきり言って皇帝の威厳はカケラもない。
「!? 何ですか、このオーク擬き」
そう言ったヴィーは、ハッとなって口を押さえた。
「わ、私としたことが……オークさんと皇帝を同列に並べてしまいました……! オークさん達に何て失礼な事を……!」
「……ヴィー、別にいいんだけどさ……下手したら不敬罪で捕まるよ……」
「そうなんですか!? 気を付けます!」
「別にいいわよ〜。魔王のアタシが許可しまーす。皇帝はブタ以下確定で」
「はっ! 仰せのままに!」
……私達の中では珍しいマジメキャラだから、反応が新鮮で面白い……。
「ムー! ムー! ムウウウウウ!!」
「うっさいわね! ムームームームー、何が言いたいのよ!」
たぶん全力で抗議してるだけと思われ。
「猿ぐつわ取ったら?」
「じゃあ取りますよ〜……えい」
ぶちぶちっ
「いで! いでででで! き、貴様ああ、偽勇者の分際でええええっ!!」
「……まだそんなこと言ってるの……」
するとヴィーが皇帝に近寄った。
「…………あなたのような人を見ていると……私自身の人間への好感が薄れそうです」
「な、何だ貴様は!?」
するとヴィーはニット帽を自ら外した。
「…………ひぅ!」
「……ではあなたの断罪を始めましょうか……魔王様の手を煩わすのは心外ですが……」
何故かわからないけど……たぶん……ヴィーは怒ってる。