第二十二話 ていうか、いよいよ皇帝糾弾なんですけど……うーん……。
「……おっかしいな〜? ドアノブを触ったとこまでは覚えてるんだけどな〜?」
ソレイユは直にに目を覚ましたんだけど、何で自分が気絶したかまではわからないらしい。
そりゃそうか。普通ドアノブ触って雷級の静電気がパチン! とくるとは思わないからね……。
「ちょうど雷が落ちたみたいだったから……その影響じゃない?」
「そう? 外は雲一つない快晴だったけど?」
……そういえば見事な満月が三つ並んでたわね。
「じゃあエイミアの影響かしら? ≪避雷針≫っていう新しいスキルを覚えたから……」
「うぇ!? 私そむぐぐ」
(あんたは黙ってなさい!)
「避雷針ってことは……雷を引き寄せちゃうってこと!? 大変ねえ、エイミアも……」
「あ、あはは……」
……さっきのエイミアの新しいスキルの話は、決してウソではない。
ただエイミアが雷の直撃を受けると……大変なことになってしまうのだ。
超スーパーハイテンション状態になったエイミアは、理性はぶっ飛び記憶もぶっ飛び周りもぶっ飛び森までぶっ飛んだ。
以来、雷の気配がある場合はコースを変えたり等の配慮が必要になった……ちなみに、記憶がぶっ飛んでるので……雷が落ちてから暴走が終わるまでの間のことは何も覚えていないらしい。
「……何ならアタシが雷対策の魔道具を作ってあげようか?」
マジで!?
「お願い! あるなしじゃ大違いだわ! 旅中の制約が無くなるのは大歓迎!」
ある意味、満月を見せないように気をつけないといけない、野菜系の宇宙人みたいなモノだし。
「わかったわ。報酬として準備しとくわ……それで? 汚物はどこにいるのかな?」
「……あっちの部屋にパンツ一丁で転がしてあるわ」
「パンツ一丁!? うええ……そんなの見たくないよ〜……」
激しく同意するわ。
「……でも仕方ないか。じゃあ張り切っていくぞ〜!」
え!?
「ちょっと待って!? そのままでいいの? 前来てた魔王ファッションは……」
「……ああ、あれ? 暑いし重いしダサいし……良いこと何もないから、デュラハーンにあげた」
……何か嬉々として着込むデュラハーンが浮かんだ。
「あげた次の日に魔王ファッションで出勤してきた時は、流石にアタシも笑ったわよ〜」
ホントに大のお気に入りになってたよ!!
「大丈夫。多少は魔王っぽくするから……」
バサア!
そう言ってソレイユは、自身の〝真鉄〟の翼を広げ。
「……魔王降臨……てね! これだったら魔王っぽく見えないかな?」
……魔王というより大魔王と言ったほうがいいかも。ソレイユはニコニコ笑ってるけど……その笑顔はいつものではなく……獰猛な獣のモノに見えた。
その獰猛な獣を連れて皇帝の部屋に入ると……。
「帰る!」
ソレイユはいきなり子猫に成り下がった。
「ちょっとちょっと! 今帰られたら私達の苦労が水の泡じゃないの!」
「でもでも! 裸の皇帝見ちゃったら、やる気なんか失せて無くなるわよお!」
「気持ちはわかるけどね、私は素っ裸のクソ皇帝にパンツ履かせたのよ! その苦労をムダにするなら、私だって怒るからね!」
あれは心的外傷確定よ……!
「え゛、えええ!? ………………サーチ…………平気なの?」
「平気なわけあるかああああああ!! 私にはそんな特殊な趣味はなああああい!」
「サーチ! 静かにしないと起きちゃいますよ!」
「ふー! ふー! ふー…………ていうか、起こしちゃった方がよくない?」
「え!? ええ!? ちょっと待って! 心の準備が…………目を合わせたら抹殺しちゃいそうなのよね」
「抹殺はマズいですよ抹殺は!」
「いや、別にいいんだけどね」
「サーチまで!?」
「な、何だお前らは!?」
……ん?
「……あーあ。ソレイユ、気づいちゃったわよ……」
「げっ!? 下品! 不潔! 人外!! やっぱアタシ帰る!」
「ちょっとソレイユ! あんたが最後をシメるんでしょ!! ちゃんとやりなさいよ!」
「だああってえ!! まさか服も着てないおっさんトドが出てくるなんて、全然思わなかったのよ!」
「あー……私の中のトドのイメージが激しくダウンしました……」
「……ソレイユ……エイミアにまで心的外傷負わせちゃダメじゃない……これでエイミアは、トドを見るたびに裸の皇帝を思い出すのよ?」
「!!? ……サーチが言わなきゃ意識しなかったです……びえええええっ!」
「あらら、泣いちゃった……ダメじゃないソレイユ!」
「ちょっと! 今のはアタシじゃなくてサーチが原因でしょ!?」
「貴様らああああ! 皇帝を無視するなあああ!!!」
「うるせえのはテメエだコラア!! 砕くぞ、あぁ?」
「す、すいません……」
「……というわけで……泣かせた責任はやっぱりサーチだと思う!」
「…………恐喝してまで続けるような話じゃないわよ……」
……皇帝は部屋の隅でガクブルしていた。
「……もう腹括った! さあ、来なさい!」
ようやくソレイユがやる気になったけど……。
「おおおお前はなになになに何者なんだ!? わわわ私は栄えあるこここ皇帝っでゅわゲホゲホゲホ!」
……完全に勝敗は決していた。
「……アタシは魔王ソレイユ。貴様に言う事があって降臨した」
「ままま魔王!? ひゃああああ…………ん? 魔王?」
皇帝はなぜか「魔王」と聞いた途端に元気になった。
「魔王……魔王か! ふははははははは!! 我を誰だと思っておる!? 皇帝ぞ? ランデイル帝国の第十七代皇帝」
「はいはい、何が言いたいのかさっさとしてくれる? アタシは暇じゃないのよ」
「……良かろう。魔王ともあろう者が死に急ぐとはな」
「「「……は?」」」
か、勘違いしてるとは思ってたけど……まさか魔王様に勝てると本気で信じていたとは!
「見よ! これが我が国に伝わる聖剣! 我が祖先たる勇者が使っていた、魔王を斬り裂いたと言われる伝説の剣よ!」
「……ソレイユ、斬り裂かれたの?」
「いくら魔王だって斬り裂かれたら死ぬよっ!?」
でも魔王様は生きてます。
「結論、ニセモノ」
「な!?」
「そんなんですか?」
「ん〜……対して魔力は感じないし……ただの剣じゃない?」
「き、き、貴様あ! 許さん! 手打ちにしてくれる!」
「はいはい、かかってらっしゃい」
「うがあああ!」
……皇帝とは思えない叫び声をあげながら、剣を振り回す……ていうか、振り回されてる。
「うがあ!」
「ひょい」
「ぬがあ!」
「ほいっ」
「はあはあはあ……」
「体力ないな、おい!」
「うぬぅ……何故斬れぬ!?」
「……あんたが勇者の子孫じゃないからよ」
「は? ………………は……はははははは! な、何を言うか! 我に流れる血が偽物と言うか!」
「「「はい」」」
「な……! 何を根拠にそのような」
「証人、ソレイユ」
「……アタシが戦った勇者はエルフだった」
「あんたは人間でしょ? はい偽物決定〜」
「な……!?」
「何よりの証人、エイミア」
「はい……私が勇者です」
「な……!? お前が……勇者!?」
「元、ですけど……」
「証拠は……あなたも見てたはずよね? 闘技大会でエイミアが操っていた剣……あれが何かわかる?」
「ま、まさか……」
「そう、あれが本物の聖剣〝知識の聖剣〟よ」




