第二十一話 ていうか、おかしい。ソレイユが来ない!
『………………はいは〜〜い♪ ア・タ・シ・が! 可憐で清楚で超絶強いとウ・ワ・サ・の♪ 魔王ソレイユだよ〜〜〜ん!!』
………………。
ぶつんっ! つーっ、つーっ、つーっ……。
…………ピロロロロロロ♪
「……はい」
『ちょっと! 出たすぐに念話を切るってどういうことよ!』
「やかましいわ! 必死に皇帝のところまで来て念話したのに、あんなちゃらんぽらんな応答されたら誰だって叩き切るわ!」
『だからって……ん? 皇帝? …………もしかして、もう着いたの?』
「そうよ。だから念話し『あわわわわ! まだ何にも準備してないのだ〜!!』……おい」
今まで何をやってたんだよ!!
『こっちもね、いろいろあったのよ〜。あんのクソ駄犬が……』
駄犬?
『そうなの。あんたの三冠の魔狼がちょっかいをね……』
ダンナじゃねえよ。
ていうか三冠の魔狼のヤツ、一体何を企んでるの?
「その用件は急ぎなの?」
『大丈夫。大体は片付いたから後はデュラハーンに任せちゃう』
「そう。なら帝国には来れそう?」
『……一時間待って。それで決着をつけるから』
「わかったわ。それまでは何とかしとく」
『助かるわ〜♪ じゃね』
プツン
「……というわけよ。しばらくは皇帝の寝室で待ちね」
「……一時間ですか……どうやって持ちこたえるんですか?」
「そんなに難しくないわよ? 私達の目的は達成できてるわけだし」
「まあ……あとはソレイユが来れば終わりですもんね」
「そう。だから近衛兵に気づかれた場合は、この部屋に立てこもればいいのよ」
「ここにですか!?」
エイミアはドアと窓を確認して。
「すぐにぶち破られませんか?」
……窓はともかく、ドアは結構安普請なのよね……帝国が金欠だってのは本当らしい。
「大丈夫大丈夫。エイミアがドアと窓に静電気を纏わせる……とか。私がミスリル製の鉄板を≪偽物≫で作ってドアを補強……とか。一時間なら十分持ちこたえられるわ」
「な、なるほど……いろいろと手はあるんですね」
『おい、どうした!? 何があった!?』
『こっちにも倒れているぞ!』
……あらあら、早速気づかれちゃったか。
(……しばらくはやり過ごすわよ。このドアを開けようとしてきたら行動開始で)
(わかりました)
『……花瓶が割れてるが……争って割れたのか?』
『だがコイツらには外傷がほとんどない。争った形跡もないな……』
『う、ううん……』
『お、気がついたぞ……しっかりしろ! 何があったんだ?』
『イテテ……あ、クソ! 俺も気絶してたのか!?』
『俺もって……何があったんだ?』
意識が戻ったのは一番最後に気絶した近衛兵だったらしく、あの奇跡の連鎖について説明した。
『……本当か? と言うよりお前、正気か?』
『正気だよ! 俺だって信じられないけど本当なんだよ!』
……確かにあんな数学者スイッチを信じろ、と言われてもねぇ……。
『俺にも鎧が倒れてきたんだ……イテテ……』
『じゃあ侵入者というわけじゃないんだな?』
『違うよ。本当に奇跡の連鎖だよ』
……そう言われて納得した近衛兵達は、まだ気絶している兵士を担架に乗せて連れていった。
(……もう大丈夫ね)
こっそり物陰から兵士達を窺っていた私は、警戒を解いて部屋へ戻った。この調子なら一時間くらい大丈夫そうだ。
……とはならなかった。
コンコン
!?
『失礼します。交代の時間ですが』
(交代!?)
(あ! 奥で寝てたメイドさんじゃないですか?)
しまった!
まさか交代の時間が重なるなんて……!
『あの……? どうかされました?』
(どうしますか!?)
……今見つかるわけにはいかない……!
(エイミア! ドアノブに十万ボルト……じゃなくて≪蓄電池≫!)
(は、はい!)
(威力は弱めでお願い……)
バリバリバリ!
(……って遅かったか)
ギイ……ドタ
ドアが開くと同時に、頭を雷様みたいにしたメイドが倒れてきた。
(……生きてるわね……一応だけど)
……見事に真っ黒焦げになったメイドを奥の控え室に放り込んだ。
(……気絶するくらいで良かったんだけど……)
(ごめんなさい……)
……まあいいけどね。
……約一時間経過。
まだソレイユからの連絡はない。
(遅いわね。何を手こずってるのやら)
(まだ一時間経ったばかりですから……もう少し待ちましょうよ)
(わかったわ)
ピロロロロロ♪
あ、念話水晶に着信!
「はいはい、遅いわよソレイユ……ってあれ?」
『悪かったな、ソレイユじゃなくて』
何だ、リルか。
『……お前、今「何だ、リルか」って考えただろ?』
鋭い。
『顔に出過ぎなんだよ……それより、こっちは任務完了だぜ』
そう言ってリルは光り輝く王冠を見せてくれた。
「それが〝覇者の王冠〟? へえ……キレイ」
『だな。私みたいなガサツな女でもそう感じたよ』
!? 自覚あったんだ……。
『……お前……顔に出過ぎだって言ったばかりだろ……』
うぐっ!
ご、ごめんなさい。
『……たく……エイミアは?』
「はーい、ここにいます」
『後で被ってみてくれ。本物か確かめるには一番手っ取り早い』
「はい。戻ってからで良ければ」
『それでいいよ。サーチ、私達は一度伯爵邸に戻るが……何も手伝うことはないか?』
「大丈夫よ。私達も目的地には着いてるし、ソレイユに連絡済みだからあとは待つだけだし」
『そうか。じゃあな』
『必然的撤退』
プツン
「……リジーは何が言いたかったの……?」
「……とりあえず登場したかっただけでは?」
……かもね。
……さらに一時間。
「……遅い! マジで遅すぎるわ!」
「サーチ、声」
(……ごめん、ちょっと興奮した……ていうか、ソレイユは何をしてんのよ!)
(……確かに遅いですね……)
ソレイユは時間にルーズなタイプじゃなかったはずなんだけど……。
(……仕方ない。もう一度連絡してみるわ)
……。
…………。
………………。
……出ない!
(何で出ないのよ!)
(……ソレイユじゃなくデュラハーンに連絡してみては?)
……あ、そうね。
確か暴風回廊に据付けの念話水晶があったはず。
……。
…………。
………………『はい』
あ、ケンタウルスだ。
「お久しぶりです」
『あ、これはこれは……どうかなさいましたか?』
「ソレイユはいるかしら?」
『……は?』
「? ……あの、ソレイユに繋いでほしいんだけど……?」
『あの……魔王様でしたら……とっくに発たれました』
「……はい?」
念話水晶を切ったあと、私はエイミアを見て首を傾げる。
「……どういうこと?」
「普通に考えたら……到着してるはずですよね……」
「……私達以外にこの部屋に来たのは……交代のメイドくらい……」
「……交代の……メイド……?」
……ん!?
「「ま、まさか……」」
……案の定。
メイドの控え室には……変身が解けたソレイユが転がっていた。
「たぶん……私達を驚かそうとしたんでしょうね……」
何でこんな時間に交代? ……とは思ってたけど……こういうオチだったか。
……。
……これって……私達は悪くないわよね?