第十九話 ていうか、今度こそ敵の本拠地に潜入!
「ふわあああ…………」
「……何を関心してるのよ……」
「いえ、凄く高い壁だなあ、と思って……」
「当たり前でしょ。わざわざ低い壁を作って侵入しやすくしてやる必要性はないわ」
「た、確かに……」
「じゃあ私が壁を登るから、エイミアは見張ってて」
「はい……≪電糸網≫」
私達はスケルトン伯爵邸を出発したあと、城に着く直前に二手に別れた。
私とエイミアは裏門にまわり、壁伝いに内側に侵入。裏門の閂を外してエイミアを招き入れる作戦だ。
リルとリジーは表門近くの古い水道から侵入するそうだ。
え? 何でリル達と同じ方法を使わないのかって? 最初はそうしようと考えてたわよ。けど……。
『昔の水道ですか。場所によっては相当狭くなっているはずですが……エイミアの胸がつかえませんか?』
……とヴィーに言われて、検証してみた結果……。
『うぐぐぐぐぐ……ぬ、抜けませえん!!』
びりっ!
『きゃあ! 駄目です駄目です破れますうう!!』
……その通りでした。
だったら私について、屋根から侵入しようか、と誘ったら……。
『……ムリだろ』
『無理ですね』
『というより無謀』
全会一致で否決。
エイミア本人も自覚があるのか、何も反論しなかった。
『……でしたら、私も伯爵邸で警備を』
『『『『ダメ』』』』
『な、何でですか!』
ていうか……元勇者が来なきゃ意味ないのよ。
それに私以上に索敵範囲を広げられるエイミアの≪電糸網≫は、侵入する側にとっても非常に有用なのだ。
『心配しなくても私一人で大丈夫です。私にだって索敵するスキルはありますから』
……というわけで、私がエイミアをフォローしながら侵入する……ということになった。
(足音は極力出さないようにね)
(わかりました)
こんっ
ガチャアアン!
ずざざざざざざざざざっ!
……全速後退して周りを確認すると、数人の兵士が駆けつけてきた。
「何だった、今の音?」
「ああ〜、これだな……例の座りの悪い花瓶」
「これか。だから違う花瓶に替えろって言ったのに……」
「まったく人騒がせな……」
……兵士達はそんな愚痴を言い合いながら掃除をし、また巡回に戻っていった………………はああ、よかったあ…………。
(エイミア……)
(ごめんなさい〜……)
今回はたまたま座りの悪い花瓶だったからよかったけど……。
(ホントに気を引き締めてよ?)
(はい、気を付けます)
……勇者だったってのがホントに疑われるわ……。
(……この階段だわ)
フィリーの情報はかなり正確だ。A級パーティの一員だってのは伊達じゃないみたい。
(ここも巡回経路だそうだから、素早く行くわよ)
(はい!)
タタタタタ……
(……マジで足音を気を付けてね?)
(はい!)
ぶちっ
がらんごろんがらんごろんがらんごろんがらんごろん…………
ズダダダダダダダ! ずざあーっ!!
エイミアのベルトから水筒が外れて落ちてから、エイミアを押しつつ階段を駆け上がり、踊り場近くの物置へ滑り込んだ。
(……走る音は『がらんごろん』で誤魔化せたと思うけど……)
「……今度は何だ! 何があった!?」
「……上から水筒が転がってきました」
「水筒が? ……見せてみろ…………何だ、我が軍が正式採用してるヤツじゃないか……誰か落としたな」
「そういやヒロのヤツが、水筒をなくしたとか言って大騒ぎしてました……それではありませんか?」
「……たく……軍の支給品を何だと思ってるんだ……後から私から厳しく言っておく」
「わかりました。では水筒をお願いします」
「うむ……」
…………そのまま巡回に戻っていった…………うん、大丈夫。
(……たまたまエイミアの水筒が、帝国軍が使ってるのと同じで助かったわ……)
(ごめんなさい……)
(…………ほんっっっとに頼むわよ……あ〜心臓に悪……)
……エイミアのフォローができる自信が無くなってきた……。
(この廊下をまっすぐ行った突き当たりが皇帝の寝室よ)
(いよいよですね……ごく)
(当然巡回も多いし、皇帝や皇后といった重要人物の部屋の前には必ず近衛兵が立っているわ)
(……一番注意しなくちゃならないんですね……)
全身をぴっちりと被うエイミアの黒装束。ボディライン剥き出しなため、胸が揺れる揺れる……男性陣がいたら、さぞ目のやり場に困ったことだろう。
(……しゃべったり唾を飲み込んだりするだけで揺れる胸って一体……)
(? ……どうしたんですか?)
(何でもない! 行くわよ)
(あ、ちょっと! 待ってくださいよ〜……)
……気配を探りながら少しずつ進む。
角を少し行った辺りに、いくつか気配を感じる。たぶん近衛兵だろう。
(あの近衛兵を何とかしないと皇帝の寝室へ行くことは不可能……)
ここは手っ取り早く≪毒生成≫で痺れるタイプの毒を作って……あ、でもエイミアも痺れちゃうか……。
うーん、どうするか……。
ころんっ
ん?
(あ、あ、あ……)
エイミアの手から何か丸いモノが落ちて転がっていく……って!
(何やってんのよ!)
(ご、ごめんなさいぃ……)
ころころころ……こん
「ん? 何だ?」
最悪な展開キターーーーーーー!!!
(ああもう! とりあえず隠れるわよ!)
(は、はい)
柱の影に隠れる……っておい!
(エイミア! 胸が出てる胸が!)
(あ、すいません)
……柱から胸だけ突き出るのかよ……。
「ん? 何だこれ?」
ガッ!
「いてっ!」
あ、しゃがもうとしてデカい花瓶の角に頭ぶつけた。
「いてて……」
「おい! 危な『がっしゃああああん!』……おい、大丈夫か!?」
(倒れた花瓶に巻き込まれましたね……)
完全にノックアウトね。
「うぅ、これは酷い……わっ!?」
あ、エイミアが転がした丸いのをモロに踏んだ。
ずでんっっ!
「かっ…………がくっ」
あーあ、見事にすっ転んで気絶しちゃった……。
「……あいつら何をやってるんだよ……」
あら、更に奥にいた近衛兵まで来たよ。
「勝手に転んで勝手に気絶してるぞ」
「まったく……交代までまだ時間があるってのに……ん? 足に何か当たった?」
どうやらエイミアの丸いヤツを蹴飛ばしたらしい。
「それよりこいつら運ぶの手伝え」
「あ、ああ……うわっ!」
かーんん……
……屈んだ近衛兵の持ってた槍の先が、もう一人の頭にクリーンヒットした。
「お、すまん……っておおい!! お前まで気絶すんなよ!!」
あ、蹴飛ばされた丸いヤツが飾ってあった鎧に当たって……。
がらがらがっしゃああああんんん!
……また巻き込まれた。
(エイミア、ちょっと待ってて)
(わかりました)
慎重に近づいてみる……。
(……この人もノックアウトだ)
……奥を見てみると……誰もいない。
更に奥にも……気配はない。
(……何もしてないのに近衛兵が片付いちゃった……)
エイミアを手招きして呼び寄せる。
(あんたが落としたヤツで全員片付いたわよ)
(……何ですか、この変な奇跡……)
……さあ。
(でも……何かで見たような……あ!)
私の頭にあるメロディが流れる。
(……有名な数学者スイッチだ……)
(はい?)
(何でもないわ……それよりも)
これで道は拓けた。
(巡回が来る前に……最終目的地、皇帝の寝室……行くわよ!)
(おーう!)
ピタゴラ○イッチ♪