第十五話 ていうか、いよいよ本拠地に潜入…しようとしたら。
「旦那様!? どうしたのですか!? 一体何があったのですかあ!!」
全身に重度の打撲と複数の骨折、電撃によると思われる痛々しい火傷、おまけに1/3ほど石化しているという謎の状態で湯船の底に沈んでいるスケルトン伯爵を発見したのは、翌朝に風呂場の掃除にきた使用人によってであったらしい。
一晩お湯の中に沈んでいたのに、よく生きてたなあ……と感心させられた。
「見られた……見られちゃいました……男の人に裸を…………もうお嫁にいけません……」
スケルトン伯爵に全身を見られたのがよほどショックだったらしく、朝からずっとブツブツと呟き続けるヴィー。周りには黒い何かが漂っていた。
「ヴィー、そんなに気にすんな……。私とエイミアなんか何回見られたことか……」
「私を巻き込まないでくださあああい!!」
やや自虐的に慰めるリルと、過去を暴露されて泣くエイミア。
「それによ、ほぼ素っ裸で街中歩いてるヤツもいるんだからぎゃぐ!?」
「……だから人を巻き込むなっつーの」
強烈な蹴りをお尻に食らったリルは、お尻を擦りながら飛び回っていた。
「リジーとエイミアは街に出て情報収集ね。どれくらい不満が溜まってるかを探ってみて……あ、ちゃんと≪化かし騙し≫で外見は変えてよ」
「はい、わかりました! 私は貴族中心に話を聞いてきますね」
「わかった。エイミア姉は特に胸を偽装する。胸を小さくみせる。胸を胸を」
「胸を強調して言わなくてもいいですから!」
……ま、大丈夫でしょ。
「リルは保守派の貴族の警戒を。大会のときの騒動で弱体化してるらしいけど……一応警戒しないとマズいし」
「わかった。アプロース公爵を特に警戒しておくわ」
その方がいいわね。無能中の無能のアプロース公爵でも保守派のトップであることには間違いないし。
「ヴィーは引き続き伯爵邸の警備をお願い。侵入してきたヤツには一切容赦無用で」
「わかりました。スケルトン伯爵も一切容赦しませんけどよろしいですか?」
「…………………………ほどほどにね」
まだまだ許す気はないようで……蛇だけあって執念深いみたい。
「じゃあくれぐれも気をつけて!」
そう言って私達はそれぞれの目的地へ散会した。
「……流石に帝国の中枢だけあって、隙がない……」
夕方近くになって辺りが暗くなり始めた頃、何回か侵入を試みたけど……代わる代わる兵士が巡回してくるため、断念した。
「両方の派閥の密偵だけじゃなく……他国のもいるか……」
動きヅラいなあ……帝国の兵士だけじゃなく、他国の密偵にも気をつけなくちゃならないし……。
「……やれやれ……私にも監視がついたのかしら」
私の後方に気配が二つ……明らかに私を伺ってるわね……。
面倒なことになる前にっと。
ザザッ
「!? も、目標をロスト!!」
「何ぃ!? こんな近くにうぅっ!?」
「はーい、二人とも動かない……こめかみに針がぶっ刺さるわよ〜」
「は、速い……」
「あんた達がニブいのよ。ていうか、私を見張るならこの距離は近すぎね……武器を捨てなさい」
二人は言われた通りに剣を地面に放り投げた。
「そっちの女の人〜、胸の谷間に忍ばせた武器も出してね〜」
「!」
「ついでに太ももに巻き付けてあるナイフもね〜」
「!!」
「あとは腰の……下着の中にも針っぽいのがあるかな?」
「!!! ……な、何故わかる!?」
「そんだけぴっちぴちの服を着てれば、内側に何があるか丸わかりだっつーの!!」
「ああ、しまった! 動き易さを優先しすぎて、隠し武器のことを忘れてた!」
バカでしょこいつ!
「隠し武器も全部出してもらいましょうか」
「え! えええ!?」
? そんなに驚くことかしら?
「そ、そんな……お、男の目の前で……?」
……ああ、そうね。
胸の谷間に太ももに下着の中……見られて困る場所ばかりね……。
「男のあんたは目ぇ瞑って」
「え? あ、はい! 瞑ります瞑ります……」
「………………」
「………………」
「瞑ってますよ〜、瞑ってますよ〜」
……私は視線で「殺る?」と聞く。密偵の女は激しく頷いた。
どごっ! ごがん! メキメキメキ! ゴッゴッゴッ!
「うぎゃあああああ! ……がくっ」
薄目開けてるのが丸わかりなのよ!
「じゃあ心置きなくストリップしてね♪」
「心置きなく……という事は一切無いんですけど……仕方な……ちょっと!」
「ふんっ!」
ごがっ!
「ぐげ………………」
気絶した振りしてやがったのね……用心のために紐でぐるぐる巻きにし、さらに目隠しと猿ぐつわまで噛まして転がした。
「むぐーっ! むぐーっ!」
何よ、うるさいわね。
「あの……どうしようもないセクハラ野郎なんですけど……一応相棒ですので、口と鼻を塞ぐのは止めてください……」
あらそう? 粗大ゴミを始末してあげようと思ったのに。
この女、あちこちから暗器が出てくるわ出てくるわ……髪の毛からもワイヤーが出てくる始末。結局全部剥いたんだけど……二、三十個は出てきたかしら……。
「もうないの?」
「ありません! ホントにもうありません! 服を返してくださああい!」
「……なんか不安だから全裸で……」
「鬼ィィィィィ!!!」
「え゛? ギルド関係者?」
「そうですってば! 服の中に冒険者証が入ってますから!」
言われてから服を調べてみると……あった。
「え〜と……フィリー……C級かぁ……暗殺者で……げっ! A級パーティ『下弦の弓』!?」
若手No.1の超有名パーティじゃん!
「わかりましたか!? だから早く服を……」
「まだダーメ」
私より胸デカいから少しイジメちゃる。
「こっちのセクハラ野郎も?」
「そうです! うちのパーティの前衛のタクマです!」
前衛か……見た感じサムライかな。
「ふうん……で、何で私を見張ってたわけ?」
「あ、当たり前でしょう!? 偵察してたら、いきなりほぼ素っ裸の女性が乱入しひう!?」
「……人を変態みたいに言わないでくれる?」
少ーし首に当てていたナイフが食い込んだ。
「ごごごめんなさいい! 殺さないでえええ!」
「人を殺人鬼みたいに言わないでくれる?」
あ、ちょっぴり切れちゃった。ごめんね。
「だったら服を返してよおおおお!」
「それはダーメ」
まだ聞くことがあるからね。
「私のことは誰かわかってる?」
「え? 知らない……」
私は自分の冒険者証を見せる。
「え? あなたも冒険者? ……サーチって……じゃあ、あなた竜の牙折りの!?」
「ええ、リーダーだけど……」
「ギルド本部から連絡なかった? 私達のパーティがあなた達と組んで行動する手筈になってるんだけど」
「え? 何も連絡なんかないわよ?」
「そ、そんな!? 確かに巨乳の女の子に伝えたって……」
「…………………………巨乳の女の子?」
「ええ。金髪で可愛くて……そうそう、胸の部分が開いたドラゴンローブを着ていたと」
間違いなくエイミアじゃないの!
……速攻で服を返却し、ひたすら謝り倒した。
……エイミア……! 覚えてなさいよ……!