第十四話 ていうか、恒例の温泉回♪
リファリス・リフター伯爵夫人のいろんな意味で「あまりにも……」な過去にドン引きした一堂。
さらに「エイミアとヴィーは気に入られちゃった」という事実に、さらにさらに引きまくる一堂。
ていうか主に二人。
「…………き、今日はお開きにしましょうか…………ていうか、今から何かする気力は全くないし……」
全員力なく頷き……私の提案通りにお開きとなった。
「ねえスケルトン伯爵。帝都には温泉はないの?」
「……有る無しを語る以前に……我が家の風呂が温泉なのだがぐゎぐゎぐゎ!」
「温泉!? ホントに! 入っていい? 入っていい? ていうか入るから!」
「おいサーチ、スケルトン伯爵を離してやれよ。あんまりガクガクするから、アヒルみたいな声出してるぞ?」
え? ……あ、しまった。あまりの衝撃発言に、伯爵の襟首掴んでガックンガックンしちゃった。
「ぐゎぐゎぐゎ……が、はあはあ……。す、少し違う世界が見えかけたぞ……」
ご、ごめんなさい……。
「……は、入りたければ入るがいい。ただし源泉掛け流しだから、少し熱いかもしれぐゎぐゎぐゎ!」
「ホントに!? ホントに源泉掛け流しぃ!?」
「だからサーチ、止めてやれよ……」
「スゴおおおい! 自分の家にこんな広い風呂があるなんて! しかも源泉掛け流しよおおおっ!」
「あの、サーチ。嬉しいのはわかりますが……素っ裸で風呂の周りをグルグル回るのは止めませんか?」
「なあに言ってんのよ!! ヴィーも温泉でタオル巻くなんて、ヤボったいことはなしなし!」
バサッ
「きゃあ! もう……仕方無いですね……」
「きゃほー!」
私が温泉一番乗りぃぃ!!
どっぼおおおん!
「ぅあっちいいいいい!!」
「……水を混ぜないと熱くて入れないって、早く言って欲しかったわ……」
エイミアに薬草を塗ってもらい、改めて温泉に浸かる。火傷も即効で治るからありがたい。
「でも源泉掛け流しって聞いた時点で、想像しておくべきだったのでは?」
「う……」
言い返せない……。
まさかエイミアから、つっこみをいれられるとは……。
「エイミア姉。サーチ姉は温泉があれば、溶岩にだって飛び込むと思われ」
死ぬわっ!!
「否定はできねぇだろ。前は私達がサーチを温泉に誘ってたクチだったのに、今じゃ率先して飛んでいくからな」
……うぅ……言い返せない……。
「ま、気持ちはわかるけどな……こんだけ気持ち良いんだから〜……」
あ、リルが蕩けた。
背泳ぎをする要領で、温泉に浮かんで漂っている。
だけどどうしても胸の浮力が乏しいため、たまに沈む「ぶっ殺すぞてめぇ」……すすすいません。
「贅沢よ〜……贅沢過ぎるわよ〜……自宅に源泉掛け流しなんて……」
「何回も同じこと言わなくてもわかりましたから……でも本当に贅沢ですよね……」
ヴィーの頭の蛇も蕩けている。蛇って変温動物だから、あったまり過ぎるとよくないんじゃ……。
「あー……蛇も大人しくなって更に良い」
……そういうこともあるのね。なら逆にヴィーにはうってつけか。
「なあ、サーチ」
「はあ〜〜…………ん? なーにー?」
「……蕩けすぎだよ…………ちょっとリフター伯爵夫人について聞きたいんだけど」
「はにゃ〜〜……いいわよう〜〜……」
「………………」
ばしゃあ!
「いひゃあああ! な、何すんのよ!!」
リルのヤツ、頭に水をぶっかけやがった!
「いい加減に元に戻れ! お前がシャンとしないと話が進まないんだよ!」
はいはい、すいません。
「で? 何だったっけ?」
「おま……水ぶっかけて正解だったぜ……」
「悪かったわよ……で、何?」
「リフター伯爵夫人のことだよ。大丈夫なのか、あれ?」
あれって……あんた伯爵夫人に対して失礼よ。
「大丈夫よ。確かにリファリスは超大量虐殺者だけど、好きでやってるわけじゃないからね」
「おいおい、好きでやったわけじゃないって……好きでもなきゃ一つの国をぶっ潰すことはないだろ……」
あんたは冒険者のことをわかってないわね……。
「もしリファリスがあのまま逃げ出して行方を眩ませたなら……もう二度と冒険者としては復帰できないわ。『逃げただけの臆病者』というレッテルは一生ついてまわるわね」
「はあ!? まさか伯爵夫人が冒険者に復帰する可能性があるってのか!?」
「それは本人次第だけど……今リファリスが復帰するって言えば、どこのギルドも大歓迎でしょうね」
「た、大量虐殺者をか?」
「本人が好き好んで虐殺してるなら問題外だけど、リファリスの場合は復讐っていう理由があったでしょ? やられっ放しで済まさない分、逃げるよりはマシね」
「そ、そういうもんか?」
「リファリスの場合、復讐対象が国家という途方もない相手だった。しかも完遂した。戦闘目的の依頼ならリファリスは引く手あまたでしょうね」
「そうですね……確かに冒険者としての箔を付けるという意味では最高の材料ですね」
「ま、リファリスも貴族としての仕事もあるだろうから……そう気軽に復帰できないでしょうね」
そんな会話をしていると、何やら考え込んでいたエイミアが口を開いた。
「サーチ。今さらですけど……リファリスさんって強いんですよね?」
ホントに今さらね!
「そりゃあ……最年少でB級に昇格したくらいだから強いわよ」
「ですよね……」
「……それで、どうしたの」
「いえ、リファリスさんがそれだけの実力者なら……なぜ闘技大会に出なかったのかな〜と思いまして」
「確かに……国を潰せるくらいだから、〝刃先〟といい勝負ができると思われ」
ああ、そういうことか。
「ダメダメ。リファリスじゃ〝刃先〟の敵じゃないわね」
「は?」
「一対一なら私でも勝てるわよ」
「何故? 意味不明」
「リファリスはね、対集団戦のプロなのよ。逆に一対一じゃ真価を発揮できないわね」
「「「「……はい?」」」」
「ん〜……リファリスの戦い方については口では説明しにくいのよ……実際に目にしないと理解できないでしょうね……」
ちなみにリファリスは、「一対一に極端に弱い」っていう事が理由でA級になれなかったのだ。
「そうでしょうな。彼女の戦い方は独特です。全く型にはまらない動きは、私達には到底真似できるものではありません」
「…………………………ちょっと」
「何か?」
「……何でスケルトン伯爵が温泉に入ってるのよ」
「何故と言われても……自分の家の風呂だから、としか……」
「質問を変えるわ。何で私達と一緒に入ってるわけ?」
「混浴ですからふぎゃ!」
「そんな理由が通じるかああああ!」
「マジでぶっ殺していいよな?」
「……≪蓄電池≫をフルで開放していいですよね?」
「セクハラ許すまじ! 石化していいですね?」
「……killっていい?」
「……許可」
……一時間後。
……スケルトン伯爵は湯船に浮かんでいる。ただのしかばねのようだ。