第十一話 ていうか、今回はヴィーの視点の話メイン。
「遅いですね……」
「遅いです〜……」
「苦戦必死予想」
……リジーの言う通り、一筋縄ではいかないのでしょう……。
スケルトン伯爵に詳しく聞いてみると、ソサエト侯爵は勿論、リフター伯爵夫人も相当な曲者だとか……。
それに未確認情報ながら、二人は何かの武術を修めているらしい……とのこと。
「せめて詳しい情報を二人に伝えることが出来てれば……」
どこか一本抜けたようなスケルトン伯爵には、先手先手で物事を問い質さないと駄目なようです。
「あ……反応ありました。東側の廊下に三人」
エイミアが侵入者情報を教えてくれました。元勇者だという彼女の探知能力には、ただただ驚かされるばかりです。
「わかりました。私が……」
部屋を出ようとした私の肩を、リジーが押さえました。
「今度は私の番」
……そういえばそうでしたね。順番はリジーでした。
「ごめんなさい……お願いします」
「ん」
そう言って私の頭を撫でていくと、廊下へ飛び出していきました。身長も年齢も私が上なんですが……何故かリジーは私の頭をよく撫でます。正確には頭の蛇を撫でているのだと思います。蛇達は妙にリジーになついているんですよね……。
「ぎゃああ! この女強い……!」
「あちちち! この女火を吐いたぞ!?」
「うわああ! 呪われたあああ!!」
……しばらくして静かになりました。
「あの……呪剣士ですから≪呪われ斬≫は納得できますが……火を吐いたというのは?」
「リジーは火を吐けますよ。スキルで……≪火の息≫だったかな? 名前は忘れましたけど」
………………スキルで≪息≫系を覚えるのは、ドラゴンか一部のモンスターだけのはずなんですが……。
「でもサーチも≪毒の息≫とかできますよ。本人は毒霧だって言ってますけど」
……確かサーチさんには三冠の魔狼の刺青があったはず。たぶん加護を受けているんでしょうけど……それでも人間の身で≪毒の息≫を使えるのは凄いわ。
「……駆除完了。消し炭にして捨ててきた」
「え? 情報を聞き出すのではありませんでしたか?」
「あ……」
「………………」
「……てへ☆」
「……≪石化魔眼≫、但し足のみ」
カチン
「わっ!? ご、ごめんなさい〜……」
「これで二回目ですよ!? 一時間ほどそのままでいなさい!」
「……しゅん……」
……口で「しゅん」なんて言えるくらいですから、大丈夫ですね。
「ねえヴィー……私の髪の毛の石化、そろそろ解いてくださいよぅ……」
「まだ三十分も経ってません! ≪蓄電池≫で私を巻き込んだ報いは、たっっぷり受けていただきます!」
「そんなあ……びええ〜……」
泣いたって駄目です!
せっかく蛇達が寝ていたから、久々にポニーテールにしてたのに……! 電撃で蛇達起きちゃったんですからね!
「……あ、一人来ました。西側の三階です」
「今度は私ですね……」
少し鬱憤が溜まってますから、石にして粉々に……。
「……合図をしてます。たぶんサーチです」
「やっと戻ってきた……どうしたヴィー姉?」
「な、何でもないです……あははは……」
……このやるせなさは、何にぶつければいいのでしょう……。
「ごめ〜ん、遅くなったわ………………ってヴィー?」
「は、はい。何ですか?」
「目が血走ってるけど……どうしたの?」
「え? え? ……な、何でもないですよ! オホホホ……」
……モンスターの血がたぎってたみたいです。気を付けないと……。
「……ストレス解消するなら、蛇を蝶々結びにしてみるとか」
「「シャシャ!?」」
「…………そそんな、八つ当たりなんてしませんよ! 苛立たしいとしても蛇を千切ったりなんてしませんよ!」
「…………私、蛇千切れとまでは言ってないんだけど……」
はうあっ!?
「ちちち違います! 言葉のあやです!!」
「……まあいいけど。頭の蛇がめっちゃホッとしてるわよ」
……少しだけ本気で「千切ろうかな……」と考えたのを、蛇達も感じとったんでしょうね……。
「とりあえずOKもらえたわ。スケルトン伯爵の……ていうか私達の計画に沿って進めるって。連絡も任せろって」
連絡までしてくれるんですか! 一番の懸案でしたから助かります!
「後は決行するタイミングですね。何かいい切っ掛けになる日があればいいんですが……」
人がたくさん集まる行事のようなモノがあれば……。
「それなら最適なヤツがあるぜ!」
「あら、リルおかえり」
え!?
「い、いつの間に……?」
「わ、私の≪電糸網≫には反応無かったですよ!?」
「そう? 私はこの屋敷の前にリルが来た時に気づいたわよ」
サーチはどうやって察知してるんですか!?
「サーチは誤魔化せねえな……エイミアの≪電糸網≫は……注意さえすれば何とかなるんだよ」
「う、嘘ぉ……」
「そう悲観するもんでもないわよ? ≪電糸網≫を間近で何度も見てる私達だから、対策できるんだからさ」
「そう? 私にはさっぱりわからない……サーチ姉教えて」
「……リジーは除いてだけど」
「サーチ姉教えて」
「ダーメ! 自分で考えなさい」
「はーい……リル姉教えて」
自分で考えるんじゃなかったの!?
「さっきサーチが言っただろ!! こういうのは自分で考えて答えを出すことが重要なんだよ!!」
「…………はーい…………ヴィー姉教えて」
知りません!
何より私は加入したばかりで、わかる訳がありません!
「「だから自分で考えろ!!」」
「……で、話がかなり逸れたが……タイミングについてはリフター伯爵夫人にいい案があるそうだ」
「……まるでわかっていたかのようね」
「実際タイミングについては頭を悩ますだろうから……って、最初からそれだけ考えていたんだと」
……すごい深読みなのか……単なるあてずっぽうなのか……。
「……なんかリフター伯爵夫人もつっこみどころ満載みたいね……」
「ああそうだったよ! まさか同性が大好きな女性だとは思わなかったよ!」
あ、サーチが悪い笑顔になった。
「襲われなかった?」
あ、リルが空しい笑顔になった。
「……胸が小さい女は好みじゃないってさ……」
「そ、そう…………良かった……のよね?」
「……何だろうな……安心と引き換えに……何かを失った気がする……」
……言い寄られても困るでしょうけど……好みじゃないと言われるのも複雑ですね……。
「あの〜……リフター伯爵夫人の案は……?」
「あ、そうだったな……結行の日についてだが、この日が一番良いだろうって……」
そう言ってリルがカレンダーの「ある日」を指差した。
「「「「……何の日?」」」」
「……リフター伯爵夫人の誕生日だそうだ」
…………………………………………はい?