第三話 ていうか、帝国が私達にケンカを売ってきたので…草一本残さずに滅ぼしてやる!
ジロジロッ
ひそひそ……
ザワザワ……
「……何か?」
夕ご飯兼一杯を楽しんでいた私達を、いろんな視線が注目していることに気づいた私は、一応声をかけてみたんだけど……。
「「「………………」」」
全員に無言でスルーされ、一斉に視線を外した。
「ヒック……どうしたんですかサーチ?」
すっかり気に入ったらしく、ニット帽を被ったまま酒場へきたヴィー。かなり出来上がっている。
……まあ、街中で外すことはできないんだけど……。
「ん……なんかジロジロ見られてる気がしてさ……」
リルとリジーが顔を合わせてから、「やれやれ……」という顔をする。
「……何よ。言いたいことはハッキリいいなさいよ」
「……ビキニアーマーのサーチ。切れ込みばっちりで巨乳が強調されたエイミア。で、ほろ酔いでニット帽というわけのわからん属性を醸し出すヴィー。注目されねえわけないだろ」
「リル姉は否定するけど、リル姉の脚にも驚異的な視線あり」
「……リジー。お前も違った意味で注目されてるんだぞ?」
……確かに血染めの革鎧を装備したまんま座ってるリジー(しかも美少女)は、いろんな意味で目立ってるわね。
「……あ、そういうことか」
つまり、こんだけ目立つメンツが一つのテーブルに固まってれば……。
そりゃ目立つわな。
「ん〜……あんまり注目されたくないしねぇ……早めに切り上げて、旅館で飲み直そうか」
「「「「さんせ〜い」」」」
「私はアルカリ性……うふふふふ」
「………………ヴィー?」
「ついでに中性…………中世の時代に忠誠を誓う……うふふふふ」
「なんかヤバそうだから今すぐ退散ね」
「サーチ、ヴィーの右側を頼む」
「OK! リジーとエイミアで荷物お願い!」
「あ、何です? 何ですか? まさか私が酔っぱらってると言いたいのでしょうか?」
「違う違う……旅館に戻るだけよ。すいませんお勘定を」
「へ、へい。銀貨三枚と銅貨八枚です」
袋からお金を出して渡す。
「毎度……そっちの姉さんは大丈夫ですかい?」
「大丈夫じゃなさそうだから連れてくの! 酒癖悪いのよ」
「成程……お気をつけて」
そう言った店員が私の胸の谷間に指先を突っ込んだ。
「なっ!? スケベ…………ん?」
あれ……紙切れが突っ込んである……。
「それじゃありあとあしたー!」
結局スケベ店員を殴ることもできず、店から送り出された。
「……お前、何されたんだよ?」
「セクハラ。だけどワケありっぽいから……旅館に戻ってから相談しましょ」
私達は陽気に暴れるヴィーに手を焼きながら、旅館への帰路を急いだ。
戻る途中で、暴走しだしたヴィーが「メドゥーサヴィーム!! ……ヴィーだけに……うふふふふ」とか言って、冒険者や傭兵を石化させて大騒ぎになった。
……ヴィーはお酒禁止ね……。
「んぐお〜〜……」
≪石化魔眼≫の反動も重なって、旅館に着くなりヴィーが潰れた。
「……普段のヴィーを知っていると、信じられないくらいの乱れっぷりでしたね……」
あられもない姿で横たわるヴィー。頭の蛇がなければ、間違いなく襲われるな。
「胸をはだけて太ももをむき出しにして…………くそ、艶っぽいな」
リルに賛同。ビキニアーマー着てる私が並んでも負ける自信がある。
「……直しておいてあげましょ。朝起きたときに自分の格好を見てパニクられても困るから」
あちこち≪石化魔眼≫を発射されたら、たまったもんじゃない。
「わかりました」
「さてブラを直して……げっ! Eよ!」
「じゃあ私はお腹を…………ウソ!? 60切ってる!?」
「私は腰回り。うーん、安定の安産体型」
「あの……さっきから気になってたんですけど…………服装直す振りしてヴィーのサイズを計ってません?」
「「「気のせい気のせい」」」
これも仲間とのコミュニケーションよ。
「だからってヴィーに言っちゃダメよ。言ったりしたらエイミアのサイズも計るからね」
「何で脅しが!? 仲間とのコミュニケーションだったら、バレたっていいじゃないですかっ!?」
あ、忘れてた。
「メモを渡されてたんだった……」
「……サーチ……? 一体何をしてるんですか……?」
エイミア……自分の胸の谷間をまさぐる私を、痴女を見るような目で見ないでくれるかな?
「酒場で胸に……これを突っ込まれたのよ」
「えっ!? サーチの胸の谷間に突っ込んできたんですか!?」
「そうなのよ……とんでもないセクハラ野郎よね!!」
「あ、いえ。そこじゃなくて…………サーチが阻止する間もなく突っ込まれたんですよね?」
……そうだわ。
何で気づかなかったんだろう……。
セクハラ野郎の手の動きが見えていたのに何もできなかった。
「そう考えると……サーチより強いヤツだな」
くそ……あの一連の動きから気づけなかった……。
「間違いない……〝刃先〟だわ……」
たたんであったメモを広げた。
「……………………」
……………………。
「……? ……サーチ? どうしたんですか……ひえっ!!」
「エイミア? 何をやってんだ……うおぉ!?」
「二人ともどうしたの……わおっ! な、なるほど」
ふ……ふ……ふ……。
私もずいぶんとナメられたものね……。
「……サーチ?」
「……あら、エイミア。何か用かしら?」
「こ、怖い……」
エイミアはブルブル震えながら、リルの背後に隠れた。
「……何でそんなに不機嫌になってんだよ……」
「あら? 私なーんにも不機嫌になることなんかありませんよ?」
「お前がそういうしゃべり方してる時は、大体爆発寸前だろうが! そのメモに何が書いてあったんだよ?」
ニッコリと笑ってから、リルにメモを手渡した。
「だから怖いっての……ん? ……………………」
……リルの表情が消えた。
私が不機嫌になった理由がわかったでしょ?
「……リジー……見てみろ……」
「ん………………」
……リジーも表情が消えた。
「み、みんな怖いですよう…………」
(これ、エイミアには見せない方がいいんじゃない?)
(だな。私でも頭にきたぐらいだから……)
(流石にエイミア姉でも……これは……)
「……皆どうしたんですか?」
「「「何でもない何でもない」」」
〝刃先〟から渡されたメモに書いてあったのは、私達の指名手配の下書きだった。
内容は「闘技大会を台無しにした重罪人」といった感じなんだけど。
問題は、指名手配の理由。
簡単に言えば……。
「旋風の荒野を必死の攻防の末に帝国軍が陥落させたが、先日闘技大会を台無しにした重罪人共が再び帝国軍を妨害しやがった。結局惜しくも魔王を取り逃がした。だから私達を生死問わず捕まえてちょうだい」
……という感じ。
これだけでもつっこみどころ満載なのに……。
「凶悪犯達の特徴」
……これが……ヒドい。
私達がそろって不機嫌になった理由がこれ。
え? 内容を教えろ?
…………(存在を)消すよ?
ただ……エイミアのが一番ヒドかった、とだけ言っておく。
「な、な、何ですかこれええええええ!?」
「わっ!? な、何でエイミアがメモを見てるのよ!?」
「何でって……正義の棍棒振り回しながら迫ってきたら、命の危険を感じるだろが!」
……まあ命かけてまで守るモノでもない。
「……ぜっったいに許さない……」
バリ……バリバリ……
「エイミア。すぐに外に行きなさい」
「……何でですか?」
「少し上の坂から城が見えるから、好きなだけ雷を落としてきなさい。徹底的に」
「……わかりました」
……今回のことで、よーくわかった。
帝国は……滅ぼさないとダメだ。
夜。
なぜか城に徹底的に落雷が起きて大騒ぎになったが……。
原因は不明である。