第二話 ていうか、ヴィーにだって悩みはある。だから呪われアイテムで解決♪
ヴィーが加入してから、旅が非常に楽になりました。
例、一。
「ここって野営するには最高の場所なんだけど……」
「この岩がどうにかなんねえかな……」
今夜の寝床を探してウロウロしてるんだけど……。
見晴らし良し! 川近し! しかも絶妙な木陰! という感じでいい場所があった。
あったんだけど……。
「……ホントに絶妙な位置にある岩ね……」
私達では到底動かせない岩が、ど真ん中に鎮座しているのだ。
「仕方ない……ちょっとテントが斜めになるけど、岩の周りで野営しようか」
「サーチ、この岩が邪魔なんですね?」
岩を抱え込むヴィー。ま、まさか……。
「ほいっ」
ずぼっ
「うそおっ!!」
「えいっ」
ぶん
ひゅうううん……ずっどおおん!
「す、すげえ……」
「これで良かったですか?」
手をパンパンと叩きながら、ヴィーがニッコリ微笑んだ。
「す、すげえ……流石≪馬鹿力≫……あ」
リル! それは禁句……!
「削ぎ落としてしまえ」
「ヴィー!?」
ヴィー……それは間違ってるよ。リルにはそもそも削ぎ落とすモノが「お前のを削ぎ落としてやろうか?」……すいませんすいませんごめんなさい。
例、二。
「おい、命が惜しかったら大人しくしてろよ?」
次の日の朝。
私達のテントの周りは、数十人の盗賊に囲まれていた。
「エ・イ・ミ・ア〜! 何であんたはキチンと見張りしてないのよ!!」
「す、すいません……疲れて寝ちゃったんでみょーーーーんんんっ!!」
「今度やったら倍伸ばすからね!」
「はひ……びええええええええっ!!」
「お、お前ら緊張感ないのかよ! 大人しくしろって言ってるだろ!」
「「うるさい! 少し黙ってて!!」」
「すいません……」
これだけ囲まれてると戦いにくいなあ……ここはエイミアの≪蓄電池≫でふっ飛ばして……。
「おはようございます……って、この方は一体……?」
「あ、ヴィーおはよ。朝起きたらすっかり囲まれてたのよ」
「え゛……み、見張りは?」
「「寝てた」」
「すいません……」
「仕方ないですね……私がやりましょう」
そういってヴィーが前に出る……ってちょっと!?
「お、おい……メドゥーサじゃねえか、あれ?」
「マ、マズくねえか?」
「……≪石化魔眼≫」
かちん! かちん!
ヴィーの魔眼で、大半が石化する。
「……蛇さんゴー!」
「「「シャシャア!」」」
頭の蛇が伸びていって、石化した盗賊達に巻きつき……。
ピキピキ……めきっ! ガラガラ……
……砕いた。
早い。戦闘開始から三十秒も経たないうちに、盗賊の八割を壊滅っすか。
「はあ〜……疲れた。後はお願いします……ぐう」
ばったーん
「「「ヴィー!?」」」
急にぶっ倒れたんですけど、何事!?
「お、おい! メドゥーサが倒れた今がチャンスだ!」
「よ、よし! 一気に倒すぞ!」
「「おおー!」」
……ふん。これぐらいの人数なら楽勝よ!
「リル! エイミア! いくよ!」
「おう!」「わかりました!」
ザシュ! ドカ! ばごーん!
「ぐはあ! こ、こいつら強い……!」
「仕方ねえ! 撤退! 撤退ー!」
逃がすかあ!
「……≪呪われ斬≫」
ザンザンザン!!
どさどさ……
「……戻って来たら盗賊がいたから全員斬ったけど……良かった?」
「「「ナーイス! リジー!」」」
……というわけで大活躍のヴィー。
ただ、ヴィー達メドゥーサには致命的な弱点もある。
その一つが、魔眼を使いすぎると猛烈な眠気に襲われること。さっきぶっ倒れたのが正にそれ。
そして、二つ目。
これがとっっても厄介なのだ……。
「……もうすぐ町ですか……」
「今回もサラシでぐるぐる巻きにする?」
「そうするしかないです……あとは蛇達がジッとしてることを祈るしかないですね……」
「それぞれの蛇に意思があるのも考えモノね……いっそのこと、蛇を全部眠らせるとか?」
「不可能かと。もし眠り薬を嗅がせたとしても、蛇だけではなく本体にも影響がでます」
蛇達も一斉に頷く。
「……蛇達! あんた達の問題なのよ! 少しはマジメに考えなさい!」
「「「シャシャ!? シャアアア!! シャシャシャシャシャアアア!!」」」
……?
……赤い彗星がいっぱい降ってくるのかな?
「すごくマジメだ、と言ってます」
シャアの数と内容が伴ってないい!
「じゃあヴィーが街中歩いてる時くらいはジッとしてなさい!」
……蛇がアチコチに視線を逸らす……おい!
「マジメじゃなかったのかしら!?」
「シャアアアシャシャ」「シャシャ」「シャアアア!!」「シャッシャシャシャ」「シャシャ」
「……何を言いたいの?」
「ぶっちゃけ全員言い訳です」
ダメじゃん!
「つまり……ヴィーには一切協力できないって言いたいわけ……?」
「シャシャ」「シャアアア」「シャッシャ」「シャ」「シャ!」「シャシャシャア」
「……また言い訳の嵐?」
「はい」
「ふぅぅ………………………………リル、エイミアとヴィーをお願いできる?」
「あっ? ……ああ、わかった」
「リジー、ちょっと手伝って」
「何を?」
「帝都で探しモノ。リジーじゃないとダメなのよ」
「……へ?」
「ほらほら、時間がないんだからとっとと行くわよ! ソレイユだっていつまでも待ってはくれないんだから!」
「わかった……少し準備」
「準備必要ないから! ほらほら行くよー」
「きゃーーサーチ姉の人さらいーー」
「あんまりゴネるなら、素っ裸に剥いて帝都に放り出すわよ!」
「すいませんすいません冗談でした」
「過去形かよ……」
「サーチは何を探しに行ったのでしょうか?」
「リジーを連れてったのが、何か引っ掛かるんだよな……」
「……ん! 二人ほど私の≪電糸網≫に反応しました。たぶんサーチとリジーです」
「ようやく戻ってきたか……」
「?? ……あの……何故二人が近くにいる事がわかったんですか?」
「…………説明ならサーチから聞いてくれ。私にはよくわからん」
「エイミアに聞けば早いのでは……?」
「聞いてどうにかなると思うか? エイミアだぞ?」
「………………」
「リル……私をどこまでこき下ろすんですか!?」
「こき下ろされるネタが満載だってまだ気づいてなかったの? ……ただいま」
「おう、おかえり」
「サーチ! ヒドいですよお!」
つい本音が……後でスイーツか何かで誤魔化そう。
「それよりも……ヴィー、これを被ってみて」
ニット帽を取り出してヴィーに渡す。
「……こんな暑い場所でニット帽ですか……?」
「それについては心配いらない。リジーのお墨付きだから」
「そういや……リジーがいないな?」
「……あの子、呪われアイテムの専門店を見つけちゃって……」
……テコでも動きそうになかったから、仕方なく置いてきた。とりあえず、あとから帝都で合流する手筈になってるけどね。
「……あいつらしいな……」
「うひゃああ!?」
私とリルが会話している間にニット帽を被ったヴィーは、やっぱり悲鳴をあげた。
「つつつ冷たい! な、何ですか、この帽子!?」
「とにかく被ってみなさい!」
ムリヤリ被せる。
「わあああ冷た冷た冷た……あれ? 何も感じない?」
「外してみて」
「はい……あ、あれ? 蛇達寝てる?」
「ヴィー自身には影響は?」
「……いえ。眠たくないし……何も影響ありません」
よし! ミッションコンプリート!
「そのニット帽、凍らせ糸っていう呪われアイテムで編まれたモノなの」
「「「凍らせ糸?」」」
「そう。リジーの話だと『凍死したモンスターの毛で紡いだ糸で、対象物の温度を急激に下げる呪いがある』ってことだったわ」
「対象を急激に冷やす…………あ、冬眠ですか!」
そう、冬眠。
これから蛇達が動くことはないし。
「蛇自身が身を守るために冬眠してるんだから、ヴィー自身にも影響が出ることはないか……。考えたなサーチ!」
「で、どうかな? これでうまくいくかな?」
「…………………………大丈夫……みたいです。私の頭に凍傷ができることも無さそうです」
「……なら……」
「はい、問題解決です……ありがとうございます、サーチ!」
「……でも……蛇達が少し可哀想かも……」
「いいんじゃない」
「ワガママだったしな」
「たまには酷い目にあえばいいんですよ」
「ヴィーにも見放されたか……」
……しばらく蛇達がヴィーに従順だったのは、言う間でもない……。