第一話 ていうか、削ぎ落としてしまえ。
チュンチュン……
「ん……んんんんんん〜っ…………」
太陽が沈んで一時間ほどで宿場町に着き、ギリギリで旅館に滑り込むことができた。
選ぶ余裕がない状態で飛び込んた旅館ではあったけど、料理も温泉も大変満足のいくものであった。
で、夜遅くまで飲みまくって……朝である。
「私以外は……撃沈してるわね……」
リルは一升瓶を抱えて、泣きながらうなされている。
「ん〜……胸なんか……胸なんか……」と寝言を言うリルは、なんか涙を誘う。
あまりに可哀想だから「巨乳になれる方法が見つかったよ」と耳元で囁いたら、にへらぁ……と笑った。よかったよかった。
リジーがいない……と思ったら。
「……どうやって入ったのかしらね……」
リジーは部屋に飾ってあった鎧武者の中にいた。
……そういえば……リジーが酔っぱらって「呪いの鎧げーっつ……」とか言って鎧の中に侵入してたわね。
そしてエイミアは……。
「サーチぃ……助けてぇ……」
「……あんた……何やってんの?」
エイミアは……ヴィーに捕まっていた。
「んい〜〜っ! いっ! いっ! …………い〜〜ぷはあ!! ……ムリ。絶対ムリ……ヴィーを起こしたほうが早いって」
どうにかしてヴィーを引き剥がそうとするけど……さすがメドゥーサの≪怪力≫だわ、びくともしない。
「でも、こんなに気持ち良さげに寝てるヴィーを起こすなんて……」
「ならエイミアの現状維持で」
「そそそれは勘弁して下さい! だんだん絞まる力が強くなってきてるんですよお……」
……それはマズいか。
「仕方ない、起こすよ……ヴィー起きて。朝よ」
ゆさゆさ
「…………ん〜…………」
「ほらほら起きなさい」
がくがくがく
「…………じ、地震が…………」
「はーやーく起きろー!」
べしべしべしべし!
「痛……痛い……痛いぃ……蛇ゴー」
「シャア! がぶっ」
「いってえええええ!!」
頭をべしべし叩いてたら蛇に噛みつかれた!
「ん〜……寝る…………zzz」
……ぶちぃ。
「………………えいっ」
きゅっ
「はああああああんっ!!!」
「起きないからってここを摘まむのは止めてください! というより、何故サーチは素っ裸なんですか!? セクハラですよセクハラ!」
「……私普段は裸族なんですけど……」
「……出来れば何か羽織っていただけると……目のやり場に困ります……(私よりスタイルいいのですか、サーチって……羨ましい)」
「何か言った?」
「いえ。早く羽織ってくだ……裸ワイシャツはもっと危険ですから! 下着つけて下着!」
……何かお母さんみたいね、ヴィーって……。
「あ、そうでした。皆さんおはようございます」
「「あ、おはよう」」
「……まだ揃ってなかったですね。他の二人も起こしますか?」
そうね……もうすぐ朝ご飯だし。
「私リジー起こすから、ヴィーはリルをお願いね。エイミアは朝ご飯を持ってきてくれるよう、頼んでもらえる?」
「「はーい」」
さて、私の担当はリジーだけど……寝起きは悪くないはずだから簡単ね。
「リジー起きて。さっさと鎧から出なさい」
「………………」
「リジー。起きなさい」
「………………」
「反応ないな…………リジー! 起きなさいっての!」
「………………」
「……サーチ。もうすぐ朝ご飯持ってこれるそうですよ」
「そう。なら時間ないわね……えい」
どんがらがっしゃあん!
「うぎゃあああ! よ、鎧が動き出したあああっ!? や、やっぱり呪われてた!?」
「呪われてないから、さっさと起きなさい。朝ご飯よ」
「あ、サーチ姉……おはよう……私は何故、鎧の中に?」
覚えてないのかよ!?
「あんたが自分で入ったのよ!」
「……何故? 理解不能」
「………………私達が止めたのに『絶対に呪いの鎧!』と言って聞かなかったのは、あんたよ」
「…………マジか」
マジです。
「それより朝ご飯だってば。さっさと脱ぎなさい」
「……承知………………………………おう」
「……イヤな予感しかしないけど……どしたの」
「…………抜けない」
やっぱり……。
「リル! そっち持って!」
「エイミアも準備いいな! せーのでいくぞ! ……せーの!!」
んぎいいい…………!
「痛い痛い痛い! ストップストップストーップ!!」
「何!? どうしたのリジー!!」
「駄目、痛くてこれ以上は……」
「どっか引っ掛かるのか?」
「ん……胸が」
「削ぎ落としてしまえ」
「リル姉!?」
あー……確かにリルならスルッと抜けそうね。
「サーチ姉助けて!」
「そうねえ…………引っ張っても抜けそうにないわね……ホントにギリギリ引っ掛かってる」
「うう〜……サーチ姉なら抜けられるのに」
「削ぎ落としてしまえ」
「サーチ姉!?」
「リジー……あなたは『口は災いの元』という言葉を、よーく理解すべきですよ」
私も何回か言った気がするけど……。
「サーチ、リル。どうなさいますか? 私の≪常に全力≫なら、鎧を千切って外せますよ?」
「……ヴィー姉……≪常に全力≫じゃなくて、正しくは≪馬鹿力≫じゃなかった?」
「削ぎ落としてしまえ」
「ヴィー姉まで!?」
「私が必死に考えて名付けたスキル名を否定するような娘は知りません!」
……あーあ……ヴィーまでヘソ曲げちゃったわ……。
どうする? リジー。
「リジー大丈夫ですか!? 私で何とかなりませんか!?」
「……エイミア姉は頼りにならない……」
「削ぎ落としてしまえ」
「そんなああ!? エイミア姉までえええっ!!」
結局リジーは、私達が朝ご飯を食べ終わるまで放置された。
「あー美味しかった…………リジー、反省した?」
「しました。すごくしました。超しました。最高にしました。スペクタクル的に……」
「反省してないわね」
「反省してねえな」
「反省してませんね」
「反省してるわけがないですね」
……と言うわけで。
「「「「削ぎ落としてしまえ」」」」
「本当にごめんなさいいいいいいい!! うわああああんっ!!」
……あら、ついにリジーがマジ泣きしたわ。
「……ちょっとやり過ぎたかな……。そろそろ出してやるか」
「流石に身に染みただろうし……ヴィー、力を貸してもらえる?」
「わかりました」
「ヴィー、もう少し斜めに千切って」
「はい……『メリメリ』……これくらいですか?」
「そうね……リル、リジーの胸をもう少し押さえて」
「うっし…………んん……ダメだな。これ以上はムリだ」
「そっか……あと少しなんだけどなあ……」
「……サーチ姉……」
「あ、心配しないで。このままヴィーが千切ると、リジーにサクッと刺さりそうなだけ」
「いやあああああ!!」
……そりゃそうか。
場所的にスパッと斬れれば問題ないんだけど……。
「サーチ」
「ん? エイミアどしたの?」
「私に……任せてもらえませんか?」
エイミアが?
ジジジジ……
「……はい! 斬れました!」
「早く治療して! 薬草薬草!」
「辛かったですね……大丈夫ですか? すぐに楽になりますからね」
「熱かった! 熱かったああ……うわああああん……」
「……これなら『サクッと』の方が良かったですね……」
うーん……一瞬痛いか、しばらく熱いか……イヤな選択ね。
「それにしてもエイミア、アーク切断なんてよく知ってたわね?」
「へ? 前にもやったじゃないですか」
そうだっけ…………忘れた。
「……はい。これで治療も終わったぞ」
「……………………ありがとう」
……ホントにリジーは身に染みる結果になったわね。
「あと……」
「ん?」
「みんな……ごめんなさい……本当に気を付けるようにする……」
まあ……結果的には……良かったのかも。