閑話 ヘビ娘はへヴィーな仲間になりそうです。
「あの……私と付き合ってもらえませんか?」
「え……? オレと……?」
「は、はい……駄目でしょうか?」
「そんな!? オレなんかとでいいんスか!?」
「そ、それは私のセリフです!! ……私なんかでよろしければ……」
「いや! いやいや! 全然大丈夫っス! つーかマジで夢じゃないっスよね!?」
「え……じゃ、じゃあ!?」
「はい、ぜひっス! どうかよろしく……」
にょろっ
「ひ、ひえええええ! お願いしないっスうううう!! あ、頭からへヴィーがああああああ!」
「シャ?」
「…………あ……あ……あ……」
「シャ〜……シャシャ!」
がしぃ
「シャ!?」
「あ……あ……あなたはあああ!? 何てことをしてくれたんですかああああ!!」
ぎゅうう! ぎゅうぎゅうぎゅうう!
「じゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「もう少しで! もうちょっとでえ! ホンットに何十年振りの彼氏ができるはずだったのにぃぃぃ!」
「じゃあ゛あ゛あ゛……あ゛……あ゛……がくっ」
「はあ、はあ、はあ……何で肝心なときに帽子から出てくるのよぉぉぉぉっ!!」
……メドゥーサ族のへヴィーナ、【ぴー】歳。
「今年こそ彼氏をつくってラブラブになるっ!」という儚い願いは、寝ぼけた一匹の蛇のために……潰えた。
……もう……やだ!
「蛇なんてだあああああっいっ嫌い!!」
「「「シャシャ!?」」」
「あいた!? 痛痛痛い!! 噛まないで噛みつくな噛むなあ!! あんた達いい加減にしないと、ドレッドヘアーで編み上げるわよ!?」
「「「シャアアア!?」」」
「……そうです。最初から言う事を聞いてればいいんです! ……はあ……もう嫌だ……」
こうして私は、トボトボと村へ帰ったのです……。
「び、びええええええっ!!」
……サーチさん達のパーティに(何故か)加入することになり、その歓迎会を兼ねて帝都近くの秘湯に寄りました。
その際に「へヴィーナの恋ばなを聞きたい人ー!」「「「はーい!」」」……という訳のわからない展開になってしまい、少し前の失恋話を披露したのですが……。
エイミアさんには辛い内容だったみたいで、突然泣き始めました。
「辛かったんですね……大変だったんですね…………わかりました! 私がへヴィーナさんの頭の蛇を全部刈り取って……」
「「シャシャ!?」」
「それは止めてください! 流石にハゲは嫌ですから!!」
「「シャーシャ! シャーシャ!」」
「ねえ、へヴィーナ。今蛇達は『そーだ! そーだ!』って言ったんじゃない?」
私が今回加入することになったパーティのリーダー、サーチさんが見事に蛇語を翻訳されました。
「その通りです。お見事です。宜しければ数匹、蛇を移植」
「いえ止めて結構です」
……ですよね……。
「でも! でも! 可哀想過ぎます……びええええええっ!」
……さっきから私の為に泣いて下さってるエイミアさん。泣く度に揺れる巨乳が羨ましいです。
「おい、泣くな泣くな。お前が泣いたところで、どうにかなるわけじゃねえだろ……」
「は、はひ……ずびぃぃ」
「うわ、汚ねえな! 鼻水を流してこい……たく」
一生懸命エイミアさんの面倒をみてる男前ガールがリルさん。猫獣人族の超美脚さんです。男前なのは性格だけではなく、胸も「……蒲焼きにするぞコラ!」……すみませんすみません。
「……ま、爬虫類好きのイケメンがいるかもしれねえから……希望は捨てるなよ?」
……そういう問題では無いんですけど……。
「リル姉、爬虫類好きだからってへヴィーナ……姉を好きになる訳じゃない。猫好きがリル姉を好きになるわけじゃないのと一緒」
「そりゃそうだけどよ……」
「つまり慰めにはカケラもなってない」
結構きわどい言葉を放っていたのがリジーさん。このパーティの中では最年少らしく、全員の名前の後に「姉」をつける。
私は文句無しに最年長になってしまう為、リジーさんは私にも「姉」をつけるようにしたようだ。
「でもリル姉には華奢な体型が好きな人が寄ってくる」
がしぃ!
「おい……華奢ってのは何か? 私の胸を皮肉ってるのか?」
「……流石にそれは過大解釈」
……私もそう思います。
「……なら何で、ずーーーーっと私の胸を注視してるんだ?」
「気のせい気のせい」
「気のせいじゃねえええっ!!」
ずるずるずる……
「あーれー……」
「サ、サーチさん! 大丈夫なんですかあれ!?」
「ん〜? ほっときなさいよ〜……いつものジャレ合いよ〜あははは」
……サーチさんは大の温泉好きらしく……すっかりふやけきっている。頼りにならない……。
「エイミアさんはどう思います?」
「え? え? どどどどうしましょう!!」
……完全にテンパってます。こちらも頼りにならない……。
「……仕方ありません。私がちからずくで止めます!」
……ここは最年長の威厳を見せてあげましょぅわっ!。
「ちょっと待った!! ちからずくは止めようね! ね!」
するとサーチさんが私を羽交い締めにしてきました。あら、サーチさんも意外とボリュームあります……じゃなくて!
「離していただけます? 早く止めないと怪我人が……」
「あんたみたいな≪怪力≫持ちが止めに入るほうが、よっぽど危険よ! エイミア止めてきて!」
「え? 私がですか? ……痺れさせますけど……?」
「へヴィーナにぶっ飛ばされるよりはマシよ! けどホドホドにね?」
「わかりました! 二人とも止めなさい〜」
………………あの迫力の無さで大丈夫なのでしょうか?
「大丈夫なのよ。エイミアは≪蓄電池≫っていう血族スキルを持ってるから……」
「なるほど。弱い電流で二人の動きを止めるわけですね」
確かにそれでしたら、私が止めるよりも平和的に……。
バリバリずどおおおんっ!!
「本当に大丈夫なんですかっ!? 今の音、相当な衝撃でしたよ!!」
「……あの様子だと二人そろってエイミアを怒らせたみたいね……」
やはり私が止めないといけません!
「待ちなさいって言ってるでしょっっ……ふぬぅっっ! ……な、何て馬鹿力……!」
「馬鹿力って言わないでください……というより、邪魔しないでくださあいぃぃ……!」
「うぅ〜っ……だ、ダメだ! 『力』が低い私には止められない……! し、仕方ない、最後の手段……!」
な、何をする気ですか!?
きゅっ
「あひゃあああああんっ!!」
「ぜえぜえ……よ、よし、止まった……」
「ななな何てことするんですか……!! セクハラですよセクハラ!!」
いいいきなりア、アレをつまんでくるなんて……!
「へヴィーナ、ちょっと冷静になってね……あんたが≪怪力≫を発動させて暴れたりしたら、秘湯はどうなる?」
……あ。そうです。
私の有り余る力によって、秘湯が完全に破壊されてしまう可能性が……。
「……ここを使うのは私達だけじゃない。それを覚えておいて」
……そうですね。
温泉は……秘湯は私達だけのものではないですからね。
「はあー、やっと着いたな」
「ここが秘湯かあ……流石に誰もいないみたいだな」
「「げっ!」」
だ、誰か来てしまった……!
(うわあ、マズい……! エイミア達は気絶してるし)
……あ、本当だ。全員浮かんでます。
(よくわかりましたね)
(あんだけ遠慮なく放電すれば自分も痺れるでしょ……じゃなくて! 何とかしないと私達全員、裸見られ放題よ!)
なっ!
そ、それはセクハラというレベルじゃありませんね……!
「今度こそ私が」
「だから落ち着きなさい! あんたが出てったら、それこそ見られ放題じゃないの!」
ああ、そうでした!
「……私がこっそり暗殺」
「暗殺なんて止めてくださいよ!?」
あの人達に落ち度はないんですからね……まだ。
「ならどーすんのよ!」
「おい、女の子の声聞こえなかったか?」
「うお! 混浴か! ラッキー!」
「……しまったあああ! 声が丸聞こえだったあああ!」
うぅ……! このままだと、サーチさんの暗殺という手段しか……!
ん? 暗殺?
……殺すまでいかない手なら……ある!
「サーチさん! 私に良い手段があります!」
「あーもういい! へヴィーナに任せた!」
任されました!
よし、目標を確認します………………いました! 半裸の男が二名!
「種族スキル≪石化魔眼≫、発動!!」
かちん!
「……やりました。完全に石化しました!」
「OK! 今のうちに風呂上がりましょ!」
そう言ってから私達は、エイミアさん達を介抱しました。
……二時間後。
「……う……うーん……あれ? 何で夕方になってるんだ!?」
「……確か着いた時は昼間だったはず……?」
頭に「?」を一杯浮かべながら、男達は温泉に向かった。
「……もうそろそろ石化が解けたはずです」
「石化って時間調節できるのね……便利だわ……」
意外と応用がきくんですよ、≪石化魔眼≫は。
「確かに便利だな……調節せずにぶっ放して、自分まで痺れて気絶するヤツもいるのにな」
「それは言わないでください!!」
「ふふ……ねえ、へヴィーナ」
「何ですか?」
「私達仲間なんだから……敬語はやめない?」
「へっ!? ……こ、困りましたね……これが私の地なんですが……」
「あ、そうなの? ……だったら『さん』をつけるのは無しにしよ」
……それくらいなら……まあ……。
「わ、わかりました……サーチ」
「うん、それでいいわ、ヴィー」
ヴィー?
「へヴィーナだとちょっと長いでしょ? 縮めてヴィー」
「ヴィーですか……いいですね!」
「短くて呼びやすいな」
「ん。好印象」
「……どうかな? 嫌……かな?」
……いいえ。
「嫌なわけがありません。私のことは、今日から『ヴィー』と呼んでください」
「「「「おーけー!」」」」
こうして。
私ことへヴィーナ……通称ヴィーはサーチ達の真の仲間となった。
明日から新章です。