第二十五話 ていうか、へヴィーナって頭の蛇とのトラブルが絶えないみたい。
うにょうにょうにょうにょ。
ぐいっ! バクッ
シャシャシャシャ……
シャアアアア!
「……スッゴく気になるわね……」
「す、すみません……」
雑音の主であるへヴィーナは、何だか縮こまっている。
「頭の蛇ってへヴィーナの意思で動かしてるのかと思ってた……」
「……一応一匹づつ脳があります……個々で性格も違ってますね」
「ええ!? めんどくさそうね」
「はい。はっきり言って面倒くさいですイタッ!」
突然頭を押さえて踞るへヴィーナ。蛇が頭に噛みついてる?
「どうしたんですか!? 『シャアア!』 ひええっ!?」
心配して駆け寄ったエイミアは、へヴィーナの頭の蛇の威嚇に腰を抜かす。
「イタ、イタタタ……エ、エイミアさんに何て事を……!! いい加減にしないと、ポニーテールの刑ですよ!!」
「「「シャシャ!?」」」
……変な蛇の鳴き声の後、蛇達は力なくダランと垂れ下がり……へヴィーナも回復したようで、何事もなかったかのように立ち上がった。
「エイミアさんには、大変申し訳ないことを……」
「え? あ、大丈夫です大丈夫です……」
「ちょっと待ってください……エイミアさんに威嚇したのは誰?」
「「シャシャ!」」
「シャ、シャアアア……」
へヴィーナが空中に視線を向けて話しかけると、数匹の蛇に連行されて一匹の蛇が出てきた。
「私に対する八つ当たりならまだしも、他の人に迷惑かけちゃ駄目です! さあ、エイミアさんに謝りなさい!!」
へヴィーナの頭に噛みついてたの、八つ当たりだったのね。
「…………シャシャア」
「『ふん、悪かったな』じゃありません! ちゃんと誠心誠意謝りなさい!」
「………………シャ!」
あ、今のは私でもわかった。
たぶん蛇語で「ふん!」じゃないかな。
「…………刑罰執行、雑巾絞りの刑」
へヴィーナはそう言うと、件の蛇を掴み……。
ギュウウウゥゥゥ!
「じゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
……絞った。
な、なるほど……雑巾絞りの刑ね……。
「さ、謝りなさい」
「……………………シャ、シャシャ……がくっ」
……たぶん「す、すみませんでした……」の後で気絶したのかな……。
「というわけです。エイミアさん、この蛇を許してあげて下さい」
「はははい! 許します許します……って、何でへヴィーナさんが涙目なんですか?」
「えっ? ななな何ででしょうね……」
……それぞれ意思があるって言ったって、身体の一部には違いないんだから……自分も痛いのか。自爆技なのね、雑巾絞りの刑って……。
「すみませんでした。では行きましょう」
そうね、夜になる前に集落くらいには入りたいし……。
「待って! 待ってくださああい!」
叫び声に足を止め、振り返ってみると。
「……立てないんです……」
顔を真っ赤に染めて座り込んでいるエイミアがいた。そういえばさっき腰を抜かしてたわね。
「なーにやってんだ……ほら、立てよ」
「待ってリル。腰が抜けてるんだから、しばらく動けないわよ」
「へ? エイミア腰が抜けてるのか」
「いい言わないでくださいよおおお!!」
「なら私の責任です。私がおんぶしていきますね」
「……腰が抜けてるんだから、おんぶしかないんだけど……へヴィーナがそこまで責任を感じなくてもいいのよ?」
「へ? 責任?」
へヴィーナはパチクリと瞬きし。
「責任ということよりも……このメンバーでは私が適任かと思いまして」
……笑った。
がしっ
「っわっ!」
へヴィーナはエイミアを片手で放り投げる。
「ひえええええええっ!!」
くるくる回りながら落ちてくるエイミアを。
ぼふっ!
「うわっぷ!」
背中で受け止めて、そのままおんぶした。
……すっげえ力……。
「……メドゥーサのもう一つの種族スキル≪常に全力≫は伊達じゃありませんので」
オールウェイベスト!? ず、ずいぶんと爽やかな名前のスキルね……。
「……要は≪怪力≫」
あ、その方がわかりやすい。
「ちょっとリジーさん!? せっかく改名したのに」
「……勝手に改名したのね。正しくは?」
「………………………………≪馬鹿力≫です」
改名したくなるの、わからないでもない……。
「でもスキル名に夢を見過ぎだよ。≪怪力≫くらいがちょうどいいんじゃねえか?」
「……そうね。そのくらいの方が自然でいいと思うわよ?」
「………………………………えぇ〜……」
……めっさ不満そうね。
ま、個人の自由だからいいけど……。
「そこはへヴィーナ自身の問題だから……本人が納得すれば、それが一番いいんじゃない」
「……ま、そりゃそうだな」
「……うん。本人次第」
「よーし! 今度こそしゅっぱー……」
「ままま待ってください!」
ちっ! またかよ!
「今度は誰よ! ……ってまたエイミア!? 今度は何なのよ!」
「わ、私おんぶされたまんま移動なんですか!?」
「仕方ないじゃない! あんたが腰を抜かしたんだから!」
「マズいマズいマズいです!! 私そんな恥ずかしい状態で街に入るんですかっ!?」
…………あー…………。
「……確かに恥ずかしいわね」
「……私だったら一生モノの心的外傷だな」
「……私だって嫌」
「そうなんです! なら……」
「「「でも自分の恥じゃないから無問題」」」
「……というわけでへヴィーナよろしく」
「ひいいいいどおおおおいいいいいぃぃぃ!!」
泣こうが叫ぼうが喚こうが、今はへヴィーナの背中。どうしようもない。
「んじゃあ今度こそ行くよおお!」
「おー!」
「そんなああああ!」
「……おー」
「………………」
……あれ?|一人反応がおかしかったような……?
最初がリルで次がエイミア、その後リジーだから…………へヴィーナ?
「……今度はへヴィーナ?」
「え!? ちちち違います!! そうじゃ無いんです……」
「……じゃあ何なのよ」
「あああの…………ええっと…………せ、背中の……」
「……背中の?」
「…………か、感触が…………」
感触……?
後ろにいるエイミアが目に入り…………ああ!
「エイミアの……」
「はい……ずっとこの感触はいろいろマズくて……」
……でしょうね。
「大丈夫。へヴィーナは私やリジーよりも大きいから……」
「はあ、どうも…………でも……エイミアさんを見ると、慰めにもならないと言うか……」
……それもわかるわ。わかるけど……。
「……私、自分を引き合いに出してまで励ましたのに……」
「ああ! すすいませんっ!! 決してそういう訳では!!」
「………………わーたーしーもー、傷ついたな〜……」
「本当に申し訳ありません!! ……な、何か償えれば……」
「……ホントに?」
「はい! 私に出来ることでしたら何でも」
「じゃあ教えてもらった秘湯に行きましょ! みんな良いわよね!!」
「いいぜ〜。確かすぐ近くだったよな」
「帝都へ行く途中で十分寄れますよ……抜けた腰も治したいですし」
……治……るの?
それより自分だけで入れないことを忘れてない?
「疲れたな。今日は秘湯で、一泊で」
……何気に五七五だし。
「へ? 秘湯って……温泉入るだけですか?」
「そうよ。私達のパーティ加入条件は『裸の付き合い』なんだから!」
「へ? パーティ加入!?」
「「「「ようこそ、竜の牙折りへ!」」」」
「………………よ、よろしくお願いいたします……」
こうして。
かなり強引ながら、新たな仲間が増えました。