第二十話 ていうか、成り行きで飲み比べが始まったら……?
いろいろとゴタゴタがあって、すっかり忘れられていたんだけど……。
「半蛇人の女の子が帝国に捕まったのは知ってるわよね?」
本題を話すために、元長老を除いた有力者に集まってもらったんだけど……。
「「「………………」」」
……一気に雰囲気がドーーンと、どん底まで落ち込んでしまった。あんた達、ホントに有力者なの!?
「……無事保護されたんだけど……」
「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」
今度は一転、大歓声が巻き起こり……。
「酒だ! 酒だ!」
「こりゃめでたい!」
「よかったよ! よかったねええ!」
「皆さんのおかげで……ありがとうございました!!」
「よーし! デカパイの姉ちゃんも飲め飲め!」
「何で私が巻き込まれるんですかああああ!?」
……隣の部屋で宴会を始めた。なぜかエイミアの悲鳴が聞こえたけど割合する。
「ちょっとストップ! ストーップ!! まだ続きが……」
「よおし! もろ出し姉ちゃんも飲め飲めぶぐぉ!」
「誰がもろ出し姉ちゃんよ!!」
バキィ!
「アイタタタ……いいパンチだったぜ。さあ飲め飲め!」
……だ〜か〜ら〜……。
「話の続きを……」
「……何だ、飲めねえのか……」
「いや、飲めないわけじゃなく」
「あーいいよいいよ。要は酒が弱いんだろ?」
は?
「誰が酒が弱いって? 誰に向かって言ってんのよ、あんた」
「ムリするな……飲めねえヤツにムリヤリ飲ますような事はしねえよ」
……何ナメたこと言ってんのかしら、この半スケルトン。
「寄越しなさい」
そう言って半スケルトンが持っていた酒瓶を奪い。
ごくごくごくごくごく!
「……ぷはーっ! ……何これ? 酒にしては弱いわね」
「お……おい……」
「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」
うわびっくりした! 何よ、この歓声!?
「すげえ姉ちゃんだ! 村で一番強い酒を一気飲みしたぞ!」
「スケルトンの親父さんが真っ青になってるじゃねえか!」
「よし! あの姉ちゃん相手に飲み比べしようぜ!」
「「「おうっ!」」」
し、しまった……何か話がヤバい方向に……!
「おうっ! 姉ちゃん飲め飲め!」
う……お、美味しそうなお酒が……。
「よっし! もし姉ちゃんが全員酔い潰したらとっておきの温泉教えてや」
ごっごっごっ! ダンッ!
「もう飲んだわよ! 注ぎなさい!」
全員潰せばいいのね!
「いよっしゃあああ! やったるぜえええ!」
「私が潰れたらストリップでも何でもやってやるわよ!」
「「「う゛おをををををををををををっっ!!」」」
なんか形容しがたい叫び声が響いた。
「さあ! かかってきなさあい!」
ぐびぐびぐびっ
「はい、飲んだわよ」
「………………………………マジかよ…………無念」
ばたっ
………………。
こうして最後の一人が倒れた。
さっきまで賑わっていた宴会の会場は、幾多のモンスターが死屍累々と横たわり、まさに阿鼻叫喚という状態になっていた。
「み、水くれ……」
「もう吐けねえ……胃液の一滴も出ねえ……」
「うう……夢が……ストリップの夢が……」
「は、化け物だ…………化け物のオレが言うんだから間違いない……」
あのコウモリ男、うまく言ったつもりなのだろうか。
「さて……とっておきの温泉、教えてもらうわよ」
『アタシが教えてあげるよ』
!! ……ソレイユ?
「……まさかソレイユも透明人間に!?」
『だああれがエロジジイよ!! 念話水晶を出して!』
……だよね。びっくりした。
『…………アタシはサーチの思考にびっくりなんだけど』
一応ごめんなさい。
『一応……まあいいけど……それより…………どしたの? この現状』
「ちょっと盛り上がっちゃってね……」
まあ八割は私が原因なんだけど。
『へえ……それだけ盛り上がったってことは…………話がうまくまとまったんだ!』
「……………………………………あ」
忘れてた。
売り言葉に買い言葉で、つい全員潰しちゃった……。
『………………何にも決まってない訳ね…………………………ぶち』
……やば。
『……ぃぃいい今まで何をやっとったんじゃああああああああ!!!』
……マジですいません。
……一時間ほどたっっぷりと、説教されることになりました。
「……うう〜……」
「あははは災難だったなサーチひぎぇっ!」
「……今の私は軽口に応えてあげられる余裕ないから」
リルはそのまま崩れ落ち、鳩尾をおさえてのたうち回る。天罰じゃ。
「……リルは何で自滅したがるんでしょうか……」
さてね。
それよりもお仕事しないと、またソレイユに叱られるから……。
「エイミア、リジー。この村にいるエビルシャーマンを集めてもらえる?」
「「……え?」」
「……これで全員です」
少し前に暴風回廊で捕まったエビルシャーマンと同じのが……十四人いる。多いな。
「ありがと、エイミア……さてさて、この中にズバリ! スパイがいます」
ざわめくエビルシャーマンズ。
「おそらく暴風回廊の時と同じ手口で侵入したモノと思われます…………今なら悪いようにはしません。魔王様にも口利きしてあげましょう。スパイの方は名乗り出てください」
……何て言って出てきてくれるから、苦労はないんだけどな……。
けど! こちらには呪い探知機がいるのだ!
「……申し訳ありませんでした!」
「さあ、リジー! この中からスパイを炙り出して……って……え?」
「え?」
「……今……何で謝ったの?」
「……あの……スパイだからって……」
「……はい?」
……………………マジで名乗り出たよ。
……詳しく聞いてみた結果。
「……モンスターの研究がしたかったから!?」
「本当に申し訳ありませんでした!」
名乗り出たエビルシャーマンからローブを剥ぎ取ってみると、その下から出てきたのは「ザ・クールビューティー」を絵に描いたようなエルフさんでした。
エルフさん曰く。
「……帝国でモンスターの研究をしていた際、貴族から『エビルシャーマンのローブ』を渡されて暴風回廊の調査を命じられました」
……とのこと。
先日捕まったオバサンと二人で暴風回廊に潜りこんだ。
何年かはモンスターの調査も進まずヤキモキしていたが……。
「数年前に秘密の村へ転属を命じられまして……」
その時にオバサンとは離ればなれになったそうだ。残ったオバサンはマジメに裏工作やら、情報漏洩やらと裏切り街道を突っ走っていたらしい。
ただエルフさんは……。
「驚きました。意思を持つモンスターが存在している事実に」
「……でも暴風回廊にもケンタウルスとかいたでしょ?」
「……特別なモンスターだとばかり思ってました……まさか意思があるのが普通だったなんて……」
それからはモンスターを「研究対象」とは見れなくなり、普通に友人知人として付き合ってたとか。
「ただ……バレないようにすることや……皆を騙しているという罪悪感で苦しくて……」
いつかカミングアウトしよう、と決めていたらしい。そしたら私達が「スパイ云々」と言い出した。それで観念して名乗り出たらしい。
「……結果的に私の欲望が、オバサンを自由にさせる事になってしまい……秘密の村に危機を呼び込んでしまいました……」
「そうね、あなたが悪い」
「うわびっくりした! ソレイユいつの間に!?」
「え? 今いま……それより……あなたには罰を受けてもらう」
……エルフさんは目を閉じて。
「……はい、魔王様。覚悟はできております。私の命、どうぞご自由に……」
「……そう。なら命じます。アタシとサーチ達と共に帝都へ来なさい。そしてあなたにモンスターの調査を命じた貴族を呼び出しなさい」
「……えっ……」
「あなたは確かに帝国の手先です。しかしあのオバサンと違い、あなたはモンスターと心を通わせようと努力した。その事実がある以上、あなたにチャンスを与えます」
「ま、魔王様……」
「あなたはアタシの手足となって……モンスターの為に働きなさい」
……エルフさんは涙ぐんで。
「……はい!」
と返事した。