第十六話 ていうか、ニーナさんに協力してもらってギルド本部を騙します!
私達からの言葉だけでは弱いだろう……というリルの意見が採用され、ニーナさんに仲介を頼むことにした。
ていうか、しまった。迎えを頼んでたの、断るの忘れてた。ま、大丈夫か……な?
『……旋風の荒野にそのような誤解が生じていたとは……なぜ無謀な挑戦をするのか、とは思っていましたが』
ニーナさんはため息をついた。
『……ソレイユも詰めが甘いですね。もう少し上手く隠せば良いものを……』
「……ニーナさんは秘密の村のことは?」
『先代の勇者から大体は。旋風の荒野にある事は知りませんでしたが……』
「このことは……」
『もちろん口外はしません。ギルド本部の方々は口の堅さはいまいちな印象しかありませんので』
優しいニーナさんに「いまいち」発言させるくらいだから、よっぽどだな……。
「じゃあお願いしてもいいかな?」
『わかりました。すぐに本部に上申して幹部を集めてもらいます。三十分ほどお待ちください』
そう言って念話が切れた。
「……これでOKね……ニーナさんに任せておけば」
『忘れてました』
「わっっ!?」
『迎えの件に関しては、もう少し早く連絡してほしかったですね。最近甲板が汚れてますので…………奉仕作業をお待ちしております』
プツンッ
……やっぱ怒ってるぅぅぅっ!
「……しまったあ……」
「サーチ……だから早く連絡しろって言っただろ?」
私に全責任擦り付ける気か!?
「はあ? 私に連絡するよう促すヒマがあるんなら、あんたからも連絡できるんじゃないの?」
「いつもはサーチが連絡してるだろうが! 都合が悪いときだけ私に押しつけるな!」
「何言ってんのよ! 都合が悪くなるとニャーニャー言い出すあんただけには言われたくないわ!」
「ニャーニャーだとぉ!? 大してデカくもない胸を晒して恥ずかしくねえのかな? これだから露出狂はっ!」
「大してデカくもない? ……ププ……自爆してるし」
「んな……! ……ぶ、ぶっ殺す!」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
リルがフィンガーリングを握り、私がトンファーを作り出す。
「ちょ、ちょっと! 止めてくださあい! 争ってる場合じゃないですよ!」
「「うるさいっ! すっこんでろ!」」
「ひえっ!? ……だ、駄目です! やっぱり仲間同士で争うなんて駄目です!」
「だーかーらー!」
「邪魔なんだよ!」
「えっ!? いひゃいいひゃいいひゃいいひゃいー!」
少し離れた場所で、スワリがすっかり怯えていた。
「ひええ……ガクガクブルブル」
「関わらない方がいい。触らぬ神に祟り無し」
「は、はいい……ガタガタ」
リジーは「我、関せず」とばかりにお茶を啜っていた。一方、私達はさらにヒートアップし。
「いちいち邪魔しないの!」
「いひゃいいゃみょーーーーーんんん!!」
「私とサーチの問題なんだよ!」
「ひゃめひぇみょみょーーーーーんんん!!」
……エイミアの口がさらに伸びていった。有名な海賊の船長さん並みね。
「なんだゴラア!? かかってこいよ!!」
……ふーっ……。
ガマンの限界だから……軽くリルをシバき倒しますか……。
バリ! バリバリバリ!
……え?
な、何かヤバい雰囲気……。
「ひゃめひぇっひぇ、いっひゃひゃひゃいひぇふひゃ!」
「「……?」」
とりあえず離してみる。
ぴちんっ!
「ひゃい! …………やめひぇっひぇ、言っひゃじゃないですか……!」
や、やべえ……エイミアからどす黒い殺気が……! よし、ここはリルに責任転嫁しよう!
「リ、リル、ごめんなさい! 私がちゃんと連絡しなかったからダメだったんです! エイミアもごめんなさい、巻き込んじゃって……」
「…………じゃあサーチは非を認めるんですね?」
「認めます。お詫びに今度ハピーノの美味しい豆腐スイーツをご馳走します!」
「許します」
チョロいな! ラッキー!
「……リルは?」
「あ……え……」
急な話の展開で反応できなかったリルが戸惑っている。私の思惑どーり!
「リル……毎回毎回毎回毎回同じ事を繰り返さないでください!」
バリバリバリ!
な、何かいつもより静電気が強い気が……!
「おまけに私の頬っぺたを引っ張りまわして……! 八つ当たりなんですか!? 八つ当たりなんですね!」
「あ、えっと……八つ当たりというわけでは……」
リルに風当たりが集中。私的にはありがたい。
「……今回はもう許しません! リルもサーチもです!」
「へっ!? 私も?」
「リルもサーチも私の頬っぺた引っ張ったじゃないですか!」
「あ、あの……豆腐スイーツ……」
「ぅ……! ……そ……それはそれ! これはこれです! 二人とも!≪蓄電池≫でえええええすっっ!!」
バリバリバリィィィ!!
ずっっっどおおおおおおおおおおんんんっ!!
そ、そんな殺生なあああああああっ!!
『……お待たせしました……って……何があったんですか?』
……念話水晶の前にいる私は……さぞかしヒドい格好をしているだろう。
『煤だらけと言いますか……あちこち焦げていると言いますか……』
……たっぷり痺れましたから。
『……? ……リルは……地面に倒れこんでいますが……?』
こんがり痺れただけです。一応私とリルとでは強弱をつけてくれたみたいで。
『でもその姿なら説得力はありますね』
……説得力?
「……というわけです。私達は苦労を重ねて旋風の荒野を突破したんですけど……」
私は念話水晶を掲げて周りの景色を見せる。
「……ご覧ください。城どころか家の一つもありません。旋風の荒野の中心には……荒野しかありません」
『……ざわざわ……』
よし、もう一押し。
「リル大丈夫? しっかりしなさいよ……リジー、リルの様子は?」
リジーはさりげなく難しい顔をする。
「……早く街で治療した方がいい」
間違ってはない。
放置しておくよりは、街で治療した方がいいに決まってる。
「え、えええ!? 私そこまで強くせいでんきをはみゅん!」
余計なこと言うな大根役者!!
「ですので、早く結論を出していただければ。リルの命に関わることですので」
今すぐに結論出す必要性はまっったくないけど、ムリヤリぶっ込む。リルの命にも一応関わってるしね。0.00001%くらい。
『……本当なのかね?』
「わざわざウソつくために重傷を負いませんよ! ここまで苦労して来たから重傷を負ったんです!」
重傷にしたのがエイミアなだけで。
『……確かに。C級とはいえ竜殺しを達成しているパーティです。旋風の荒野を攻略する実力はあるでしょう』
『そういえば獄炎谷を攻略したのも彼女達でしたな』
『そうか……ふむ』
……ホントにニーナさんの言う通りだったわ。説得力が違う。
(リル、もう少し死んだふりしててね)
(……なんだ、いつから私が意識があるのに気づいてたんだ?)
(……あんたね、苦しそうに呻き声あげるタイミングが絶妙すぎ)
(なるほどな……わざとらし過ぎたか…………あ、サーチ)
(ん?)
(……覚えてろよ)
な、何のことかしら?
この日。
最難関と言われたダンジョン旋風の荒野は、私達竜の牙折りによって走破された。
しかし中央には、伝説にあったような城みたいなものは一切なく、ダンジョンコアの類も確認されなかったことから。
『超難しいだけで攻略する意味が無いダンジョン』
……とギルドから公認された。
これにより、旋風の荒野を攻略しようという冒険者はほとんどいなくなった。
良かった良かった。
「サーチ! どこ行きやがった! サーチ!」
……やばやば。