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第十五話 ていうか、あまりにも……な誤解と、こんなもんなの? なダンジョンの回避法。

 旋風の荒野トルネード・ウェルデネス〝八つの絶望〟ディスペア・オブ・エイトの一つに数えられるこのダンジョンは……。


「サーチ! おいサーチ!」


「最難関と言われ……何よ! 今語り出しがいい感じだったのに!」


「何を意味わからんことを……! 最難関ダンジョンだって言ったのお前だろが! ビシッとしろ、ビシッと!」


「…………はーい…………すんませーん」


 リルの額に「ぴきっ」と十字架が浮かんだけど、私はスルーした。

 ……いい感じにウンチク語れそうだったのに。ちくせう。



 帝都を旅立って二日。私達は広大な旋風の荒野トルネード・ウェルデネスの真南にあたる地点に陣取っていた。このダンジョンはどこから挑んでも、厚い風の防壁が囲んでいる。

 その中で、数ヶ所内部に入り込める「亀裂」が見つかっている。

 一つは帝都に接する部分。一番東側の城壁から10mほど進んだ箇所だ。この亀裂は冒険者でも有名な場所で、旋風の荒野トルネード・ウェルデネスに挑戦する冒険者のほとんどがこの亀裂から入る。

 ギルドのバックアップもここに集中し、この亀裂のすぐ近くにギルド運営の治療所がある。

 とはいえ、運び込まれるのはほぼ死人という状態らしいが……。

 そして、もう一つがここ。あまり挑戦する者がいない南側の亀裂だ。


「……まさかこっちが当たりだったとは……」


「魔王様はわざと人間の都が近い場所に亀裂を作り、人間に広めましたぁ。そして正しい入口であるこの亀裂を作ったんですぅ」


 ちょっと語尾に特徴があるスワリが解説してくれた。

 私達冒険者はずっとソレイユの策略にハマってたんだねえ……。


「あれ? でも南側の亀裂も結構有名よね? 何で秘密にしておかなかったの?」


 慎重なソレイユなら正しい入口を知られることを是とはしないはず。


「………………それは………………私達有翼人(ハーピー)がぁ……ここから出入りするとこを目撃されましてぇ……」


「あんたらホントにダメダメだな!」


「ひぇっ! すすすいませんん!」


 またまた怯え始めるスワリ。リルに「どうどう」と言われて離された。

 ……仕方ない。エイミアに選手交代。


「スワリ。それが有名な〝旋風の天使〟の由来ですか?」


「……はいぃ……」


「……なるほど……有翼人(ハーピー)なら天使と間違えられても仕方ないわけだ……」



 旋風の荒野トルネード・ウェルデネスに挑戦する者が後を絶たない理由が〝旋風の天使〟の存在だ。このダンジョンの周りでは、何故か「白い羽根」がよく発見されていた。最初は「鳥が旋風に巻き込まれたんだろう」くらいにしか思われてなかったのだが……。


「天使を見た! 白い翼を羽ばたかせてた!」


 という目撃証言が相次いだことにより、ここで重大な「誤解」が生まれる。

 実は旋風の荒野トルネード・ウェルデネスの中央には、最高神〝知識の創成〟(アカデミア)が住む居城がある。しかし神の力を恐れる魔王によって風の防壁が作られて、事実上封印状態になってしまった。〝知識の創成〟(アカデミア)は幾度となく天使を外界に向けて派遣し、無事に難を逃れた天使が南側の亀裂から飛び立ち、天界と連絡を取り合っているのだ……そして旋風の荒野トルネード・ウェルデネスで発見される白い羽根は、奮闘虚しく風の防壁によって命を絶たれた天使のモノなのだと……。

 事実を知ると、とんでもない誤解だとわかる。まず旋風の荒野トルネード・ウェルデネスの中央にある城は……。


「あ、それは魔王様の本拠地ですぅ」


 旋風の天使は当然……。


「私達の中には白い翼の子もいますねぇ」


 最後。天使の羽根は?


「……私達の羽根が生え変わったモノではぁ? 旋風で散らして捨ててますからぁ」


 ……早めにギルドに報告した方がいいかもしんない。ちょっと私達の同業者が犠牲になるには……バカバカしい誤解だわ。


「……それじゃあ行きましょうよ。スワリ、道案内お願いします」


「わ、わかりましたぁ」


 さて……いよいよ最難関ダンジョンか……。


「それでは…………お邪魔しますぅ! …………あ、皆さんもちゃんと挨拶しないとぉ!」


 え? あ、挨拶しろっての? まあ下手に怯えさせるわけにもいかないし……。


「お邪魔します」


「あ?「え? えっと「……お邪魔します」……?」?」


 ……ダンジョン入るのに挨拶するってのも何だかねえ……。



『あ、私の後をついてきて下さいぃ。それだけで大丈夫ですぅ』


 ……その一言のあと、ずっとスワリの後ろを歩いてるんだけど……。


「スワリ……風の防壁はまだ?」


「えぇ? 今進行中じゃないですかぁ!」


 へ? 何にも……ないわよ? 風も一切吹いてないし……。


「……ホントに見えないんだ……風の防壁って……」


 ……怖いわね。

 即死級の罠が不可視の状態でゴロゴロあるんでしょ? これは攻略不可能だわ。


「……なあ、スワリ。私達はどれくらいならスワリから離れても大丈夫なんだ?」


「えっと……どれだけ離れても大丈夫ですよぅ?」


 へ?


「ちょっと待ってよ。秘密の村の住人であるあなたがいるから、私達は風の防壁をすり抜けられてるんじゃないの?」


「? ……ああ、ケンタウルスさんに聞いたんですね。違いますよぅ」


「じゃあ何故?」


「このダンジョンは『無礼者には死を、礼を尽くす者には道を』がコンセプトだって魔王様が仰ってました」


「……………………つまり入る際に『お邪魔します』なり『失礼します』なり挨拶すればいいってこと?」


「はいですぅ」


 んなアホなっ!

 なんちゅう辛辣な罠なのよ!


「おい、挨拶なしで入れば100%通り抜け不可能なのか?」


「はいぃ!」


 不憫だ。

 ここで死んでいった冒険者が不憫すぎる!


「……ソレイユの許可もらって……ギルドに伝えるわ……」


「ええええぇっ!!? そそそれはマズマズマズマズぃですぅぅぅっ!!」


「ちょっと落ち着きなさい!! 私がギルドに言うのは『実は魔王の城でした』っていうこと! ムダに旋風の荒野トルネード・ウェルデネスに同業者を特攻させたくないのよ!」


「あ、そういうことですかぁぁぁぁ……びっくりしたぁ……」


 当たり前よ!

 ソレイユが必死になって守ろうとしてることをバラすわけないでしょうが!


「……でも……今の流れだと『魔王が〝知識の創成〟(アカデミア)の城を占拠した』って誤解されるんじゃないですか?」


 ……そうね。

 その可能性が高いわね。


「それなら『城なんか無かった』ぐらい言ったほうがいいんじゃねえか?」


 リルが辺りを見回しながら呟く。


「こんな感じの荒野を見せれば誰でも納得するだろ……」


「どうやって見せるのよっっ!?」


 写真なんて無いのよ!?


「何言ってんだよ? 念話水晶でギルド本部にこの光景を中継してやりゃいいだろ?」


「あ」


 その手があったか。

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