第十四話 ていうか、笑って痛くてまた笑って。
『たぶん数時間でそちらに着くと思います。しばらく待っててください』
ケンタウルスはこの言葉の後に念話を切った。忙しいなかありがとう。
「それじゃあ各自所定の位置で待機!」
「はい!」「おーけー!」「らじゃ!」
エイミアは≪電糸網≫を最大限広域に張り巡らせ。
リルは精神力を集中させて、優れた猫獣人の聴覚をさらに研ぎ澄ませる。
その間に私とリジーとで。
「ちぇいっ!」
ブゴオオオオッ!!
「……≪呪われ斬≫」
ぐおおおおおっ!!
……エイミアとリルの広域警戒網に引っ掛かったモンスターや盗賊を処理して走り回っていた。
辺りが落ち着き、エイミア達の警戒網があまり反応しなくなった頃。
「………………東側から何か来ます!」
最初にエイミアが反応し。
「……何か風切り音がする……東から若干北寄りの…………あの山の方向!」
リルが方向を特定する。
「空からなの!?」
「間違いない! この辺へまっすぐに来そうだ!」
「エイミア! 着地点はわかる!?」
「ええっと……この数式だとこうなって……」
どうやらエイミアさん、計算で着地点を導き出そうとしている模様。
……間に合うかよ!!
「エイミア姉、ここ違う。ここを繰り上げてこうなって」
リジーも参加するのかよ!!
「こうだから、答えはこう……サーチ姉! 今リル姉がいる場所から1m後ろに来る確率大!」
マジで!? いやいろんな意味で。
「全員退避!」
私がそう叫ぶと同時に。
………………ィィィイイイ
何かが飛んでくる! と思わせる音が響いてきた。
これは……前のヤツより高速気味ね!
「全員伏せて!」
そう言ってエイミアをムリヤリ引き倒した瞬間。
いいいいん! ずっごおおおおおおんんんっ!!
超有名RPGの爆発呪文ってこんな感じなのかな……っていうくらいの爆風が私達を掠めていく。
「けほ! スゴいホコリだな……」
「ゲホゲホ……み、みんな大丈夫? ケガはない?」
「私は大丈夫です〜……」
「私も無問題」
みんな無事で何よりだけど……こんだけ警戒しててもダメだったか。
「誰か薬草ちょうだい〜……ケガは私だけか……」
「ケガって……サーチ大丈夫かよ!? 結構ザックリいってるぞ……」
そういいながらリルが薬草や包帯を取り出した。
「きゃ! サーチ、血がドバドバと……!」
「そんな噴水みたいに出てないから大丈夫よ……いぎゃあああ! 痛い! 痛いから揺するなバカあ!」
「あ、すいませうきゅ!」
「たく……リジー、スワリの様子見てきてくれる?」
「へいっ! お待ち!」
………………あの子は一体、何から影響を受けてるわけ?
「……ほらよ、これでおーけーだ」
リルが手当てをしてくれたので、痛みも若干引いてきている。
この薬草、患部につければ数十分で傷が塞がる優れモノ。値は張るけど緊急時には重宝する。
「サーチ姉、スワリ気絶してる」
「え゛っ。ケガしてる?」
「見た感じ…………手と足が変な曲がり方してる」
「めちゃくちゃ重傷じゃねえか! 高速で突っ込んで自爆してるって単なるバカだろ!」
フォローしようがない。する気はないけど。
「エイミアー! 例の激痛エリクサー残ってる?」
「激痛エリクサーって…………あ、あ、あれですかあ!? ありますけど……」
「遠慮いらないわ。全部飲ませちゃえ!」
「おいおい、ショック死するぞ」
「あ、そうか……じゃあ患部に直接ぶっかけちゃえ!」
「待て待て待て! それもっとヤバいヤツだろ!」
そうよ! 倍早く治るけど数倍激痛に見舞われるっていう最悪な……。
「ぶっかけるんですね! わかりました!」
ばしゃあ!
「「「あ……」」」
じゅわあああ……!
エイミアによって全身にエリクサーをかけられたスワリの患部からは、白い蒸気みたいなモノが立ち上ぼり……。
「………………ぃぃぃい痛い痛い痛い痛い! ひぎゃああああああ!!!」
……あまりの激痛によって覚醒したスワリは、涙を撒き散らして転がりまわった。
「ひ、ひ、酷いですぅ!」
あの内気娘にしては珍しく抗議の声をあげた。
「酷いのはあんたでしょうが! こっちは死にかけたっつーの!」
ごんっ!
「ひぎゅええ! 痛い痛い痛い痛い痛いー!」
あれ……?
「まだ激痛エリクサーの効果残ってるんですよ!」
あ……まだ効果が残ってたエリクサーが、私の拳骨の治療を始めちゃったか……。
「うみゃああ! ひえええええ!」
しまった……また話が進まなくなった……。
「本当にすいませんでした……」
「もういいわよ……あんたには言ってもムダだってわかったから」
「ふぇっ!?」
「サーチ……肉体的ダメージがまだダメだからって、精神的ダメージを与えようとするのは止めろ」
はいはい。
「しゃあねえ……エイミアとリジーで話してくれ。私はサーチと旋風の荒野対策を考えるから」
「はーい」
「いえすまむー」
……何故か古代語のスキルはリルよりリジーのほうが上ね。
「……たく。どうもお前とスワリとの相性はよくないみたいだな」
面目ない。
「……スワリは戦力と考えずに行ったほうがいいわね」
「何でだよ?」
「ん? いざとなったらぶん殴って引き摺れば」
「だーかーらー……やめろっての!」
「えーだってー気にくわないしー」
「何なんだよそのしゃべり方は! 何かムカつくな!」
あんたと同年代の異世界人の口調だよ。
「じゃあ真面目な話。私達が地上を進んで、スワリは空中にからの支援。これでかなり楽に進めるわ」
「空中からの支援?」
「……飛べない私達にはわからないことだけど、戦いで空中から攻撃されるのって致命的なことよ?」
「…………そうなんだろうな。婆様も『鳥獣人との正面からの戦いは避けろ』って言ってたし」
「そういうこと。例えば…………あんたが空を飛べるとして、空中から矢をバンバン放ったら……」
「……うわ、めっちゃ厄介だな」
「モンスターなんかでも空飛んでるヤツが厄介なのはそういうことよ」
……ていう感じで話は決まっていき。
旋風の荒野でのフォーメーションも決まったので、リジーとエイミアの様子を見に行く。
「どう? ……て何で!? スワリが泡吹いてるじゃないの!!」
「わ、私達何もしてないです!」
「じゃあ何で気絶してんのよ!!!」
「サーチ姉、私を見てスワリが笑い出した」
まあ……またかって感じね。
「で、笑い過ぎて痛くなって……また笑って痛くなって」
……で、気絶したと?
また自滅したんじゃない!