第十話 ていうか、いよいよ帝都へゴー?
サウナの後にもう一度温泉に入って汗を洗い流し、湯上がりの麦芽酒一杯という最高の贅沢を味わってから。
「さて、帝国へ向かお〜!」
……完全にデキあがってるソレイユが叫んだ。
「ソレイユ、飲み過ぎ」
「「「サーチが言うな!」」」
私以外が何故かホロ酔い以上なのが解せぬ。
「何よ、あれぐらいで酔っぱらうなんて情けないわねっ」
「あれぐらいっ!? 樽一本があれぐらいっ!?」
イヤイヤ、付き合って飲み切ってる時点であんた達も大概だよ。
「何でサーチは酔わないんですか! 何でサーチは太らないんですかっ!!!」
「……後半は完全に私情よね?」
まあ麦芽酒はカロリー高いから樽一本だと……スゲえだろな。
「ていうか、エイミア? また二の腕が太く」
「う゛っ! ……びええええええっっ!!」
泣くほど気にしてるんなら飲むな!
「……それよりサーチ姉」
「何?」
「早く秘密の村へ助けに行かないといけないのに、温泉入ってサウナ入って麦芽酒飲んでプハーッってしてるのが一番問題だと思う」
そうね! その通りよね! でもそれはリジーも同じだからね!
ちなみに湯上がりに牛乳派はリジーだけだった。
「ほらほら、早くまほーじんに乗らないと……えいっ!」
ぴらっ
「きゃあっ!」
「今日のエイミアは濃いブルーへぶぅっ!」
「真面目にやりなさいっ!」
「ソ、ソレイユ……? 生きてる……?」
頭に正義の棍棒が炸裂してぶっ倒れたソレイユが、突然立ち上がった。
「らいじょうぶなのら!」
目が据わってるぅ!
「イヤイヤ大丈夫じゃない! リジー、デュラハーン……はまだ復活してないな……ケンタウルス呼んできて!」
「らじゃ」
「ほらほら! みんな早くまほーじんに入るら!」
ちょっとソレイユ! 白目むいたまま近づかないで! マジ怖いから!
「まずはリルから〜♪ ヨイショっと」
「ニャッ!?」
ソレイユが突然リルを担ぎ上げて。
「あらよっと」
頭を下向きにって……この体勢は!?
「れすといんぴーす♪」
ゴッッッ!!
ツ……ツームストンパイルドライバー……。
頭から地面に突き刺さったリルは……仰向けに倒れた。あ、リルも白目むいちゃった。
「ていうか、何でツームストンパイルドライバーを知ってるのよ!?」
米の国最大のプロレス団体のレジェンドよ!?
「ん〜……うぃぃぃぃ!」
何か違うの混ざってるし!
「次はサーチ? エイミア? んっふっふー!」
「じょ、冗談じゃあないわよ!! エイミア逃げるわよ!」
「は、はい!」
私達が走り出した途端。
「サーチ姉、連れてきたぶっ!?」
「いたっ!」
私とリジーが正面衝突し。
「わっ! きゃあ!」
さらにぶつかったエイミアの足が縺れ。
「逃がさないのら〜って、わっ!」
追っかけてきたソレイユとエイミアがゴッツンコし。
「とっとっと……ふみゃ!」
よろけたソレイユが気絶してるリルに引っ掛かって倒れた。
で、その拍子にソレイユの手が魔方陣の中心に触れた。
「あ、しまっ……」
ソレイユの声が聞こえるか聞こえないくらいの刹那で。
……ソレイユ以外の全員が消えた。
私は確かに暴風回廊にいたはずなんだけど。
「サーチ姉……ここどこ?」
……私が聞きたい。
ソレイユが倒れて魔方陣の中心に触れたのが見えたけど、まさか……。
「リジー、魔方陣を書いた人が中央に手を置いたらどうなる?」
「術者が中央に触れるってことは『魔術を実行する』ことを意味する」
「……やっぱりソレイユの魔術が勝手に実行されたわけか……」
……たぶんソレイユは魔力切れで、ひっくり返ってるんじゃないかなあ……。
「魔王様? どうしたんですか? しっかりしてください」
「う〜……ま〜りょ〜く〜が〜……」
「……単なる魔力切れですね。ただいまMPポーションをお持ちします」
「しかしソレイユは酒癖悪かったわね……リルを杭打ちにするとは……」
「杭打ち?」
「ソレイユがリルにかけた技の通称よ……ってリルは!? エイミアは!?」
「いない」
……違う場所にとばされたか。
「リジー、念話水晶でリルを呼び出して。私はエイミアに念話するから」
「わかった」
お願いだから出てよ、エイミア……! ありったけの念を込めて呼び出す。
ん〜〜〜〜〜〜っ!!
『……………………な…………何ですか!? 何があったんですか!!』
私の念が届いた!
「エイミア! 無事!?」
『無事ですけど何事ですか!! 念話水晶からもんの凄い音がしたんですけど!?』
え? もんのスゴい音?
「……ちょっと強めに念を送ってみたんだけど……」
『それに反応して呼び出し音も大きくなったんですね……ああビックリした……』
届きすぎたか、ごめんね。
「それよりも。あんた達は今どこにいるの?」
『私とリルは帝都のすぐ近くですね。見覚えがある場所で助かりました』
「ていうか、リルは復活した?」
『はい。まだ痛いみたいで涙目でリジーと念話してますよ』
……後ろで「プププ……」というリジーの含み笑いと『笑うな! マジで痛いんだぞ……』という会話が聞こえる。あの様子なら大丈夫だろう。
「こっちは検討がつかないわ……全く見覚えがない場所なのよ」
『そうなんですか!? 合流するどころじゃないですね』
合流するも何も……。
ゴオオオオオ……
……なんで私達は急流の真ん中に出たのよ……。
「ほーらエイミア。こんなとこ見たことないでしょ?」
念話水晶を川側にかざして見せる。
『……どうやって渡るんですか?』
私が知りたいわっ!
川幅は50〜60mくらいあるし、流れはめっちゃ急だから泳いで渡るのは絶対ムリ!
『ソレイユとは連絡とれないんですか?』
「たぶん魔力切れで寝込んでるわよ」
何か方法ないかな……?
ジャンプして届く距離じゃないし……。
『あ、警備隊だ……隠れますから少し切りますね』
「わかった。気をつけてね」
念話水晶を無限の小箱に仕舞う。
「……そうだ。何か使えそうなモノ入れてなかったっけ」
無限の小箱を探してみますか。
……とはいえ……ガラクタばっかね……割れた瀬戸物が何でこんなに? ……あ、罠用か。
着替えに下着に予備のビキニアーマーに……。
「あ゛ーーーっ!! 使えるモノがない!」
「……どうしたのサーチ姉」
「ここからの脱出法を考えてたの! どうしろっつーのよ!」
「……向こう岸に行きたいんでしょ?」
「そうよっ!」
「なら簡単じゃない」
ほ……?
「面倒だから一気に行くよ」
へ? なんで私の腰に手をまわす?
「えいっ」
えいって……川へ飛び込むのか。
「って!? ええええええええええっっ!?」