第十四話 ていうか、私の師匠。
ぶちぃ!
ぶちぶちぶち!
「わ! わ!」
ヤバい! これはホントにヤバい! 今までで最高クラスの≪早足≫で離脱する。うん、今なら世界記録を更新できそう……じゃなくて!
急いで千切れた場所を確認する。ストラップは……大丈夫。前も……大丈夫。
後ろの……あ、糸が切れてる。これだ!
えーと……うわあ、糸一本でつながってる状態だ。切れたら目も当てられない。
……仕方ない。MPも食うし集中力も削がれるからあまりやりたくないけど……≪偽物≫でつなげるか。
…………糸を補強するイメージで…………よし、じゃあ再開しますか…………って、あれ?
「あ、もういいか?」
座り込んですっかり和んでた。
「あ、ありがとう……」
「なーに。さすがにねぇ……」
「もう大丈夫。再開するよ!」
「よし、やるか!」
糸に魔力を送りながらも“不殺の黒剣”を構える。
「いくぜええ!」
再び≪猫足≫で間合いを詰めてくるリル。フェイントをかけてくるけど……!
「二度目は通じないわ!」
黒剣で受け流し。
ミチィッ
きゃ! 切れる!
「おらあ!」
しまったあ!
ドンッ!
「くふぅ!!」
うぁ……リルの回し蹴りをギリギリりで胸の装甲で受けた。
あぶない……! 鳩尾にくらってたら一撃KOだったわ……!
「……?」
あれ? リルが足を止めて考え込んでる……?
「サーチ……だったよな?」
「え、ええ。そうよ」
「胸に何か入れ」
ギインッ!
「それ以上は禁句!」
「ああ悪い! 悪かったから!」
あ、あぶないあぶない……。
これは早く終わらせないと心臓に悪い。
「さて、仕切り直しますか!」
今度は私が攻める番! 逆手に持ち直した黒剣で連撃!
「が……! く……!」
剣の速さでは私が上。
このまま決めさせてもらう!
「くうっ!」
耐えかねてバク転で距離を空けるリル。甘い! バク転してる間は無防備すぎる!
着地点を狙って足払いをかける。
が。
「舐めるなぁ!」
強引に身体を反らして避ける。あとは猫のしなやかさを最大限活かして体勢を立て直す。
でも私の今までの攻撃は単なる布石。片膝をついた状態のリルにダッシュ。リルの片膝に足を乗せる。
「な……ぐげっ!」
見事に膝蹴りが炸裂! よしっ!
まともにくらったリルは吹っ飛んで仰向けに倒れた!
「見たか! これが私の心の師匠『ザ・グレネード・モンタ』の必殺技、ライトニングソーサラー!」
くぅ〜、一度やってみたかったのよ!
「イタタ……な、何だかんだ言ったって単なる膝蹴りだろが!」
私が「チッチッチッ」と指を振る。
「それを気にしたらダメなのよ。プロレスとはそういうもの。わかる?」
「わかるかあ! ていうかプロレスって何だよ!」
あ、しまった。
ここは異世界だったんだ。
「……んー……気にしないで」
「無理だ! そうやって言われるとメチャクチャ気になる!」
「だから……」
ぷつん
……ハラリ
「! ……うわっと……!」
しまった!
糸が切れたー!
な、何とか両手で押さえたけど……。
「あ? あらら、切れたか」
リルが気がついた。
でも。
「さっきは待ったが……二度目はないぜ」
うわ、目が座ってる!
勢いでつい顔面にいっちゃったのがマズかったか。
「女の子の顔を蹴飛ばすのはルール違反だよな?」
「それは〜……お、女同士じゃない!」
「そういう問題じゃねえ!」
ですよね〜!
ど、どうしよう。両手、どうにかしても片手は塞がる。
うー……ブラを離すしか……ないかな……。
「これで終わりだ!」
きたー!
ヤバい! マジヤバい!
うう、助けてモンタ師匠!
「……ん? モンタ師匠?」
そうか、アレがあった! 私もリルに向かって駆け出し、そのままの勢いで前転する。
「なっ!?」
予想外な行動にリルの動きが一瞬鈍る。
「今だ!」
そのまま足をリルの首に絡ませて股に顔を挟む。反対に肩車したような格好になってから身体を振り下ろして、反動をつけて……投げる!
「フランケンシュタイナー!!」
「う、うわわわわ!?」
物凄い音と僅かな震動が響いた。
犬○家のアレのような状態で地面に突き刺さるリル。い、生きてるよね?
あ、足をバタバタしだした。生きてるわ。
「それまで!」
ギルドの係員が終了を告げる。
よし、勝った!
「っダァー!!」
1、2、3を省いて右手を挙げて勝利ポーズ!
ハラリ
あ。
ブラ抑えてたの忘れてた。
ぼとぼと
……詰め物も落ちた。
この時。
私もエイミア同様にお色気担当に抜擢されちゃったことを悟った。