第八話 ていうか、裏切り者からの情報で推理。
尋問っていうか、拷問担当が私達にはいるから問題ないだろう。
「……んだよ。何で私をジッと見てんだよ」
「……頼んだわよ〝深爪〟!」
「うるせえっ! 深爪言うなっつってんだろ……人を拷問担当みたいに言いやがって……」
「あら。わかってんじゃない」
「………………」
リルが無言で拳を振り上げたので逃げた。冗談が通じないとは……困ったもんだ。
「……エイミア。ソレイユの様子はどう?」
「……普段と変わらない感じです。バリバリ仕事こなしてますよ」
ああ……相当未採決の書類が溜まってたらしいしね。でも…………素晴らしい腕の運びね。
ばばばばばばばばばばばばばばばばんっっ!!
「魔王様…………あまり強く判を押すと机にヒビが……」
ばばばばばばばばばばばばばばばばんっっ!
「そ、それに床が……」
ばばばばばばばばばばばばばばばばんっっ!
「魔王様……? ちゃんと書類見てます……?」
ばばばんっっ!
「この山の上から二百二十三枚目! 獄炎谷の復興費用に関する予算申請書。だけど計算が雑だし字がきったないし、明らかにピンハネしてる箇所があったら却下。ついでに担当者を半殺しにしとけって書いといた」
ようやく書類を見つけたデュラハーンが確認すると…………。
「………………はい、間違いありません。邪魔して申し訳ありませんでした」
「わかったらコーヒーでも持ってきなさい。サーチ達の分もお願いね」
「畏まりました……魔王様はいつも通りミルクと砂糖たっぷりでよろしかったですね?」
「……そーうーでーすー! ここで言わないでほしいな、魔王の威厳が損なわれるじゃない」
「失礼しました」
……すでに威厳なんてカケラも……。
だんっっ!
ひいっ!
「……カケラも……何だって?」
「あ、危ないわね……! ペンは書くモノであって投げるモノじゃないわよ!」
「そりゃ失敬」
そう言ってソレイユは自分の翼から羽を一本引き抜いて、また書き始めた。ていうか、自分の羽かよ!
「それよりもエビルシャーマンの方はどうだった?」
……どうだったも何も。
「あれモンスターの裏切り者じゃなかったから安心しなさい」
「……は?」
エビルシャーマンのローブを剥ぎ取ってビックリだったわ。
「あれ人間だったわ」
ルーデルやリジーが使う≪化かし騙し≫によく似た魔術は存在する。≪変装≫という魔術で、姿カタチはもちろん、声や雰囲気まで変えられる。
ただ消費MPが地味に多いのと、十五分ごとにかけ直さないといけない……というデメリットのため、ほぼ意味がない魔術となっている。 まあその辺は≪偽物≫と同じで応用がきく気もするが……それはさておき。
「その使えない魔術を常に発動させられる便利なローブがあってね……」
「それがコレです。私も試しに着てみましたけど、見た目も声も間違いなくエビルシャーマンになってたみたいです」
これはデュラハーンと医療系ケンタウルスに確認済み。
「……スゴい魔道具ね……アタシの目も欺けるとは……」
「そうなんだけど……これってエビルシャーマンにしか変装できないみたいなの」
「……マジで? もったいないなあ」
「これは呪いの類い。長く身につけると脱げなくなる可能性大」
……呪いマニアのリジーが言うんだから間違いない。
「……このローブいる? リジー」
「いらない」
……さすがのリジーもいらないか。
「……どんなヤツなの?」
「……年齢不詳のオバサン」
今はリルが尋問してるけど、なかなかしぶといらしい。
「ていうか、誰の差し金かはわかってるんだから……もういいんじゃない?」
エビルシャーマンの部屋からは、わんさと証拠が出ている。だから私的にはもうあの世へゴー! でいいと思うんだけど。
「そうなんだけどねえ……もうちょっと情報が欲しいのよね……」
「帝国の回し者だってわかってるだけで十分じゃない?」
どうせアプロース公爵あたりじゃないかな?
「まあ帝国貴族なら誰でもあり得るからね……」
でもわからないなあ。
何がしたいわけ? 魔王にケンカ売ったって何の得もないじゃない。いくら帝国貴族に無能が多いからって、魔王に対抗できないことはわかってるはず。魔王に対抗できる勇者はもう……。
ん? 勇者?
…………まさか。
「ねえ、ソレイユ。今まで歴代の勇者と戦ったことはある?」
「あるわよ〜。二人かな」
「その二人って苦戦した?」
ん〜? と悩み込むソレイユ。どうも印象が薄いみたいね……。
「……あ! あったあった! 思い出したよ〜! かなり前に戦った勇者は強かったよ」
「……死にそうなくらい?」
「アタシが? まさかあ」
「でも手応えは……」
「んん……そこそこ」
そこそこ……ね。
「それって傍から見たら『かなりいい勝負じゃね?』って感じ?」
「ちょっと待ってて…………デュラハーン!! デュラハーンはいる!?」
「……はい、何か?」
「あんたの首がまだ繋がってた頃のこと覚えてる?」
まだ繋がってたって……ああ、そういえばデュラハーンって、ソレイユに一発貰って首がとれるまでは普通のゾンビだったんだっけ。
「はい、はっきりと」
「ならアタシと勇者の戦い覚えてる?」
「……はい。大丈夫です」
「デュラハーンの目から見て……戦いは互角に思えた?」
「何を仰いますか。魔王様に敵う者など、この世界には」
「そーゆー話してんじゃないの! 傍から見たら互角に見えたかどうかを知りたいの!」
「はい? 質問の意味はわかりかねますが……何も知らない者が見たら…………そう思えても仕方ないかと」
「それだ!」
「「……は?」」
「おそらくだけど、帝国貴族の先祖がソレイユと勇者の戦いを見てたのよ!」
「……見てたから何よ」
わかんないかな?
「さーて問題。帝国の頂点である皇帝陛下のご先祖は……誰?」
「……勇者の荷物持ち」
「ま、実際はそうなんだけど…………対外的には?」
「確か勇者の子孫とか名乗ってたわね…………はは〜ん……ナ・ル・ホ・ド……」
ソレイユはわかったか。
「……! ……わかりました! そういう事ですか!」
「「……?」」
リジーとデュラハーンはわかんないか。
「リジーとデュラハーンは降参?」
「……無理。わからない」
「そもそも私は話自体聞いていないのですが……」
……デュラハーンは途中参加だったっけ。
「デュラハーンには後で説明するわ……リジー。魔王を倒す役目を背負うのは誰?」
「……勇者」
「そう。で、皇帝のご先祖が勇者だと思い込んでる帝国貴族がいます。ここまでOK?」
リジーは頷く。
「その帝国貴族のご先祖が『勇者vs魔王! 世紀の決戦!』の目撃者だったわけです」
「……わかった。勇者の子孫である皇帝なら魔王を倒せると思ってる?」
「ピンポーン! 補足すると、勇者の子孫の皇帝が魔王と互角に戦えるなら、帝国軍を率いていけば必ず勝てる……って誤解してるのね」
ホントに信じ込んでるのなら、あまりにイタすぎるけど……その後、尋問を終えたリルの証言によって裏付けされた。
どうやら皇帝もノリノリらしい……。
救いようがない……。