表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/1883

第七話 ていうか、力が抜けるようなことばっかり起きる。

 スワリが治療を受けている間、何をするでもなく私は塔の中を彷徨いた。治療を担当していたケンタウルスに貰った名札みたいなプレートを着けていると。


「……ウソ……何にも襲ってこないよ……」


 急いでスワリを暴風回廊(ゲイルストーム)に担ぎ込んだ時は……。



「はあはあ……つ、着いた!」


 やっと塔の近くまできた。けど表から回ると…………また三冠の魔狼(ケルベロス)が出てくる可能性がある。なので事前に教えてもらってた裏口へ向かった。


「えっと……ここか。わざわざ『暴風回廊(ゲイルストーム)勝手口』とか書いてあるし」


 一番最初にここに来た時にすでに知ってたら……ずいぶん楽だっただろうな……。


 ドンドンドン


 ………………。


 ドンドンドン


「……反応が無いわね……ソレイユから知らせくらい来てると思ってたけど……」


 ドンドンドン


 ……いい加減、手が痛くなってきた。


「……一度ソレイユに念話水晶で連絡するしか……あれ?」


 ふと壁に目をやると。


『御用の方は押して下さい』


 …………インターフォンがあるんかい! ていうか、ファンタジーの世界よね、ここ!? 何でインターフォンがあるのよ!


「……まあ押せばいいのね、押せば……」


 今は細かいことを考えないようにしよう。とにかくスワリの治療が最優先だ。

 ……これでスワリに何かあったら後味悪いったらありゃしない……。

 よし、ポチっとな。


『こ・ん・に・ち・は! ここは“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトの一つ、暴風回廊(ゲイルストーム)だよ〜ん』


 思わずズッコケる私。ソ、ソレイユの声よね!?


『もうすぐ怖〜いモンスターが出てくるから…………良い子はすぐに帰りなさいよ! どうしても用事があるなら待っててね! …………以上、魔王ソレイユでした! ……ブツッ』


 どうやら録音されてた音声らしいけど…………今はつっこむまい。今は…………。


『ブツッ…………はいはーい、ちょっとお待ちくださいっと』


 誰か出たかと思えば、何ともやる気のない声がドア越しに聞こえてくる。

 この声は……。


「……デュラハーンじゃないの?」


『ん? その声は…………あ、思い出した! 私の頭を蹴飛ばした露出狂女だな!?』


「誰が露出狂女よ! さっさと開けなさいよ!」


『ちょっと待て……』


 ……ガチャッギイイ


「……すまぬ、お待たせしたな」


「何でドア一つ開けるのにそんなに時間かかるのよ!?」


 デュラハーンは無言でカギを指差す。


「カギね……一、二、三……十本あるけど……」


「この鍵のどれかがこのドアの鍵だ……毎回ランダム(・・・・・・)なんだよ」


「……じゃあ……運が悪いと全部カギを試さないと開かないの?」


 無言で頷くデュラハーン。抱えられた頭だけで頷くって器用ね……。


「……作ったのは当然……」


「……魔王様に決まってるだろう……」


 中間管理職(デュラハーン)は大変なのね……と呟いて中に入る。

 すると。


 グワアア!

 グェアア!


「え!? モンスターがいるの!?」


「私と数名以外はダンジョン産だ」


 がぎいん!


 モンスターの一撃を≪偽物≫(イミテーション)の盾で受け止める。


「! ……おい、魔王様からプレートを貰ってないのか!?」


 モンスターを蹴り飛ばしながら。


「何にも預かってないわよ!」


「走れ! 全力で走れ!」


 言われる間でもなく、全力で逃げ出した。私のとなりには、スワリを担いだデュラハーンが並んでいる。


「あんたは襲われないんじゃないの!?」


「このプレートの魔術でモンスターに認識されないようにしていただけだ! 一度認識されれば無効だよ!」


 ……あ、そっか。

 スワリ担いで走ってれば、当然認識されるわよね!!


「どこか安全地帯は!?」


「次の角を曲がってすぐの扉を蹴破れ! そこから先はダンジョン産には立入禁止の結界区域だ!」


「蹴破っちゃっていいの!?」


「緊急事態だ! ダンジョン産に食い殺されるより始末書の方がマシだ!」


 そりゃそうよね!


「ソレイユには私からも文句言っておくわ!」


「助太刀歓迎致す!」


「「ううりゃあ!」」


 私のドロップキックとデュラハーンの喧嘩キックがドアにヒットする!!


 ドバキャアン!!


「んぎゃあ!」


 粉々に砕け散ったドアの内側に滑り込む。


 グガア……


 ……モンスターは悔しそうに引き返していった。た、助かった……。


「おい、エビルシャーマン! しっかりしろ!」


「……どしたの?」


「我らがドアを蹴破った際に……ちょうどドアの内側にいたみたいでな……」


 ……あの「んぎゃあ!」はエビルシャーマンの声だったのか。


「もう一人ケガ人が増えちゃったか……デュラハーン、医務室はどこ?」


「あ、ああ。こっちだ」


 ……今度は私が担ぐ番だ。エビルシャーマン……どう見てもメタボよね?


「……くっ! 重い……!」


 ……医務室までめっちゃ遠い気がした。



 ……という経過で医務室に二人を運び込んだのだ。まさか回復魔術士がケンタウルスというのもビックリだった。外見もろに狩猟(せんとう)民族なんだけどね……。

 ちなみにケンタウルス本人にその旨を伝えてみると。


「……私もよく言われます。ただ意外とケンタウルスには回復魔術士が多いんですよ」


 ……とのこと。

 ていうか、めっちゃ美人さんでめっちゃ巨乳だった。


「……ソレイユは部下の皆さんにバストでは負けてるわよね……」


「……ふぅ〜ん……そんな事言っちゃうんだ〜」


「あ、ソレイユ……やっと来たのね。半蛇人(ナーガ)はデュラハーンと医療系ケンタウルスがちゃんと看ててくれてるわ」


 ソレイユの背後にはリル、エイミア、リジーがいる。ちゃんと来れたのね。


「……何よ、その『ちゃんと来れた』ってのは」


 また心を……もうつっこむまい。


「私みたいに超強行軍なのかな〜? と思っただけよ。音速地竜(ソニックランドラゴン)の全速力を軽く超えるスピードで、しかも何回も宙返りに急上昇に急下降……私、マジで死にそうな思いしたから」


「それは大丈夫。アタシの転移で一緒にきたから」

「快適でしたよ〜」

「問題無かったぜ」

「ん。無問題」


 ……こんだけ早く来れるんなら、最初から私も含めて転移してくれれば良かったのに。


「月が……ね」


 ソレイユがポツリと呟いた。そういえば今日は三つある月のうち、二つが新月か……その辺りが関係してるみたいね……。


「サーチには悪いことしたと思ってる。けど……アイツ(・・・)がいないってことは……サーチが何かしてくれたんでしょ?」


 ん……まあね。

 暴風回廊(ゲイルストーム)にはソレイユの配下として詰めているのは三人だけだったから、怪しいヤツ特定するのは楽だったし。


「デュラハーンとケンタウルスが違うのはすぐわかったから……さっきアイツ(・・・)の部屋に忍び込んだら……ホラ」


「うっわ……わんさと証拠が出てきたわね〜……」


 今、話に出てたアイツ(・・・)……エビルシャーマンはぐるぐる巻きにして治療兼監禁中。

 さて、ソレイユも来たことだから……これから尋問ね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ