第六話 ていうか「落ちる! 落ちるぅぅぅっ!!」「落ちます! 落ちちゃうぅぅぅっ!」「ぴぎゃ! ぴぎゃああああああ!」
ごおおおおおおおおおっ!!
「きいああああああああああ!!!」
速い! 速すぎるっ!! ていうか、寒い!
「まだ慣れませんか?」
そんなにすぐに慣れるかあああああ!! 音速地竜を遥かに凌ぐ体感スピードなのよ、これ!! こんなのロケットに縛りつけられて発射されたようなもんじゃない!
「魔王様からの命令ですので我慢してください! 更にスピード上げます!」
「うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「少し風向きが変わりましたので、直角に方向転換!」
「あひゃ! うひょ! どぅえええっ!!」
「ではここで一発! 得意技のツバメ返し!」
「あああああああああっ!! ていうか、宙返りの必要性ないだろがっ!!」
ごいんっ!
「んげえっ!」
たくっ! 完全に私が絶叫するのを面白がってたわね!
「ほら、ちゃんと飛びなさいよ」
「………………」
「ちょっと! 急に下降を始めないでよ! マジメにやんなさい!」
「………………」
「こらっ! いい加減にしないとソレイユに言いつけるわよ!」
「………………」
「? ……もしもーし? ちょっと?」
「………………」
「……白目むいてるぅぅぅ!!」
しまった! 強く殴りすぎたあああ!
「きいあ〜〜〜!!」
「………………」
……私達はくるくる回転しながら墜落していった……。
ガサッガサガサッ
グエ……グエ……
「………………ぁぁぁぁぁああああ…………」
……グギョ?
「あああああああああ!!! どいてどいてどいてええええええっ!!!」
ぐがああああっ!!?
どっっぐおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉんんんっ!!!
ぎょえ! ぎょえ!
…………デカいトカゲみたいなヤツが、涙目で逃げてったわね…………ていうか、私生きてる!!
「……ごほ! ……けほけほ……」
……頭……手……足…………身体……胸……胸……異常なし。
「はああ……よく助かったわね……」
……ダメ元で≪偽物≫発動、ミスリル製の薄い膜を作ってみたんだけど……うまくパラシュート代わりになった。
「結局途中で膜に穴あいて、落ちてきたんだけど……」
ケガも無かったんだから万々歳だ。
……ていうか、忘れてた!
「スワリ! スワリー! 生きてたら返事しなさーい! スワリー!」
「…………ここにいますよぅ…………」
ん! 上か。
「自分で降りれる?」
「ムリでーす……あちこち痛くって……」
……大ケガしてなきゃいいんだけど……。
「今から登るわ! ちょっと待ってなさい!」
木登りは小さい頃にしょっちゅうやってたので苦手じゃない。それに≪偽物≫で爪を作って指にはめてるから、さらに早く楽に登れる。
「スワリ! スワリー!」
「……ここですよぅ」
ようやくスワリが引っ掛かっている枝まで上がったけど…………。
「………………」
「……早く助けてくださいよぅ……」
「……誰?」
フルで身に付けていたプレートアーマーは、ほとんど千切れ飛んでなくなり。
顔がほとんど隠れていた兜も、てっぺんに近い枝に引っ掛かっている。
「私がスワリですよぅ……」
様々な鎧が無くなって出てきたのは、とっっても儚げな可憐な少女だった。
「……しゃべり方も何か自信なさげになったわね」
「………………人見知りなんですよぅ…………」
鎧という精神的バリアがあったから、ああいうムチャができたのね……。
まあ……ハンドル握ったら性格が変わる運転手もいるし……それと一緒か。
「ていうか、胸デカっ! 何よあんた、ロリ巨乳属性だったの!?」
「ろり……?」
あ、ロリは通じないのね。
「えっと……小柄だけど巨乳っていうギャップ萌えよギャップ萌え!」
「も、もえ……?」
………………ややこしくなっていくだけな気がする。話題を変えよう。
「ケガはない?」
「あの……ろりともえの話は……」
「忘れなさい!」
「ひえっ!? は、はい…………あ、ケガはないですぅ」
「わかったわ。じゃあ降りるわよ……………………何やってんのよ、早く来なさいよ」
スワリは「ひぇ」だの「はう」だの言って全然降りてこない。
「…………あんた…………まさか……」
「……高いの怖いですぅ……」
どんだけ性格が変わってんのよ!!
「あーもー! 時間が無いんだからとっとと降りろ!!」
「え、イヤひええええええええええっ!?」
…………マジ?
「……あんた鳥なんでしょ? 翼で減速したりできなかったの?」
……て言っても聞こえないか。見事なほどのV字を晒している。ピクリともしないから……気絶してるな。
このままだと窒息しちゃうから……引っこ抜くか。
「……せーの!」
……ふぬぅ…………っ……いぃぃっ……くはあっ! はあ……はあ……。
ぬ、抜けない……。
「……どうしよう……」
うーん……私のスキルじゃどうしようもならないし。
グエエ!
「! ……びっくりした……」
悩んでいると、少し離れた場所から何かの鳴き声が聞こえた。
あの鳴き声……さっきのトカゲモドキじゃないかな?
「……あれぐらい身体が大きければ……力も強いわよね……」
……ニヤリと笑ってから準備を始めた。
「無限の小箱に仕舞いっ放しになってたロープを、スワリの足に巻きつけて……と……」
もう片方を輪っかにして……よし、準備OK!
「普通なら西部劇の投げ輪なんだろうけど……私は確実にいきます」
≪忍び足≫と≪気配遮断≫を最大限利用して、トカゲモドキの背後に近づく。
一歩……また一歩……。
トカゲモドキが首を動かしたりする度に、視界から外れるように身を隠す。
……そんな地味な動きは一分ほど続き…………今だ!
「ふっ!」
一気に間合いを詰めて、トカゲモドキの首に輪っかをかける!
グエ!?
よし、成功!
あとは引っ張ってもらえばよし!
必殺! 渾身の……!
「おしおキィィィック!!!」
どごおっ!! めきめき!
ぴぎゃああああああ!!
めっちゃくちゃ痛かったらしく、トカゲモドキは天高く舞い上がった。
それに引っ張られて。
ググ……スポンッ!
「よし! 抜けた!」
うまくいった!
あとはスワリを確保すれば……。
………………ぁぁぁぁぁあああああ!!!
どずうん!
あ、トカゲモドキが戻ってきた。
ぴぎゃ! ぴぎゃああ!
あ、泣いてる。
ぴぎゃあああ!!!
そしてトカゲモドキは全力で逃げ出した!
「あ! ちょっと待っ「あああああれええええぇぇぇぇ…………」…………て」
……一緒にスワリも引っ張られて行っちゃった……。
「ああもう! 最後の詰めが甘かったわ!」
そう言ってから、トカゲモドキとスワリを追い始めた。
約一時間後。
HPが残り一くらいにまで減った状態のスワリが枝に引っ掛かっているのを発見した。
ついでに近くに暴風回廊の塔も見つけた。
……なるべく急いで暴風回廊に行き、スワリの治療を頼む。
「……よく生きてたな……相当手強い敵と戦ったようだな?」
……スワリの名誉の負傷の真実は…………絶対に言わないことを誓った。