第三話 ていうか、話の脱線から各自の意外な出自が明らかに?
重大な秘密を打ち明けられた私達は、改めてソレイユから最終確認をされた。
「本っ当にいいの? 下手したら同じ種族を敵に回しちゃうよ?」
「構わねえ……というより私達獣人は、魔王と敵対したことはねえからな……ソレイユに協力したくらいでどうってことないよ」
あ、獣人って人間よりは魔王に好意的な種族だったっけ。
「私もです。人間の事は嫌いじゃないですけど……私はソレイユに味方します」
……? 「私は人間じゃありません」みたいな言い方ね…………ハーフなのかしら?
「エイミアって人間と何かのハーフ?」
「「「「……へ?」」」」
な、何よ。
「サーチ……知らなかったのかよ……」
「な、何を?」
……リルは「たまにヌケてるんだよな……」とかぼやいた。失礼ね!
「……勇者は元々人間じゃないんだよ」
……ええええええええええっ!?
……リルの説明を簡単に言うと。
元々勇者の血筋は少数民族であった「鬼人族」である。〝知識の創成〟が身体を乗っ取ることができる対象には、いくつかの条件が必要となる。
その一つが「人間と鬼人族のハーフ」なのだ。今現在の鬼人族は混血が進んでしまい、鬼人族のハーフはとても少ない。それがエイミアが勇者に選定されてしまった理由だろう。
……ということらしい。
さすがに人間は知ってるヤツは少ないだろうけど、獣人の間ではメジャーな話なんだとか。
「……ていうか『人間で知ってるヤツが少ない』のなら私が知ってなくても不思議はないんじゃない?」
「「「「……………………へ?」」」」
な、何なのよ! またその反応!?
「………………ま、いいか。とりあえず後回しでー」
全員頷いてため息をついた。だから何でよ!?
「エイミアの親父さんは人間の貴族だよな? ならお袋さんが?」
「はい、純血の鬼人族でした」
「エイミア。鬼人族って……角あるの?」
「はい、ありますよ。私も……ほら」
エイミアが髪を掻き分けて見せてくれた。
「……ちっさ! 角ちっさ!」
「ち、小さいですけど角は角です!」
……これでわかった。エイミアが≪撲殺≫とか≪滅殺≫とかのこん棒スキルを異様に覚えた理由。そりゃあ鬼には金棒だもんね……今回は釘こん棒だけど。
「……今から考えるとエイミアに釘こん棒って、ジャストフィットだったのね」
「……サーチはわかってて私に釘こん棒を勧めたんだと思ってました」
単なる経済的理由です。簡単に作れて原価は釘代だけで済むし。
「あのー」
「はい、リジーどーぞー」
突然話に割り込んできたリジーをソレイユが指名する。
「私は種族は何なの?」
「……狐獣人……じゃないの? 種族スキルの≪化かし騙し≫も使えるんだし……」
リルとエイミアも同意らしく頷いている。
「ぶっぶー! 違いまーす!」
「え? 違うのソレイユ?」
「そ♪ あれから私もちょーっと気になってさ。仕事デュラハーンに押し付けて調べたのよ」
仕事しろよ。
涙目のデュラハーンが目に浮かぶよ。
「そしたら秘密の村に同じような子がいたのよ!」
マジか。
リジーみたいな複雑な出自の子が他にいるとは。
……ていうか……あれ?
「ソレイユ。秘密の村って……モンスターの村よね?」
「そうよ〜」
「……じゃあ何? リジーって……」
「うん。分類上はモンスターになるわね」
「「「……モンスター……」」」
私とエイミアとリルとでまじまじとリジーを見る。ずいぶんと可愛らしいモンスターね。
「ずいぶん可愛いモンスターだな……」
「ずいぶん可愛いモンスターですね……」
全員同じ感想だし。
「可愛い? えへ」
「「「喜ぶとこかよ!」」」
私達につっこまれるとリジーはコテンと首を傾げた。
「何故? 可愛いと誉められたら、喜ぶのが自然の摂理」
「いや、男なら『可愛い』言われても喜ばないんじゃない?」
ソレイユのつっこみに片膝をつくリジー。
「さすが魔王様……つっこみもエグい……」
「「「……あ」」」
「?」
「私のどこがエグいのかな〜? つっこみもエグいって立派な失言よね〜♪」
「うあ……」
リジーも意外と余計なこと言っちゃうのよね……。
「ひぃああああああああっ!!」
「……で、リジーは生きた人形っていうモンスターに分類されるわ」
「……字面的にリジーの境遇にぴったりだけど……具体的に人間とどこが違うの?」
「そうね……見た目は一緒で歳をとることはない。魔法が使えない、人間より『力』が強い……以上!」
「……ほとんど人間と変わりないのね」
「そうよ〜♪ 皮膚の感触もまったく一緒だから【いやん】や【ばかん】もできるよ〜」
……デカい声で何を言ってるのよ……。
「わかった。今度【いやん】してみる」
やらんでいいわ!!
ていうかリジー復活早いわね!
「……なあ、私達って何の話してたっけ……」
「ん? いいのよー駄弁ってれば。私達は待ってればいいから」
「「「「……はい?」」」」
「そろそろアタシの配下が半蛇人の身柄を押さえてるはずだから」
配下?
「……ソレイユ」
「なあに〜?」
「配下なんていたの?」
「い・る・わ・よ! アタシ魔王よ!? 配下いない魔王なんて魔王じゃないわよ!!」
……さいですか。
「魔王様は一人ぼっちで寂しいと思ってた」
「「「……あ」」」
「何?」
「リジー……ハーフキルね」
ハーフ……ああ、半殺しね。
「ひぃああああああああっ!!」
……リジーも懲りないわね。
「確保したらアタシに念話してくる手筈だから……本当に待ってれば大丈夫よん♪」
そう言えばデュラハーンも配下なのか。ていうか、デュラハーン見てるとソレイユの配下って大変そうね。
「………………」
あ、ソレイユがジト目で私を睨んでる。気を付けよ……。
「……サーチの心の声は駄々漏れだからね?」
す、すいません……。
「それにしても……私達のパーティって人間少なかったのね〜」
「……というより人間いないですよね」
……さっきから気になってはいたんだけど……。
「……もしかして……私も人間じゃないの……?」
「……ちょーっと待ってよ……マジで気付いてないわけ? 親見ればわかるでしょ、自分が何なのか」
「待て待てソレイユ。サーチは孤児だぞ」
「……そうだったっけ? うぅんと、聞いてないよ、アタシ」
「まあ私も話したかどうかなんて覚えてないし……」
「なら仕方ないか……それにサーチ本人にはわかりづらいかもね……」
「あー……そういやそうだな。私達はしょっちゅう見せられてるから」
「そうですね。サーチは室内ではほぼ全裸ですし」
「嫌でも目に入る」
?? つまり身体のどこかに特徴が出てるってこと?
「本人にはわからないよ。背中だから」
「……それは見えないわ」
「ちょい待ち…………よっと」
ソレイユは無限の小箱から鏡を取り出した。それを私の背後に置く。
「はいこれ」
ソレイユは小さい手持ち鏡を持たせた。
「合わせ鏡ね……」
そうやって見た自分の背中には……。
「……あれ? 肩甲骨に沿って傷跡がある……?」
こんな傷、まったく覚えがないんだけど。
「傷跡じゃねえよ」
リルが教えてくれた。
「それは翼が生えていた名残だよ」
つ、翼あ!?