第二話 ていうか、ソレイユに全面的に協力致します!
「どういうことなの? 何があったの?」
苛立ちながら爪を噛むソレイユに聞くが。
「何でもない」
「その状態のあんたを見て『何でもない』なんて信じられるわけないじゃない」
ソレイユは私達をキッと睨んで。
「……聞かないで。お願い。この事には人間達を巻き込むわけにはいかないの」
……何を今さら。
「あーのーねー……私達が〝死神の大鎌〟の件でソレイユに協力したのはね、エイミアのことがあったってのも事実だけど……ソレイユの頼みだからってこともあったのよ?」
「………………」
「言っとくけど、私達竜の牙折りは友達を見捨てることと温泉を汚すことは絶対に許さない!」
「ちょっと! 途中までめっちゃ良い事言ってると思ってたら……何で友情と温泉が並んでるのかな!?」
「友情と湯で『ゆ』つながり!」
「意味わかんない! 全く意味わかんない…………ぷっ」
突然吹き出したソレイユは。
「あははははははははははははっ!! いっひひひひ! キャハハハハ! けほけほ!」
……腹を抱えて笑い始めた。最近わかったけど、ソレイユは笑い出したら止まらないタイプらしい。
……三十分後。
「……はははは! 腹痛い腹痛い……ひゃひゃひゃひゃ!」
……おい、笑い過ぎだろ。
「……エイミア」
「はい?」
「≪電撃クラクラ棒≫を一発」
「何ですかそれっ!?」
「何でもいいわ。とりあえず何かぶち込んで」
「え〜……」
……まあエイミアに頼んでどうにかなるものでもないわね。
なら。
「エイミアごめんね〜」
プチン! シュッ!
「え、きゃああ!! な、何するんですか!」
エイミアのブラを抜き取って。
「あははははははばふっ」
大口開けて笑ってるソレイユの口に突っ込んだ。
「うぇ……何すんのよ! 何これ………………ってデカ!!」
胸を抱えてしゃがみこむエイミアを見て。
「ああ成程、エイミアの…………ってF!?」
その前に縮地して。
ぶちぶちぶちっ!
……エイミアの服をムリヤリ開いた。
「嘘でしょお!? この美乳でF!? あり得ない! マジあり得ないんですけど!?」
ソレイユ完全に暴走中。どこのセクハラオヤジだよ。
バチ! バリバリ!
あ、エイミアがキレた。
「……げっ! エイミア……?」
「みんなー退避するよー」
私の引率の元、安全な場所へ避難。
「あ、あ、あなたは……………………何をしてんですかあああああああぁぁぁっっっ!!!」
どっっっがああああああああんんんんっ!!
「ぃみゃあああああぁぁぁ………………!!!」
……あ〜……ソレイユが遥か彼方へ飛んでいく……。
「……たーまやー……」
リジーが呟く。
ていうか、何で知ってる。
「……結構、強烈だっわ〜……なかなか飛んじゃったよ」
……何て言いながらも平然としてるわね。
「……ケガとかしねえのか?」
「たぶん魔王様の皮膚は分厚いかと」
「「「あっ」」」
「何……あ」
余計なことを言っちゃったリジーの目の前には……。
「……アタシのどこが分厚いって〜?」
お、リジーが珍しく口をパクパクさせてる。
「あ、いや、あの……」
ソレイユは両手を広げた。右手には大型のハンマー、左手にはでっかい火の玉が出ている。
「……どっちがい〜い?」
「どっちも嫌」
「じゃあ両方」
「ひぃあー」
リジー……口は災いの元っていう言葉を贈るわ。
「とりあえずリジーとソレイユは放置します」
「……でもどうするんだよ……ソレイユから話がないと、どうしようもねえだろ……」
「だいたい想像つかない? 発見されたと騒がれているのは半蛇人よ。しかも意思がある、なんてオマケ付きの」
半蛇人が捕獲されたなんて、たぶん初めてのことじゃないかしら。
ていうか、目撃例もほとんどないと思う。
「……ソレイユが言っていた……意思があるモンスターですか?」
「うん……もしかしたら、そのモンスター達の住んでる場所がこの近くにふがっ」
ずるずるずる
誰かに口を塞がれて引き摺られている。たぶんソレイユだろう。
この反応ってことは……当たりか。
バンッ!
近くのボロ家のドアを蹴破って中に入る。たぶん空き家だとは思うけど、誰かいたらどうするつもりだったのよ。
「滅殺するわ」
誰もいなくてよかったあ!
「ここでいいわね……聖術≪私の庭≫」
術を発動させると、周りの音が全てシャットアウトされた。
「≪私の庭≫に包まれている空間は誰も侵入することはできないし、音が漏れることも無い……」
そう言ってからソレイユは近くの椅子を引き寄せて座った。
「アタシがこれから話すことは、アタシを含めても数人しかしらない超極秘事項。一応言っておく。聞いたら後戻りはできないよ」
……何回言わせる気やら。
「何を今さら……私達はソレイユに協力する気満々なんだけど?」
「……たっぷりと貸しにできるしな……魔王様に貸しってすげえぜ」
「私はソレイユに返しきれないくらいの恩があります。ソレイユが困ってるなら何でもします!」
「……魔王様の心のままに……」
ちょっと。リジーがめっちゃ虚ろなんだけど……何をしたの?
「………………わかった。サーチ達を…………巻き込むわ」
ソレイユはポツリポツリと話し始めた。
「前に暴風回廊で話したけど……モンスターには意思がある……覚えてるよね?」
「うん」
ダンジョン産の意思を持たないモンスターは、普通のモンスターを目立たなくするためのカムフラージュの意味合いが強いって。
「アタシはあいつらを守るためにダンジョンを作り続けた……」
ダンジョンが生み出すモンスターによって、人間が犠牲になってるは事実。だけどモンスターの素材によって、人間社会が成り立ってるのも事実。
……これが魔王が討伐されることがない理由。
「それでも見つかって殺されるモンスターが続出した。あいつらが安心して暮らすには、人間を完全に遮断するしかない……そう考えたアタシは〝八つの絶望〟の最奥に秘密の村を作ることにした」
〝八つの絶望〟の最奥!?
「ちょっと! 私達、散々〝八つの絶望〟を引っ掻きまわしちゃったんだけど……」
獄炎谷なんかリゾート化しちゃったんですけど!
「全部じゃないわ。今までサーチ達が入りこんだ〝八つの絶望〟は全部カムフラージュだから」
……ほ。
「あいつらがいるのは……二ヵ所。その一つが……」
ソレイユが窓の外を指差す。
その方向は……帝都?
「……旋風の荒野?」
「……当たり」
うあ……史上最悪のダンジョンか……。