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閑話 魔王の始まりの物語

 アタシは何から生まれたのか、未だにわからない。

 〝知識の創成〟(アカデミア)に創造されたとは言われているけど……たぶん違うと思う。

 だって……もし本当にそうだったのなら……。



 創造主を裏切るような事はしないだろうから……。



 アタシは他の天使達の中でも、特に異質な存在だった。

 他の皆は知性的。だけどアタシは直情的。

 他の皆は周りに気を使う。だけどアタシは無関心。

 他の皆は人を敬う。だけどアタシは……人に興味が無い。

 他の皆は人間達を治め導くことを己の使命だと感じ、それぞれの領地で国を興した。

 アタシは何もしない。というより「何かすること」を許されない。他の皆よりも攻撃面に特化して創造された(つくられた)アタシは、不測の事態が起きた時の切り札なのだ。

 ……アタシは「不測の事態」が起きるまで、意味も無く眠るしかなかった。



 ある日、ついにアタシが必要とされる事態が起きた。

 順調に数を増やしていた人間の前に、異なる種族が立ちはだかったのだ。

 それは亜人と称される種族だった。

 ハイエルフや獣人、古人族などの総称であった亜人。アタシ達が導き保護してきた人間とは決定的に違う面があった。



 それは。

 人間は〝知識の創成〟(アカデミア)が創造したものであるのに対し、亜人は「自らの進化」によって自然に発生した種族である、ということだった。


「……亜人か……邪魔よのう……」


 この〝知識の創成〟(アカデミア)の一言によって、亜人の討伐が決定した。



 解き放たれたアタシは、嬉々として亜人を殺してまわった。

 それがアタシの「存在意義」であり……初めて自分が生きている事を感じることができた瞬間だった。

 だけど……アタシの快進撃は、あるハイエルフが現れた事によって止められた。

 そのハイエルフの名はサーシャ・マーシャ。後にハイエルフの女王として君臨する事になる少女だ。

 アタシとサーシャ・マーシャとの戦いは三日三晩続いた。

 どのような結末に至るかも全く見通せない血みどろの争いは、本当に些細な出来事で終わる事となった。

 何て事はない、サーシャ・マーシャが懐に入れていた念話水晶が落ちてアタシの足元に転がったのだ。

 たまたま繋がった先にいたエルフの少女がアタシに言った。


「お姉ちゃんだーれ? とってもキレイな白い羽根ね!」


 ……この瞬間に私の目に意思の光が宿った、とサーシャ・マーシャは当時を振り返って聞かせてくれた。



 サーシャ・マーシャに導かれ、エルフの少女達と親交を持ち、様々な知識を身につけていく。

 それは〝知識の創成〟(アカデミア)からの押し付けの知識とは違う、貴重な貴重な経験。次第に感情をも見せるようになるアタシ。

 そんなアタシの変化を好意的に感じとって支援してくれたのが〝繁茂〟だった。

 〝繁茂〟の説得もあって〝知識の創成〟(アカデミア)は。


「このまま観察対象(・・・・)として亜人を残すとしようかの」


 ……と方針を転換した。



 こうして人間と亜人との戦争は終わった。



 だけど……〝知識の創成〟(アカデミア)は……ある種族だけは存在を許さなかった。


「見るだけでもおぞましいわ。穢れた魔物どもが」


 そう吐き捨てる程に〝知識の創成〟(アカデミア)に嫌われた種族……それはモンスターだった。

 当時のモンスターは、確かに人間にとって脅威でしかない個体も多かった。

 多くのモンスターは欲望に流されるままに、自分達よりも弱い存在……人間を標的としていた。

 獣人ほど『力』も『素早さ』も無く、エルフほど『かしこさ』も無い。まして古人族のような卓越した魔術も無い。

 大自然の中での絶対の真理「弱肉強食」の前では、人間はあまりにも無力だった。



 ここで再びアタシの出番となった。

 だが今回は一人ではない。

 女王となったサーシャ・マーシャもいる。協力してくれる獣人や古人族もいる。アタシは一人じゃない。「仲間」という新たな力を手に入れたアタシ達は、破竹の勢いでモンスターを蹴散らしていった。



 だが、ここで予想外の事件が発生する。

 人間によって古人族が虐殺されだしたのだ。


「……何で『護られるべき存在』だった人間が『護ってくれる存在』に牙を剥く!?」


「わからねえかな……もう俺達は弱くねえんだ! お前らが『狩られる側』なんだよ!」


 ……その言葉の後に、アタシの仲間であった古人族は斬り殺された。



 そして。


「やめてください! 私達には戦う意志はありません!」


 さらに混乱を起こす事態が発生した。

 己の意思によって降伏を宣言するモンスターがいたのだ。


「私達は他のモンスターとは違います。戦いたくありません! 私達は静かに暮らしたいだけなんです!」


 ……その必死の叫びは……あの日のエルフの少女の声と重なって聞こえた。



 そして、決定的な出来事が起きた。

 あってはならない天使同士の対立。

 そこから生じた自分達の国を使った代理戦争。

 ……無意味戦争(センスレス)の勃発である。



「こんな馬鹿な事があるか! 〝知識の創成〟(アカデミア)様に調停していただこう」


 天使のリーダーであった〝光明〟の提案に賛同した〝繁茂〟とアタシは、〝知識の創成〟(アカデミア)に意見をした。


「このような事態に陥ってしまった以上、最高神としての責任を全うして頂きたい」


 その切実な訴えを聞いた〝知識の創成〟(アカデミア)は。


「……まだこの実験(・・)は途中じゃ。放置せよ」


 ……と言い放った。



 あまりの言葉に唖然としつつも、なお言い募る〝光明〟と〝繁茂〟。

 ……けど。


「……五月蝿い。消えろ」


 〝知識の創成〟(アカデミア)は手元にあった「汚れた水」をアタシ達に投げた。

「汚れた水」はアタシ達の翼を侵食し。


「ぐああああああっ! 何故!? 何故なのですかあああっ!!」


 ……〝光明〟は消滅。


「おのれええええええ! 〝知識の創成〟(アカデミア)!! いつかお前に刃を突き立ててやる……!!」


 ……〝繁茂〟は消滅寸前に、大型の鎌へとその身を変異させた。


 そして……アタシは。


「ぐううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 片方の翼が溶け落ちても……耐え抜き。


「ぐは……はあはあはあはあ……」


 片方の翼が真っ黒に染まっても……生き延びた。溶けなかった翼は……幾多の戦いの中で、返り血を浴びて紅く変色していたのが幸いしたらしい。



 その後、半死半生の状態で地面に堕ちてきたところをサーシャ・マーシャに救われた。


「サーシャ・マーシャ……アタシは〝知識の創成〟(アカデミア)を許さない。アタシは神と敵対する……魔王になる!」



 そして魔王(アタシ)と天使達との戦いが始まった。


「ぎいああああああぁぁぁぁ……」


「弱い! 弱い弱い弱い! 天使なんてこんな程度なの? まだアタシが戦ってきた奴らのほうが手応えあったわよ!」


 アタシに味方してくれたモンスター達と生き残ってた古人族。そして影から支えてくれたサーシャ・マーシャ達によってアタシは勝ち続け。



 ついに。


「わ、我は知識が欲しかっただけ……うぎゃあああ!」


 〝知識の創成〟(アカデミア)を消滅させる事に成功した。



「我が魂は不滅じゃ! 我は〝知識の聖剣〟(アカデミア)となる。いつか我と勇者(いれもの)がお前を討ち果たそうぞ!」


 けど〝知識の創成〟(アカデミア)は生きていた。

 ホントにしつこくしつこく勇者に握られてアタシに向かってきた。

 ま、毎回返り討ちにしてやったけどね。



 で、ある日。

 サーシャ・マーシャが。


「……助けてくれぬか……我が夫が勇者に! 助けてくれぬか……」


 ……アタシはサーシャ・マーシャの旦那さんから聖剣を預り。


「ほうらほら! アタシを倒すんじゃなかったの?」


「うがああ! 何故!? 何故お前に勝てぬのじゃああ!!」


 ……ついにアタシは聖剣の力を封印することができた。

 けど〝知識の創成〟(アカデミア)を滅ぼすには二つの力がいる。

 一つ目は唯一〝知識の創成〟(アカデミア)に呪いをかけた存在である〝繁茂〟。つまり、〝死神の大鎌〟(デスサイズ)

 二つ目は〝知識の聖剣〟(アカデミア)を扱うことができる今代の勇者、エイミア。

 ……ついにこの二つが揃う時が来た。



 唯一の不安だった〝知識の創成〟(アカデミア)の抵抗も、サーチの提案によって解消された。



 そして……ついにこの時が。



「……やったよ……みんな……」


 ……涙が止まらなかった。


「ついに……討ち果たしたよ……」


 ……いつまでも止まらなかった。



 そして現在。

 なんか無事に転生していったらしい〝知識の創成〟(アカデミア)に腹が立たないわけじゃないけど、もうアイツがこの世界に影響を及ぼすことはない。



 アタシは幸せだ。

 サーチ達みたいな新たな友達もできたし。

 無理だと思っていた出来事。


『……遅いぞ! 思念体とはいえ待ちくたびれた!』


「ごめんごめん! ほら、行こ行こ!」


 ……〝繁茂〟と再び同じ時間を過ごせるのだ。



 ……これ以上、何を望むと言うのだろう……。

明日から新章です。

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