第十三話 ていうか、私の番。
「うう〜……筋肉がまだおかしい」
エイミアの≪蓄電池≫のせいで気絶していたらしい。
横でエイミアがプリプリ怒っていた。
「自業自得です!」
「いや、意味がわかんないんだけど……」
「確かにダイアンさんには負けましたし、辱しめられもしました! 責められる要素はあったかもしれません!」
いや、要素ありすぎでしょう……。
「でも! サーチがあそこまで怒る必要はありません! サーチに何か悪意がむくようになるのは耐えられません!」
……?
「何? それじゃあ私が逆恨みされて危害を加えられるのが嫌だ、てこと?」
「そうです! 私とて貴族のはしくれ。市民を守り導くのが貴族としての、ドノヴァン家の義務であり責任なんです!」
「……勘当されてるのに?」
ぴきぃん
あ。しまった。
私、言ってはいけない事を言っちゃったみたい……。
「うぅ……ぐすんぐすん……確かに勘当されましたけど……ぐすんぐすん……私にも誇りが……びええええ」
あ、泣いちゃった。
「ごめんね。でも、髪を焼いたのはどうしても許せなかったのよ……」
「……回復魔法で治りますよ?」
え!? そうなの?
近くにいた回復魔術クラスの子達に視線を向ける。
コクコク
全員頷いた。
…………。
「それでも……許せないの!」
なんだか分が悪くなった私は強引に話を打ち切った。ていうか、正直ダイアンにはやり過ぎた、いう気はしない。
ていうか殺り足りない。
……あ、字が違った。
「あ、気が付かれましたね」
ギルドの係員が声をかけてきた。
受付の人だ。
「もし身体の調子がおかしいようでしたら棄権なさいますか?」
……もう順番なんだ。
「大丈夫。出ます」
「わかりました。ただ……」
ただ?
「ダイアンさんみたいに相手の心を折るのは……控えてくださいね?」
「あー……はいはい。出来るだけ穏便にします」
「で、出来るだけ……」
受付の人の顔色がヤバいのでもう止めとこう。
……あ、そういえば。
「……大安くんは?」
「なぜかサーチさんだけダイアンさんの呼び方が違うような気がしますが……」
鋭い。
「治療が終わってから部屋に籠ってます」
……まあ可哀想ていうか天罰というか……。
「それでは次の試合」
もう完全に試合って言ってるわね。
「補助魔術クラスのサーチと……スキルクラスのリル」
私が出るよりも先に相手が登場。
「うわあ……」
「さっさと始めるよ」
うわあ……。
やっぱいるんだねぇ。ビキニアーマーにも負けない、人気コスプレ題材。
……猫獣人。
「あの〜」
「……何?」
「語尾にニャを」
「ああそう! 絶対に聞いてくる奴いるのな! いちいち『そうニャ』なんて言わないよ!」
あ、そうなんだ。
「私も聞きたい! 犬の獣人が語尾に『ワン』てつける!? ネズミの獣人が『チュウ』つけるか!? ウサギの獣人が『ピョン』つけるかっつーの!!」
いや、ピョンはないと思うけど……何かトラウマがあるみたいね。
「なんか……すっごくごめんなさい」
「はあ……はあ……まあ、いい。今度から気をつけてくれれば……」
……ホントに何があったんだろう?
「ええと、かなり話が逸れましたけど……始め……ますか?」
……だから、何で疑問系?
「まあ、始めましょうか」
そう言ってリルは構えた。武器は持っていない。体術のようだ。
私は“不殺の黒剣”を抜いて逆手に構える。
そのまましばらく対峙して。
「……いくよ!」
リルが先制した。
「くうっ!」
速い!
猫獣人特有のスキル≪猫足≫からの爪による斬撃がビキニアーマーを掠めた。≪猫足≫は≪早足≫と≪気配遮断≫の複合スキルだ。厄介な!
「……反撃しようにも≪猫足≫の効果で攻撃が当てにくいわね」
……マズい。完全にリルのペースだ。どうする……?
ゾクッ
うわ、背後に殺気! 考えてる暇ない! 防御も間に合わない!
「もらった!」
リルが渾身の一撃を放つ!
ええい! 一か八か!
「これでどう!」
ガツンッ!
「!? 痛あ?」
逆にリルが手を痛そうに抑えながら飛び退く。 よし、うまくいった!
「な、何で? 鉄板殴ったみたい……イタタ」
鉄板殴ったのよ。
突発的な発想だったけど≪偽物≫で背中に鉄板を作り出したんだけど……うまくいったわね。この戦法でなら≪猫足≫への牽制になるわ。
しかし、この時。
すでに悲劇は進行していた。
「っはああ!」
今度は私からの攻撃。思い切り≪早足≫で踏み出す!
すると、先程のリルの斬撃でビキニアーマーに傷がついていたらしく。
……ぶちぃ!
「……へ?」
……ブラが千切れた。
お色気は私の趣味!