第二十五話 ていうか、この世界を救う為に現れた勇者……エイミア?
感動のシーンが過ぎ去った後には、目を背けてはならない現実がある……なんて名言があるらしいけど……。
今の私達がまさにそれなんだと思う。
「「「「「すいませんでした! 申し訳ありませんでした!」」」」」
……全員でお詫び行脚をするハメになった。
先程のソレイユvsエイミアの戦いの余波は、あちこちに傷跡を残した。その苦情がものスゴかったのだ……。
ご近所の家のガラスが割れたり、壁にヒビが入ったり。崩れた家がなかったのは幸いだった。これらの補修には聖術でいろいろ便利屋なソレイユが行ってくれた。
近くで開催されていたバザーにも被害が出た。ここでは吹き飛んだテントを直したり、転がっていったりした商品を集めたり弁償したり等々。これはリルとリジーが担当してくれた。いざとなったら力で押しきれるコンビなので大丈夫だろう。
で、私とエイミアで戦いの場となった広場の補修と掃除をしている。
「……こんだけ地面が抉れるってことは、スッゴいエネルギーのぶつかりあいよね……よくソレイユもエイミアも無事だったもんだ」
石畳が剥がれてむき出しになった地面を≪偽物≫で作ったスコップで均しながら、エイミアにグチった。
「そうなんですよね……私は傷一つありませんでしたし……被害と言える被害は、聖剣が砕けちゃったって事くらいですね」
エイミアは砕け散った聖剣の欠片を拾い集めている。砕けても伝説の金属でできている欠片である……刺さると痛い。
「……私の被害が一番だったみたいね……」
〝知識の創成〟との対話の後、何故か私の魔法の袋は使用不能になっていた。ほとんどの荷物が無限の小箱に移してあったので金額的被害は少ないけど、私の下着等がまだ魔法の袋に残っていたのだが……それらは当然行方不明となった。
「……早く下着とか買い揃えないと……一着も残ってないなんて最悪よ……」
お気に入りもあったのに……。
この時点では、まさか下着等を〝知識の創成〟が転生先に持ち込んでいるとは、知る由もない。判明するのはずいぶん先のお話……。
「……よし、終わった! 後はソレイユに石畳を戻してもらえばOKね」
「私も拾い終わりました〜。まとめて私の無限の小箱に入れときますね」
一応オリハルタイトだから保存しておく。何か使えるかもしれないし。
「おいーっす……こっちも終わったぜい……」
「落ちて売り物にならなくなった食べ物は、言われたとおり全部買い取った」
「無限の小箱に入れてくれてる?」
「ばっち無論」
最近意味のわからん言葉を使うな、リジー……。
「まあ落ちた直後の食べ物なら無限の小箱に入れとけば問題ないし……大量に買い込んだと思えばいいか」
「ただ食べ物以外も買い取ったけど……ほとんど使い物にならねえぞ」
「…………例えば?」
「例えばも何も、ほとんど瀬戸物だよ」
うーん……確かに使い道がないな……。
あ、待てよ!?
「私が全部貰うわ。トラップなんかに使えるかもしれないし」
「おーけー。後で渡すわ」
落とし穴の底にバラ撒いておけば結構いいダメージになるかもしんないし。
「リジーの食べ物も、後でまとめて貰うからちょっと待ってて」
「? ……別に私が持ってても問題無い」
「ああ、私の都合よ……手元に材料があった方が、料理する時も便利なのよ」
いちいちリジーに「玉ねぎ三つとキャベツ二玉出して」なんて頼むのも不便だしね。
「ん、わかった」
「それと……手荒な展開にはならなかった?」
……リルとリジーは気まずそうに視線を逸らす。
「やっぱりか……女ばかりだからってナメてかかってくるヤツがいるとは思ってたけど……」
リルとリジーのことだから、徹底的にコテンパンにしてるだろうけど。
「……ま、いいんじゃない。死なない程度なら」
「死なない程度はいいんだ……」
エイミアが呟く。
「あのね、殺すよりも生きたまま無力化するほうが何倍も難しいのよ?」
エイミアの場合一振りでオーバーキルだからね。
「手加減なんて考えた事なかったです……」
「手加減なんて無用無用! 辺り一面吹っ飛ばしちゃえ!」
「やめて! そういうこと言うと、エイミア本気にするから!」
ちょうど戻ってきたソレイユが茶々を入れてきたのですぐ止めた。
「そんな〜本気にするわけが……」
ほらあっ! エイミアが釘こん棒を握ってキラーン☆としてるじゃない!
「うわあマジ!?」
「マジなのよ! エイミアが≪蓄電池≫でドッカンドッカン始めたら、ソレイユのせいだからね!」
「違う違う! アタシが言ってるのは釘こん棒の事!」
へ?
「釘こん棒がどうかしたの?」
「だって! 釘こん棒なんて筋肉馬鹿の野蛮人が使うような武器じゃない!」
あ、エイミアの目が潤んでる。
「何で勇者が釘こん棒!? マジあり得ない!!」
「………………びえええ」
あ、泣いちゃった。
「……あれ? アタシのせい?」
「「「あんたのせい!」」」
「ご、ごめんエイミア……」
「びええええええっ!!」
「も、もう泣かないで?ね?」
あ、珍しい光景。ソレイユがめちゃくちゃ困ってる。
「大丈夫よ〜! 釘こん棒も立派な武器だから! ほら、構えてみれば可愛い……かわ………………………………やっぱ野蛮」
「ふぇっ!? びええええええっ!!」
バリバリバリ!
「え゛っ!! ちょ」
「びええええええええええええええっっ!!」
や、やば……!
どぐわあああああああんんんっっっ!!!
「……けほ……あーあ……久々にエイミアの必殺技が出たわね……」
せっかく直した場所がさっきより酷くなってる。
……ていうか……焼け野原だわ……。
「死人が出ててもおかしくないわね」
「大丈夫! 聖術で違う場所に転移したから」
……は?
「じゃあ戻るわよ〜……ほいっ!」
ブウン
「え……! ほ、ホントだ……元の町だ……」
……じゃあ、さっき焼け野原になったのは……?
「どっかの無人島。問題無い無い」
立派な自然破壊よ!
「まあいいじゃない。この町吹っ飛んでたら、賠償金額半端ないって」
「ソレイユへの感謝半端ないって」
ん? 何故か「半端ないって」て言葉が浮かんだんだけど?
……まいっか。
「びえええ……え?」
エイミアも泣き声で疑問系?
「あらあら〜……見事に釘こん棒は炭になっちゃってるわね」
「毎度のことよ。だから手早く作れて経済的な釘こん棒なの」
「…………エイミアはそれでいいの?」
いいんです!
「……ていうか、あの衝撃に耐えられる武器なんて、そうそうないでしょ」
「釘こん棒で?」
いや、別に釘こん棒にこだわらなくともいいよ。
「そうね〜……長老樹の枝を硬化させたこん棒なら耐えられるよ」
だから釘こん棒から離れて…………て、え?
「………………あるわよ」
「……へ? 何であるの?」
「マーシャンが〝賢者の杖〟作ろうとして失敗したヤツ」
「あはははははははははははは!」
マーシャンの事になると反応が際立つ。
「エイミア、あのこん棒を出して」
「……びえ」
泣き声で返事するな!
「はいはい……おおっ! スッゴい硬化ね! 下手したらミスリル越えてない?」
……どんな木なのよ。
「ん! ん! 面白いこと考えついた! サーチ、聖剣の欠片出して!」
……はい?
「……でっきたよ〜ん!」
…………まさかとは思ってたけど……ホントに作っちゃったの?
「木は長老樹の硬化した枝! それに元聖剣のオリハルタイト製の釘! これぞ究極の釘こん棒!」
バカだ。
この魔王様、マジでバカだ。
伝説の聖剣と伝説の杖を使ってできたのが釘こん棒!?
あり得ない……!
「ほらエイミア! 使ってみて!」
「は、はい……」
ぶんっ! ぶんっ!
「凄いです……! 身体の一部みたいにフィットします……!」
マジかよ!
「ありがとうソレイユ! 大切にします!」
「いーよいーよ! エイミアが喜んでくれたなら、アタシは超幸福だよー!」
……さいですか。
こうして。
勇者が使う伝説の武器は、この世界では釘こん棒になった。
……あ、元勇者か。
閑話をはさんで新章になります。