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第二十四話 ていうか、ついに決着の時!

「………………サーチ」


「ん、何?」


 〝知識の創成〟(アカデミア)が完全に沈黙して(ふてくされて)から一日ほど経ち、いよいよエイミアを勇者(あしかせ)から解放する日。その準備の最中に、エイミアが話しかけてきた。


「……昨日の呪文(・・)なんですけど……」


 呪文?

 私が呪文って……何のことかしら……?


「あの呪文で〝知識の創成〟(アカデミア)が退散したって聞いたので……」


 ……ああ、わかった!


「ポアンカレ予想のことね。それがどうかした?」


「あれ…………教えてください!」


「ムリ」


「な、何でですか!?」


「ムリっていうか、めんどくさい」


 全部説明しきるのに一日以上かかるようなヤツ、もうやりたくない。


「お願いします! 唱えれば〝知識の創成〟(アカデミア)すらも屈服させられるほど、スゴい呪文なんですよね!?」


 がたたっ!


 しまった、つい椅子からずり落ちてしまった。


「誰よ! そんなこと言ったヤツは!」


「ソレイユ」


 ……あとから背中に氷突っ込んでやるからね……。


「……あのね、仮に。仮によ。ホントにスゴい呪文だったとしてよ?」


「はい」


「……唱え終わるのに一日かかる呪文を、わざわざ手も出さずにじっっくりと聞いてくれる敵がいると思う?」


「……いませんね」


「でしょ? 唱えるより直接殴ったほうが早いし、なにより詠唱中に攻撃されたら目もあてられないわ」


「わかりました。素直に殴ります」


 そうしなさい。

 あんなバカな戦術(?)にハマるのは〝知識の創成〟(アカデミア)くらいのモノよ。



「サーチ! そろそろ準備終了だから聖剣を出してくれる?」


「ほーい」


 ソレイユに頼まれて魔法の袋(アイテムバッグ)から聖剣を……。


「……あれ?」


 ……ない。


「おかしいな……」


 確かにバッグに入れたはずなんだけど……。


「奥に引っ掛かっておるのう。ほれ、その下着の箱の下じゃ」


 ん〜……あった!


「誰か知らないけとありがとう……ん!?」


 何で私の魔法の袋(アイテムバッグ)の中身情報を知ってるのよ!? 一応個人情報なんだけど!


「なかなか大胆な下着じゃったのう。勝負下着かぶごおっ!!」


「何であんたがここにいるのよっ!! こんのクソジジイ!!」


 何故か私の前には〝知識の創成〟(クソジジイ)がいた。


「しかも昨日みたいにユラユラしてないし! 輪郭はっきりしてるじゃない!」


「ちょっと待てぃ! 少し落ち着かんか!」


「これが落ち着いていられますか! ソレイユ、今すぐに滅殺するわよ! ……………………あれ? ソレイユ?」


 って! ここどこよ!?


「あんた下着ドロボーだけじゃなくて、誘拐までやってるわけ!? このヘンタイ! ハゲ! ゴーカン魔!」


「イタタ……だから落ち着けと言うておる! もうお主らをどうこうする気はないわい……」


「嘘つけえ! じゃあ、あんたの懐に入ってるブラは何よ! それ私のとっておきのヤツ! 返せ返せ!」


「いた! ごっ! ぶっ! ……ちょっと待てと言うに! こら……うごおっ!?」


「あ、変なとこ蹴っちゃった……消毒消毒」


「……ぐおおおおおおおおおお……」



 小一時間クソジジイを小突きまわして、ようやくスッとした私は。


「何か話があるんだったらさっさと話しなさい。じゃないとマジで瞬殺するわよ」


「……ようやく話せる段階まで来たか……頑固者はこれだから困るぐぼおっ!」


「だから、あんたが私の下着盗むからイケナイんでしょうがっ!!」


 ……また小一時間過ぎることになった。



「じゃあここは私の魔法の袋(アイテムバッグ)の中ってこと?」


「そうじゃ。今は擬似的に時間を止めてあるぞ。すごいじゃろ!」


「ソレイユが作った無限の小箱(アイテムボックス)は普通に時間止まってたわよ? 容量も無制限だし、そもそもステータス欄に追加されるだけでバッグの概念すら無いし」


「…………………………ソレイユ嫌いじゃ」


 たぶん「嫌ってくれてありがとう!」と言われるのがオチね。


「早く話終わらせてここから出してね。一秒でもあんたと一緒にいたくないから」


「………………わかったわい。お主に聞きたい事があっての。ポアンカレ予想のことじゃが」


 ……いちゃもんかしら?


「あの知識はおかしい。おそらくこの世界のモノではあるまい」


 ぎくっ。


「お主……転生者じゃな?」


「……だったらどうするの? 『異世界の知識は反則ぢゃ』とか言うつもり?」


「言ったじゃろ? 我の負けじゃと……今更この事実を覆せるとは思わぬよ。じゃが……」


 やっぱりいちゃもん!?


「我は『ぢゃ』ではない! 『じゃ』じゃっ!」


「すっっげえどうでもいいなっ!!」


「重要じゃよ……で? お主は転生者である事を認めるのじゃな?」


「そうよ。それがどうかしたの?」


「……お主がいた世界の事を詳しく教えてくれい」


 ……はい? 何で?


「それ話せば、早く終わるの?」


「うむ。我が知りたいのはそれだけじゃ」


 ……ウソは言ってない……と思う。


「わかった……」


 それから私は、前世にあった当たり前のことを中心に話した。科学や機械の話をすると、目を輝かせて聞き入っている。前回話したポアンカレ予想とかを含む数学の話には特に食いついてきて、私でも多少わかるフェルマーの最終定理を説明したら、涙を流していた。この人たぶん数学バカだ。


「面白い……面白いぞ! まだその世界には、証明されていない難問が山のようにあるのじゃな!」


「……そうなるわね。ミレニアム懸賞問題もポアンカレ予想以外はまだ証明されてないはずだし」


「ぬ!? そのミレニアム懸賞問題とやらは幾つあるのじゃ?」


「え!? ……な、七つよ……じゃなくて! ポアンカレは終わってるから六つ!」


「六つじゃな! 六つあるんじゃな!? …………よし決めた! 我はお主がいた世界へ行く!」


「……はあ……行けるの?」


「我は神じゃぞ? 転生なぞチョチョイのチョイじゃ!」


 ……神様にしては不安要素しか感じられないけど……。


「……じゃあこの聖剣はどうすればいいの?」


「我は何も抵抗せぬ故、思いきり〝死神の大鎌〟(デスサイズ)をぶつけるがよい。それで砕けるであろう」


「……砕けて大丈夫なの?」


「我は聖剣と〝死神の大鎌〟(デスサイズ)がぶつかるエネルギーを利用して、次元を跳躍する。聖剣が砕けて我は居なくなる。勇者も解放される。一石二鳥じゃろ」


 まあ……そうだけど。


「話が決まれば即実行じゃ! ではさらばじゃ、ハレンチ女よ!」


「誰がハレンチ女よ!」


 ……と叫ぼうとしたけど声にならず……何かに吸い込まれた。



「……聖剣を出してくれる?」


「……レンチ女よ! …………って、あれ?」


「レンチ女? 何言ってるのよ、サーチ」


 ……ホントに……時間止まってたんだ。


「……ソレイユ、ちょっと話があるんだけど……」



 私はさっきまで体験したことを包み隠さずに話した。


「……ちょっと聖剣見せて」


 今回は難なく聖剣を出す。


「…………今までのような力が感じられない。多分転生の術式に全ての魔力を注ぎ込んだのね…………」


 そう言うとソレイユは〝死神の大鎌〟(デスサイズ)を手に取った。


「エイミア! やるわよ!」


 ソレイユの声に反応して、エイミアが立ち上がった。


「……はい!」



 まるで対決するかのように武器を構えるソレイユとエイミア。


「〝繁茂〟、見てなさい。あなたの悲願が達成されるわよ」


 〝繁茂〟は少しだけ笑顔を見せてから〝死神の大鎌〟(デスサイズ)に入っていった。


「っ……行くわよ、エイミア!」


「はい! いつでもどうぞ!」


 ソレイユはまっすぐに突っ込んで〝死神の大鎌〟(デスサイズ)を振りかぶる。


「はあああああああああっ!!」


 ソレイユに負けじと、高く聖剣を掲げるエイミア。

 〝死神の大鎌〟(デスサイズ)はソレイユに反応して黒く染まり。

 〝知識の聖剣〟(アカデミア)はエイミアに反応して白く輝く。



 二つがぶつかりあい。



 バキイイイン!!



 ……〝死神の大鎌〟(デスサイズ)〝知識の聖剣〟(アカデミア)は粉々に砕け散った。



「エイミア!」


 私は呆然とするエイミアに背後から抱きつく。そこにリルとリジーが加わる。


「エイミア……良かったな……」

「エイミア姉……ぐす……」

「これで……エイミアと……ずっと一緒に……」


 ……ダメだ、声にならない。エイミアは私の手に軽く触れて。


「うん……これで私……真の仲間になれました……」


 ……泣いているみたいだった。



 ソレイユも。

 粉々になって風に舞い散っていく大鎌を見送りながら……。


「……みんな……やったよ……」


 ……と、呟いた。

 ソレイユの頬を涙が伝ったのは……気のせいじゃないと思う。

あと二、三話で新章です。

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