第二十三話 ていうか、とーーっても長い紐をロケットにつけて云々……。
「この小汚ないお爺さんが〝知識の創成〟なの?」
あ、つい口に出しちゃった。お爺さんの顔が茹でダコみたいになってる……めっちゃ怒ってるわ……。
……ソレイユと〝繁茂〟も赤くなってる……こっちは笑いを堪えてるみたいね……。
『誰が小汚ない腐りかけの狸ジジイじゃあ!!』
「そこまで言ってないわよ! 何なのよ、この被害妄想ジジイ……」
『ぐぬぅ、まだ言うかあ!! 被害妄想で頭の中がお花畑のモウロク爺さんとまで言ってくるとは……! バリアフリー精神が足らん!』
「…………じゃあ見境無しで張り倒してあげるわ…………」
『待て! 待て待て待て! お主境界無しの解釈に問題があるぞ!』
「問答無用! ≪偽物≫からの見境無しクラアアッシュッッ!!!」
ずどごっ!!
「……霊体だろうが何だろうがミスリルのハンマーなら問題無し……まさにバリアフリー」
……ムダにMPは消費したけど。
「あっはっはっは!! あ〜、おっかし〜!! 流石サーチだわ」
……その「流石」が誉められてないのはわかる。
「そりゃどうも……で、そっちの天使さんが〝繁茂〟でいいのよね?」
「そうよ〜♪ 〝繁茂〟、私の友達のサーチ達よ……で、あんたがガン見してるおっぱいの子がエイミア」
『……誤解を招くことを言うな。あちらが今代の勇者殿であろう?』
「そうよ。でも視線が明らかにおっぱいにいってたのは事実よね?」
『……ソレイユより大きいと思うてな』
「サーチ! さっきのミスリルハンマー貸して!」
「≪偽物≫だからムリよ」
「なら代わりにシバいて」
「らじゃ♪」
『ま、待ってく』
どがごんっ!!
「……エイミアー! いぇーい」
「……いぇーい」
ぱんっ! とハイタッチしたけど……最高神と天使をハンマーでぶっ叩いちゃって……バチあたるかな?
『『このバチあたりがっ!!』』
やっぱり。
「なあにがバチあたりよっ! アタシの友達にバチあてたら倍返しにしてやるんだから!」
バチの倍返しって怖いな。
『ぬっ!? ……な、なな……何故〝真鉄〟がここにおるのじゃ!』
「……って今頃かよっ! ずいぶん前からいたわよっ!?」
『またお前か! この色ボケ女が! 恥を知れ!』
ぶちぃ
「色ボケじゃない女にも相手にされない、単なるジジイには言われたくないわね……」
『た、単なるジジイじゃと!?』
「だってあんたさ、知識に傾倒しすぎて天使から反逆されて負けたんでしょ? 察知くらいできるでしょ……仮にも最高神なんだし」
「いいぞ! いいぞ! 言っちゃれ言っちゃれ!」
「で? 挙げ句の果てに、聖剣の使用者を乗っ取るために勇者なんてモノを考えだしたんでしょ? エイミアみたいな肉付きの良い女の子を乗っ取って、何するつもりだったのやら……このヘンタイ! さっさと〝死神の大鎌〟の餌食になっちゃえ!」
「おーう……言うねえ……」
『わ、我の力が万全ならば、貴様など……!』
「万全でもソレイユにやられちゃったんでしょ? ……ねえソレイユ、このヘンタイ強かった?」
「弱かった! アタシの寝込み襲ってきた割に、あっさり返り討ちできるくらい」
「やっぱりザコね」
……後ろでエイミア達と〝繁茂〟が盛大に拍手してくれる。どーも。
「実際の知識も大したことなさそうね」
『……何じゃと?』
「あ! バカサーチ! ちょっとちょっと」
な、何よ!
「駄目よそれは! 〝知識の創成〟の名前は伊達じゃないんだから……知識の勝負じゃ誰も勝てないよ!」
マジで?
『我に知識で勝負を挑むか。面白い』
「あーら。私は知識勝負するなんて一言も言ってないわよ?」
『……成る程な。我には勝てぬと理解して恐れを抱いたか』
挑発になんか乗るもんですか!
「はーいはい」
『所詮恥を知らぬ野蛮人には知識など不要じゃったな』
……は?
「……恥知らずはあんたでしょ? 自分のヘンタイを棚に上げて何言ってんのよ」
……この時私は〝知識の創成〟のペースにハマってることに気づいてなかった。
いつの間にか「売り言葉に買い言葉」の状況になり……。
「もう〜あったま来た!! そこまで言うならやってやろうじゃない!」
こう私が言った瞬間、〝知識の創成〟は「してやったり」という表情をした。その瞬間に私は理解した。
(しまった! ハメられた!)
気がついた時には後の祭り。ソレイユは「あちゃ〜」って顔してるし、〝繁茂〟も厳しい表情をしている。
『では約束通り、我が勝った場合はお主の身体を貰うぞ』
……へ?
「約束って……? 私、そんなこと言った?」
「はっきりと『私が負けたら私を好きにしなさいよ』って絶叫してたな」
全員揃って頷いた。
『フフフ……所詮知恵の足らん小娘ごときは、我が手の上で転がされるのが関の山じゃな……』
カチンッ!
…………ふ……ふふふ。
いいじゃない……やってやろうじゃない……。
「……その勝負だけど。私がある問題を出す。それをあんたが解く。七問出して四問正解であんたの勝ち、四問間違えたら私の勝ち。これでどう?」
『愚問じゃな。そのような要求は飲むわけなかろう。お主しか知り得ぬことを出されるのがオチじゃろうしな』
「いーえ。私が出す問題は、私が解くことができる数学の問題に限定します」
「「「「『はあ?』」」」」
『数学……とな。フフフ……ハハハハハ! わざわざ我の得意分野で勝負してくれるか! 面白い、受けてやろう!』
……勝ったわね。
「それじゃあ早速一問目よ」
『良かろう!』
全員固唾を飲んで見守るって、こういうのを言うのね……。
「……星の周りは何かわかる?」
『宇宙……人が生きられぬ永遠の闇じゃな』
……宇宙の概念はわかるかな。
「ここにめちゃくちゃ長い紐があります。その紐を……うーん……竜でいいか。竜の尻尾に縛りつけて宇宙の外輪を一周してきてもらいます。ただ竜の寿命とかいうことは考えないで」
『何やら壮大な話じゃな……』
「その紐を引っ張って回収することができたとしたら……宇宙は丸いってことよね?」
『うむ……概念は理解できる』
「そう……ならそれを数式で証明して下さい」
『なぬっ!?』
……私以外は全員「???」状態だった。
……四時間後。
『……無理じゃ! わからぬ! いや、というより……不可能なのじゃ!』
「いいえ。できるわ」
『ほう? 面白い。ならば証明してみせるがよい!』
「……あんたトポロジーで考えたでしょ?」
『な、何故それがわかる!?』
「これは微分幾何学で考えないとダメなの。いい? まず……」
……一日くらい経過。
「……でこうなる。はい、証明完了」
『………………』
「どう? 数学が得意だっていうあんたなら……私の証明に欠陥がないことくらい、わかるわよね?」
『…………………………な、何という……事だ……』
「一問目。私の勝ちね」
……ジジイは力なく頷いた。
「じゃあ一問目。三次元はわかるわよね? それと一次元の時間の関係は」『……無理じゃ。我の知識だけでは……どうしようもならん。一問目の問題は……多分……一番簡単な問題なのじゃろ?』
「……そうね」
……他は証明すらされてないし。
『……………………認めよう。我の負けを』
「……じゃあ……とりあえず休憩ね。私以外はめちゃくちゃ疲れてるみたいだし」
ていうかエイミア達は爆睡してるし。
〝知識の創成〟は聖剣の中に戻っていった。『しばらく放置してくれ』……と力無く呟いて。
「……ねえ……ソレイユ……この状態ならジジイには何にも聞こえない?」
「え? あ、そーねー……何にも聞こえないように封印しとくわ」
ソレイユが何かゴニョゴニョっと呟くと、聖剣は淡い光に包まれた。
「完全に音は遮断したよ」
「ぶはあっっ!! 危なかったああああっ!!」
「うわびっくりした! どしたのサーチ?」
「あ、うん……私が出した問題ね、前世のヤツでさ……ミレニアム懸賞問題って言うのよ」
「サーチの前世のかあ……なら〝知識の創成〟がわからないのも無理ないわね」
「いやいや! かなり危なかったわよ! 結構いい線まで行ってたのよ、あのジジイ!」
「え? 一問目くらい正解されても大丈夫でしょ?」
「違うの。ミレニアム懸賞問題ってね、一問目に出したポアンカレ予想以外はまだ証明されてないの!」
「はああああああっ!?」
……前世で数学者を暗殺する仕事で、ポアンカレ予想を丸暗記してなかったら危なかった……。
一応おことわりしときます。
私はミレニアム懸賞問題やらポアンカレ予想とかは…まったく理解できません!
なのでポアンカレ予想とやらが数式で証明するものなのか、丸暗記できるものなのかはまったくわかりません!完全にフィクションです!
ていうか…詳しく説明されたくない…。