第二十二話 ていうか、いよいよ目的達成か?
「な、何でここにソレイユが……?」
「それはアタシのセリフだよ〜……もうとっくに暴風回廊へ向かっているもんだとばかり」
ていうか、肝心なあんたが何で新大陸にいるのよっ!?
「むぅ、魔王だって疲れるのだ! お疲れの魔王様が温泉に行って何が悪い!!」
……お疲れの割にはわざわざ隣の大陸に来ているのは、どういうことなんでしょうか?
がしぃ
「…………つっこみも度を越すと身を滅ぼすよ〜♪」
「ちょっとソレイユ! マジで怖いって!」
「あら? アタシとした事が……オホホホホ」
……何をしてるのやら……。そういえば三冠の魔狼もこっちに来てたか。
「サーチ……何でアタシがここにいることで三冠の魔狼が結びつくのかな〜♪」
「……私達が関わらない方がいいこと?」
「……友達を巻き込みたくないな……」
「…………………………わかったわよ。でも助けが欲しいなら言ってね。多少は力になれると思うから」
「……うん、ありがと!」
ソレイユは満面の笑みを浮かべた。……魔王様でもこんなに無邪気に笑うんだ……と思える笑顔だった。
「ハーティア行ったの!? なら砂風呂も……」
「「「「最高だった!!」」」」
「マジで〜……アタシも行ってみようかな〜」
ソレイユの紹介で泊まった旅館で、私達は昼ご飯を食べていた。当然アルコール付きで。
「ソレイユはなぜ新大陸に?」
エイミアが笑顔で聞く。
……さっき私が「深く聞かない」宣言した事柄をサラッと聞いてきたわね……この辺りを天然でやっちゃうのがエイミアなんだけど。
「ん〜? それは……エイミアの為に決まってるじゃないの〜!! 食らいなさい! コチョコチョコチョ」
「きゃ〜〜〜!! アハハハハハ! ひぃぃぃぃっ! フヒヒヒ……キャハハハハハハやめてええええっ!!」
突然エイミアの背後に移動したソレイユは、エイミアの脇を盛大にくすぐり始めた。力技で誤魔化したわね、ソレイユ……。
ていうか! そうだった! ソレイユとエイミアの組み合わせで思い出した!
「ソレイユ! エイミア! ちょうどいい組み合わせだわ!」
「? 何でしたっけ………………あ、ああ! そうです! そうですよ! そうなんです! 早速にでも」
………………エイミア急に焦りだしたけど……。
「……あんたまさか……忘れてたんじゃないわよ……ね?」
あ、エイミアが反対側向いて鳴らない口笛吹いてる。
「やっぱり忘れてたんじゃないのよ!!」
「みょーーーーんんんっっ!!」
限界を超えたエイミアの口の伸び具合にソレイユが爆笑した。
「アッハハハハハ!! 何よそのエイミアの顔! アハハハハハハハハ!! みょーーーんって……ぶふぅ!!」
ああ、ソレイユの爆笑が止まらない。
「ほーらほら」
「いひゃいぃぃぃっ!! ……みょみょーーーんんんん!!」
「みょみょーーーんって……は、腹が捩れる……ひぃはははははは!!」
……ちょっとやり過ぎちゃったみたいで、ソレイユの笑いが治まるまで小一時間かかった。
「はあ……はあ……もうダメ〜」
立てなくなるまでソレイユを笑わせてしまった私は、リルからこっぴどく説教されることになった。
「なんでお前は毎回毎回話を逸らすようなことするんだよ!!」
「……返す言葉もございません」
エイミアはリルに抱き着いて大泣きしてる。結構痛かったらしい……ごめんなさい調子にのりました。
「はひ、はひ……エ、エイミア、ちょっといいかな?」
脇腹を擦りながらソレイユがエイミアに近づく。
「びえええ…………ひゃい?」
エイミアの顔を間近で見たソレイユは……耐えきれなくなり。
「…………プーッ!! アハハハハハ!!」
また笑い転げた。
「……う……びえええええええっっ!!」
ますますショックを受けたエイミアが、また泣き出す。で、さらに私が叱られる。何なのよ、このスパイラル。
さらに夕方近くまでかかって、ようやくソレイユとエイミアは会話ができる状態になった。
……一日を完全にムダにしたような気がする……。
「〝死神の大鎌〟が……ぷぷ……手に入ったのなら……くく……すぐにでも……ふふ……やつちゃうよ……くす」
「びえ……はい、お願い……ふえ……します……ぐすっ」
……まだ完全に回復はしてないけど。
「場所はどこでもいいの?」
「広い場所がいいかなー……一応戦うんだし」
……は?
「……誰と?」
「アタシと」
「……誰が?」
「エイミアが」
………………。
ええええええええええええええええっ!
「ムリ! 絶対ムリです! 死にます! 死んじゃいますよー!! 魔王様相手になんて!」
「イジメ!? イジメか!? 魔王様直々のイジメなのか!? 流石にそれは見過ごせねえぞ!」
「魔王様……それはさすがに……酷い……悪辣……残忍……邪悪……極悪……畜生……鬼畜……」
……あ、ソレイユのこめかみに血管が。ヤバい。
『黙らんかいコラアアアアアアアッッ!!!』
うっわ、すごいプレッシャー!
「ソレイユ落ち着いて」
『ふー、ふー「……ああ……』もう大丈夫」
「ソレイユは大丈夫かもしれないけど……今のプレッシャーでエイミア達含めて辺り一帯失神してるわよ……」
「え……し、しまったあ〜……つい……」
……通り沿いに人がバタバタ倒れてる……。たぶん家の中も一緒か。
「まあやっちゃったことは仕方ないから。ソレイユはこの周辺の火を消してもらえない?」
「あ、そうね。火事になったら大変だし」
火を扱ってた人も失神してるだろうからね。じゃあ私は……全員起こしてまわるか。手始めにエイミア達から……。
結局この騒動の後始末が遅くまでかかり、ソレイユとエイミアの戦い? は翌日に持ち越された。
翌朝。
朝ご飯をちゃっちゃと済ませてから、全員で近くの広場に向かう。
「……エイミア、肩の力を抜いてよ〜……ホントに殺し合う訳じゃないんだからね?」
「は、はひ……ガチガチガチ……」
あんだけのプレッシャーを受けた後じゃ、腰が引けて当然かと。
「ちゃんと説明したでしょ〜……戦いの中で〝死神の大鎌〟が〝知識の聖剣〟を砕くっていう行程が必要なんだって」
「はい……わかってはいるんですけどぉ〜……」
何て話してる間に広場に到着した。
「さて……リジー、〝死神の大鎌〟を出してくれる?」
「はい……とおっ」
リジーの掛け声と同時に、空気中に穴が開く。そこから禍々しい波動を漂わせながら。
ドズゥン!
……〝死神の大鎌〟が姿を現した。ソレイユはそれを片手で持ち上げて肩に担ぐ。
「おっも!? これ見た目以上ね!」
……いや、ものスゴく軽そうに扱ってないかい?
「エイミアも聖剣出して」
「あ、はい。サーチお願いします」
よしきた。魔法の袋に入れっぱなしだった聖剣を箸で摘まんで放り出す。
「さて、始めましょうか〜……ん?」
すると〝死神の大鎌〟から何かが出てきた。煙状だったそれは、やがて人の形になっていく。
「……〝繁茂〟……」
ソレイユが呟いた。
そして〝知識の聖剣〟も同様のことが起きた。
聖剣の上に現れたのは。
「…………何? この煤けたジイさん……」
リルが言った通りの容貌のお爺さんだった。……話の流れ的に……〝知識の創成〟かな?




