第十九話 ていうか、蛾骨杖対策バッチリ?
『蛾骨杖じゃと? またケッタイなもん拾うてきたのう……いっひひひ』
「うるせえよクソババア! さっさと教えやがれゴラアっ!!」
『……あぁ?』
「あ……いえ……教えてください。おニェがいします…………」
あらあら。さっきまで逆立ってた毛が完全にしんなりしちゃったわ。
あれから半日ほど歩いた私達は、灌木が並ぶオアシスで休憩をとった。
私がエイミアとリジーを水の中に放り込んでいるうちに、リルがお婆さんに連絡した……というわけだ。
ありがたいことにリルのお婆さんは念話水晶を持っていた。
「がーぼがぼがぼがぼ……ぶはあっ! いきなり何を……サーチ?」
「ぶくぶくぶく…………あれ? ここはどこ? 私はリジー」
リジーは……正気に戻ったのかな?
「リジー? 大丈夫? 何があったか覚えてる?」
リジーはちらっとエイミアを見て。
「………………うん」
あ、真っ赤になって俯いちゃった。可愛い。
「まだ良かったじゃない……相手はエイミアだから」
「! ……うぐ……」
あ、ちょっと涙目。やっぱ女の子なんだな。
「私なんか………………マーシャンだったのよ………………」
「御愁傷様です」
さっきまで「傷ついた幼気な少女」だったリジーが、私のことを「残念な人……」て感じで見てる。余計なお世話だよ! ていうか、私は被害者だから!
「でもサーチ姉のもっと大事な初めては大丈夫だったよね?」
「……何のこと?」
「ルーデルと初めての」
「ちょおおおおっと待てええええっ! 何を言い出すのかと思えば! ていうか、何でリジーが知ってるのよお!」
「だって私のベースはルーデルだから」
ぐあっ! そうだった!
「サーチ姉のあの夜の乱れ様は」
「わああ! わああ! わああああ! 言うな! 言うんじゃないいい!」
「むぐむぐ……ぷはあ……サーチ姉、私……新しい呪われアイテムが欲しいな〜」
「わかった! わかったからやめて!! お願い!」
「……二言はない?」
「ない! ない! なない!」
「……言質とった」
リジーは楽しそうに笑った。
「心配しなくても大丈夫。サーチ姉とルーデルとの秘め事は私とルーデルが分裂した後だから」
!? ………………そうだわ……!
「リジー! あんた……」
「二言は無いんでしょ?」
うぐっ!
「だから私の勝ち」
…………がくっ。
「当てずっぽうで言ってみたんだけど、見事に命中」
当てずっぽうだったのかよ!
「……サーチ姉とルーデルもヤることヤってたみたいだし」
「リジー。それ以上は…………滅殺するよ?」
「ひえっ!? ……は、はい……」
……今度からは気をつけてヤろ。
エイミアがリジーに謝っているのを眺めていると。
「ん……じゃあまたな婆様」
リルの念話が終わったらしい。さて、何かしら手立ては見つかったのやら……。
「サーチ、ぶっちゃけて言えば簡単に何とかなった」
簡単にって……何ともまあ……あっさりと……。
「……あまりに呆気なさすぎて力抜けちゃったわよ……」
「……まあ……私も聞いたときは『……マジで?』って聞き直したからな……」
「……で? その方法は?」
「私がハーティア新公国でもらった除虫護符で封じられるってさ」
……蚊取り線香……じゃなくて護符で?
「…………まさかとは思うけど…………蛾骨杖だからなんて言わないよね……?」
「………………」
ま、まさか……。
「……そうだ」
何よそのつっこみどころ満載の弱点!
「蛾骨杖の先についてる宝玉が、邪香蛾っていうモンスターの目玉らしくてな……」
……目玉。
あの宝玉が目玉。
「あの護符は元々は虫除けというより、虫系のモンスターの素材から作られた武器対策の護符なんだって」
ずいぶんとピンポイントな対策だな! まあ虫系の素材はめんどくさい効果を持ってるらしいから、わからないでもないけど。
「ていうか……普通に虫除けとしての効果の方が便利じゃない?」
「私もそう思う」
まあ何はともあれ有効な対策が見つかったことには変わりない。
「じゃあしばらくの間、蛾骨杖に護符を巻き付けとけばカンペキなんじゃない?」
「……だな。これでリジーも操られることはなくなるだろ」
「……そうだ。なんで呪剣士のリジーが呪われアイテムに身体の自由を奪われたんだろう……」
「それについては婆様が即答してた。リジーの熟練度不足だとさ」
「熟練度ぉ!?」
「つまりリジーが蛾骨杖を扱うには、まだまだレベルが低かったってことさ」
「ちょ、ちょっと待って。リジーは〝死神の大鎌〟は平気そうに使ってたじゃない!」
蛾骨杖より遥かに強力なはずよ。
「それも聞いたよ。簡単に言えば『持って歩くだけ』ならレベルに関係なくできるってさ。ただ、リジーが〝死神の大鎌〟を戦闘で使っていたら……」
「……いたら?」
「……大変なことになってたらしい。まあその辺はリジーもわかってたと思うがな」
「そっか……蛾骨杖みたいな乗っ取り系の場合は、持ち運ぶ以前の問題なのね……」
「……持ってるだけで呪い発動する武器には、熟練度を考慮にしないとダメだってことだな」
この辺りはも私達も気をつけないと……呪われアイテムに見境がないリジーには要注意だ。
「……というわけでこの護符があれば無問題よ」
「何が『……というわけで』なのかよくわからないけど……この護符は借りる。リル姉ありがとう」
「お、おう……よくサーチの手抜きの説明でわかったな……」
「勘」
鋭い。
「身に付ければいい? 杖に直接の方がいい?」
「……杖に直接の方がいいんじゃない?」
ぶるるっ!
「わっ!」
携帯のバイブ!?
「な、何だったの? 今の……」
「さあ……」
「………………やっぱり身に付けるほうがいいかも」
こんこん
「ん? 何だった今の音?」
「何か叩く音だったな」
「あの〜……リジー? もしかしたら杖が反応してません?」
「「杖が?」」
リジーは蛾骨杖をジーッと見て。
「……やっぱり直接」
ぶるるっ! ぶるるっ!
「……やめよかな」
こんこんこんこん
「直接」
ぶるるっ! ぶるるっ! ぶるるっ!
「やめる」
こんこんこんこんこんこん
「やめ」
こんこんこんこん
「……ずに直接」
こんこ……ぶるるっ! ぶるるっ!
「……私がつける」
ぶるるっ! ぶるるっ! ぶるるっ! ぶる……
「わかった。私につけないのね」
こんこんぶるるっ! ぶるるっ! こここんぶるぶるっ!
「完全に混乱してるわね……」
「……これだけ意思表明する杖なんて、気持ち悪いから封印」
そう言ってリジーは素早く護符を巻きつけた。
すると。
ぶるるるるる……るる……る………………っ…………ぴしっ
「「「「ぴし?」」」」
パキパキ……
………………パカン
「あ゛ーーーっ!!」
「わ、割れた……」
「……ありゃあ……蛾骨杖には強すぎたんだな……」
「リジー? 気にしない方が……うっ」
エイミアが慰めに行くが…………真っ暗な空間を纏わせるリジーに近づくことはできなかった。
……オアシスを出発したはいいけど……あまりにも重いリジーの足取りが原因で予定は遅れまくり……。
「……エイミアやリジー担いでたときと、あんまり変わんないな……」
……まあね。