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第十六話 ていうか、リジー! 何であんなモノ持ってきたのよおおお!

「どうだ、新しいナイフの調子は?」


 …………リルがニヤニヤしながら料理している私に聞いてくる。


「……わざわざ≪偽物≫(イミテーション)で包丁を出す手間は省けるわね……」


「で? 斬れ味は?」


 私は手を止めて、ナイフを逆手に持ち替えて。


 がちいんっ!


 て、手がじ〜んとしたわ……。


「……お、おかげさまで、安定して斬れ味最悪(・・・・・)よ」


 若干たじろいたリルは冷や汗を流しながら……。


「そ、そうか……じゃあ薪でも集めてくるか……」


 そう言って逃げていった。


「……許さん……」



「おいっ!! 何で私だけこれっぽっちなんだよ!」


 お昼ご飯ができて、全員集まった時のリルの第一声がこれだ。

 今日のメニューは鹿肉を炙って簡単に味付けしたモノと、キノコで出汁をとって作ったスープ、そして魚の身と野菜を挟んだサンドイッチだ。パンが硬いのは仕方ない。

 で、リルだけは鹿の骨と出汁とりに使ったキノコ、あとは硬いパンの一番硬くて食えたモノじゃない端。以上である。


「何で私だけこんなメニューなんだよ! 私が何をしたって」


 だんっ!


 もう一回ナイフを突き立てる。


「とおおっても斬れ味悪いわよおおっ?」


 ……エイミアとリジーが逃げていったのは放置する。


「あっっ…………ご、ごめんなさい…………」


「どうする? この斬れ味の悪さ……あんたの身体で試す(・・・・・・・・・)??」


「うわああああんっ!! 私が悪かった!! ごめんなさあああああいいいいいっっ!!」


「あらそお? なら前に約束した鯛の活き締めは諦めるわね?」


「うぐっ……そ、それは……」


「い・い・わ・ね?」


「…………………………………………はい」


 ……たく。



 ハーティア新公国を発って三日。魔術を反射するスカートを最大限活用しまくって、オーガメイジを狩るエイミア。

 強力な虫除けのおかげで快適に暴走羊(スタンピーシープ)の簡易鎧を着込むリル。

 あとは……何を貰ったのか教えてくれないリジー。何かすごくイヤな予感がするんだけど……。


「みんな嬉しそうでさ……私も嬉しいわよおおお……」


 私は岩に例のナイフ(・・・・・)をザクザクと突き刺しながら呟いた。


「「「ガクガクブルブル……」」」


 エイミア達は私から遠く離れてご飯を食べている。せっかく作ったんだから、もう少し味わって食べてほしいわ。


「あの……サーチ」


「ん?」


「お……」


「お?」


「お……お……おかわり……」


 ………………。

 ……多少震えてはいるけど……やっぱりリジーは通常運転よね……。


「はいっ」


「ん……ありありがとう」


 噛んでるけどね。



 ようやく震えが止まったエイミアとリジーに手伝ってもらい、出発の準備を始める。


「リルも早く準備してよ〜」


「ガクガクブルブル……」


 いつまで震えてんのよ!


「えいっ」

 ぷすっ!

「あにゃあああああああああああ!!」


 お尻にクリーンヒット!


「ニャにをするニョよ!」


「早く準備しなさい! 置いてくわよ!」


 そう言って、リルのお尻に刺さったままだったナイフを抜く。


「ふぎゃあっ!」


「……う〜ん……銅のナイフでもエターナル付きだと刺さるみたいね」


「エターナル付いてようがなかろうが刺さるわ!」


 そりゃそうか。


「わかったから、さっさと…………っ!!?」


 大きな殺気が近くにいる!


「リル!」

「ああ! 相当な数だな……クンクン……ゴブリンの団体、たぶん五百匹以上!」


 そこまでゴブリンが集まってるとなると……!


「ゴブリンキングあたりの統率力がないと、これだけは集められないわね」


「これだけ発生してるのなら、近くの町のギルドで討伐隊が編成されてるかもしれません」


 まあゴブリンが集まってることに気づかないわけないか。


「……連中こっちに気づいてるな。まっすぐ向かってきてるぞ」


「あちゃあ……完全に≪標的≫(ターゲット)にされたわね」


「ターゲット?」


「エイミア知らないの? ゴブリンキャップ以上が使える種族スキルで、一度≪標的≫(ターゲット)でロックされちゃうと、世界中どこにいてもゴブリンに居場所がバレちゃう」


「ええ〜〜〜っ!!」


「で、捕まっちゃうと……もちろん……」


「も、もちろん……?」


 エイミアがゴクリと唾を飲み込む。


「死ぬまで……な・え・ど・こ♪」


「? …………なえどこって?」


 ガクッ


 ……ダメだこりゃ。


「サーチ姉、ストレートに言った方がいい……エイミア姉、ゴブリンに強か」

「リジー! エイミアの耳元でこっそり言って。たぶんヤバい」


 何がヤバいはお察しください。


「……わかった。エイミア姉」

「は、はい……」

「実は……ふ〜っ」

「あひゃんっ!」


 ごっ! ごっ!


「んぎゃ!」「いひゃい!」


「リジー! 真面目にやんなさい! エイミアは変な声出すんじゃない!」


「「ごめんなさい……」」


 ……とりあえずリルと応戦準備だけしときますか。



「……あと100mくらい」


「リジー! まずはあんたが〝首狩りマチェット〟で薙ぎ払って! そこから隊列を分断してくから!」


「らじゃあ!」


 リジーは大鉈を構えて突っ込んでいった。

 

 …………グギャアアア!

 始まった!


「リルとエイミアはリジーの援護! 私は背後から回り込むわ!」


「わかった! いくぜエイミア!」

「はい!」


 木を高速で跳び移ってゴブリンキングを狙う。移動がてら、ゴブリンキャップやホフゴブリンみたいな小隊長クラスを片付けていく。


「グゴ…………ガ……」


 バタッ

 

 ……これで八匹。

 やっぱり小隊長クラスが消えたゴブリンの小隊は、右往左往してるだけだわ。


「おかしいわね……」


 ゴブリンキングはかなり大型のゴブリンだ。高い位置から見て確認できないはずはないんだけど……?


 カサッ


 !! 背後に敵!


 ぶうんっ!


 右に避けると、黒いゴブリンが剣を振り下ろしてきた。


「……こいつは……!」


 カウンターで黒いゴブリンの心臓に銅のナイフを突き立てる。そのまま黒いゴブリンは絶命して木の下へ落ちていった。


「エイミアーー!! 今すぐ最大威力で≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)開放して!」


 黒いゴブリンは間違いなくアサシンゴブリン。こいつを引き連れているのは……!


「リル! ザコはエイミアに任せてこっち来て! エンペラーゴブリン(・・・・・・・・・)だわ!」



 エンペラーゴブリン。

 ゴブリン種の中で最上位に位置する。

 数十年に一度現れると言われ、一匹だけで数千単位のゴブリンを統率できる。

 Aクラスにランクされているモンスターの中でも特に危険視されており、万が一遭遇した場合は確実に殺すようギルドは推奨している。

 特徴として、必ず数匹の変種のゴブリンを連れている。さっきのアサシンゴブリンもそうだ。


「リル、アサシンゴブリンの匂いからエンペラーゴブリンの位置を割り出して!」


「ムチャ言うなよ……でもやるしかねえか」


 エンペラーゴブリンが現れると、国が幾つか滅ぶとも言われている。そこで大量の女性がゴブリンの餌食になったら……目も当てられない。


「クンクン……クンクン……」


 リルが匂いを探してる間に。


 ずっどおおおおおんんんっ!!


「……エイミアね」


 これはまたハデに……。


「……いた! あそこだ!」


 エイミアの全体攻撃から少しだけ離れた丘。その上にエンペラーゴブリンの特徴とも言える王冠状のツノが見えた。


「おっ? リジーが戦ってないか?」


 ……あ、ホントだ。

 リジーが……大鉈じゃないわね……棒みたいなのを振り回して……あ、エンペラーゴブリンの頭を潰した。

 その途端にゴブリン達は一斉にあちこちに逃げ始めた。

 もう大丈夫だろう。


「ふ〜〜……リジーが早めにエンペラーゴブリンを見つけてくれてたのね」


「? ……おい、リジーの様子が変だぞ?」


「え?」


 ……リジーは逃げ回るゴブリン達をぶん殴り続けている。


「ストレス解消……かな?」


「……リジーは弱いのを倒して喜ぶタイプじゃないと思うが……あ、エイミアだ」


 エイミアが話しかけ……あれ?


「…………きいああああ…………」


「……なんかエイミア逃げ回ってるわね……」


「……リジーが追っかけ回してるな……」


「とりあえず近づいてみましょ」


 ……ケンカにしては様子がおかしい……。


「きゃ! ひゃ! ひえええ! 私がリジーに恨まれるようなことはしてませーん!」


「ちがう! ちがうのエイミア姉! お願いだから逃げてー!」


「? ……何やってんだあいつら……」


 あれは……。

 リジーが握ってる杖は……!


「……案の定ね……! 何であんなヤバいの持ってきたのよ!?」


 リジーが握っていた杖は。

 ハーティア新公国で厳重に封印されていた禁断の杖。

 ……蛾骨杖だった。

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