第十五話 ていうか、ロザンナさんからの贈り物。
無限の小箱以外にも、かなりの額の報酬を貰えた。パーティの財政健全化に多大な貢献をしていただき、マジでありがとうございます!
さらに……。
「この部屋にある魔道具を一人一点づつ差し上げます」
か、神ってるロザンナさん! 流石はハーティア新公国の国公を務めているだけのことはある!
影で「おばさん」やら「キレキャラ」とか言って、マジですんませんした!
「……? ……何故かサーチさんだけには何もあげたくない……と感じてしまいます」
何なの!? この世界エスパーだらけなの!?
「うわ、何ですかこれ!? とっても綺麗なスカート!」
「それは反射魔装という、魔術を反射する効果があるスカートです。絶滅した鏡虫の幼虫が紡ぐ糸が原料になっていて、今では大変な貴重品です」
「ふわあ……じゃあこれは流石に……」
「構いませんよ。どうぞお持ちになってください。ここにあっても死蔵されるだけですから」
「あ、ありがとうございます! 大切に使いますね!」
エイミアがスカートにスリスリ頬擦りしてる。
……あ、ロザンナさんがほっこりしてる。気持ちはわかります。
「な、なあ、ロザンナさん……」
「あ、はいはい?」
「あればなんだけどさ…………虫が近づいてこなくなる魔道具ってないか?」
「……虫?」
……なぜ虫?
「い、いやな……最近暴走羊の簡易鎧を使いだしたんだけどさ……」
…………ああ、あれね。
リルの思いやりのなさによって、防具製作者のプライドをバラバラに打ち砕いた……(後から私がお詫びしといたけど)
「これって軽くて丈夫でマジで便利なんだけど…………………………ノミがひどくって」
「はい? ノミ?」
「ちょちょちょロザンナさん! 声デカい!」
…………なるほど…………私の無限の小箱に残されてた『リルのノミ』ってのはそれか。
「虫除けなら、いい護符がありますよ」
「マジで!?」
ロザンナさんが棚から出してきたペンダントには、なぜか渦巻き模様が描かれていた。それって……。
「名前は除虫護符です」
そのものズバリの名前ね。私はてっきり蚊取り何とかって名前かと思ってたけど。
「効果は半永久的。自然に漂っている魔素を吸収して発動する構造ですので、使用者のMP消費の心配無し。範囲は半径20m以内」
「……結構いいじゃないか」
「ただし、本当に虫にしか効果がありません。おまけにある程度大きさがある虫には、効果が弱くなります」
「いやいや、それってめっちゃ使える魔道具じゃない!」
「そ、そうか?」
「毒虫が大量にいる場所には絶対必要じゃない。何より伝染病対策にはうってつけよ」
この世界でも蚊からの病気の感染は結構多いらしい。中には魔力熱やガーゴイル硬化症なんていう致命的な病気もある。蚊もバカにできないのだ。
「え? 何で虫除けで伝染病対策になるんだ?」
あれ? 知らないの?
「だって魔力熱とかガーゴイル硬化症とかは蚊から感染するのよ」
「「「え!?」」」
……おい。
「……ロザンナさんは……知ってますよね……?」
「……常識だと思っていましたが……」
………………。
「……あんたらギルド養成学校で何をやってたのよ……」
「……ごめんなさい……習ったんですけど、忘れてました……」
「すまん。授業はほぼ寝てた」
エイミアは仕方ないけどリルは救いようがない!
「……学校っておいしいの? と答えておく」
あ、リジーは養成学校行ってないか。
「でもルーデルの知識が元になってるんだから、知っててもおかしくないんじゃない?」
「ルーデルも寝てたみたい」
……ルーデル……ちゃんと勉強しときなさいよ……。
「……今度復習がてら教えてあげるわよ。注意しなくちゃならないのは蚊だけじゃないし」
「蚊以外もですか?」
「特にリルは注意しないと。実際にノミ」
がしっ!
「……言わニャい約束よね?」
すいません言いません。
「えー……ノミやダニからも感染することがあるので注意してね」
「わかりましたけど……なんでリルはノミに反応」
がしっ!
「……言わニャい方がいいわよ」
「ひえっ! は、はい! 言いません!」
……しばらくはリルに対して『ノミ』は禁句ね。
……ていうか、私も選ばないといけないのよね……。
「サーチ姉サーチ姉」
「ん? どしたの?」
「これ良くない?」
リジーが手にしてるのは杖だった。見るからに禍々しい杖ね……間違いなく呪われてるわ……。
「…………一応ロザンナさんに確認してみなさいよ」
「ん。そだねー」
ちょっと待てリジー。なぜそれを知ってる?
「ロザンナさん。これ貰っていい?」
「はい? 何を…………………………はうっ」
あ、あれ? 急にロザンナさんが倒れちゃったんだけど……?
「ロ、ロザンナさん、大丈夫ですか!? リジー、何かした?」
「……わからない」
「………………」
「……エイミア姉?」
「……はうっ」
げっ! エイミアまで!?
「……てことは間違いなく杖の呪いね……」
視界に入ると麻痺する呪いか。なら≪毒耐性≫がある私には効かないはず。
「リジー借りるわよ……」
ん〜…………………………あ、ここだ。先端の宝玉を見てるとピリピリ感じる。仮で宝玉を布でくるんで……と。
「ロザンナさーん、エイミアー! もう動けると思うよー」
「………………あ、動く。動けます」
「………………え? あ、本当に動きます……良かったあ、このまま一生動けないのかと思いました……」
「ロザンナさん、これは?」
「それは蛾骨杖という呪われた杖です。様々な毒を発現すると聞いていましたが……今回は麻痺で済んだみたいですね」
「麻痺で済んだ?」
まだマシだったみたいな言い方ね。
「ええ……どんな毒が発現するかわかりませんので……運が悪いと即死もあり得ます」
怖っ!
「リジー! 流石にこれは封印よ!」
「う〜……わかった」
厳重に宝玉の部分に布を巻き、さらに紐でぐるぐる巻きにしてロザンナさんに返した。
「他のモノにしなさい、他のモノに!」
リジーはまた探し始める。ていうか、何で見た目が禍々しいモノばかり手にとるかな。
「サーチ姉は何にするの?」
あ、忘れてた。ん〜……何にしよう。
「……そういえば雑用に使ってた銅のナイフが、そろそろ限界なのよね……」
研いでもどうしようもならないほど刃が欠けているので、そろそろ買い替えようと思っていたのだ。
「ちょっとサーチ? まさか雑用ナイフの代わりを魔道具に求めるのか!?」
……でも……他にいるのもないし……。
「一応聞きますけと……ビキニア」
「ビキニアーマーはありません!」
ですよねー。
「う〜ん……じゃあ……」
「これはどうですか?」
そう言ってロザンナさんが出してきたのは……。
「これ…………銅のナイフ…………ですよね……」
さ、流石にこれは……。
「ただのナイフではありません。エターナルの祝福がかかった銅のナイフです」
「……エターナル?」
「要は『どんなことをしても壊れない』ということです」
え! めっちゃいいじゃん! 雑用だけじゃなく、戦闘にもバリバリ使える!
「……でもそれって斬れ」
「それにします! それにします!」
「……て、おい! 待て待て待て!」
「いい! 私これでいい! ロザンナさんお願いします!」
私がそう言うと、ロザンナさんはニヤリと笑って。
「はい、決まりですね……良かった良かった」
……何よロザンナさんの反応……ようやく厄介払いできたみたいな……。
ぽかっ!
「イタッ! リル、何すんのよ!」
「バカかお前! いくらエターナルがかかったナイフでも銅だぞ!? 銅!」
銅……ね。
銅のナイフ…………よね。
「…………どう考えても銅のナイフなんだけど」
「か〜〜!! わかんねえヤツだな! いいか? 銅のナイフは斬れ味がいいか?」
「悪い」
「……よな!? その状態でエターナルなんだぞ?」
………………ああっ!
「てことは『ずっと斬れ味が悪い』だけのナイフじゃない! ちょっとロザンナさん!」
「返品不可です」
……ぐあ……やられた……。
こうして私は「永遠に使える銅のナイフ」という相当微妙な魔道具を手に入れた……。
「それではお元気で〜!」
次の日。
私達はハーティア新公国を旅立った。
……見送りに来てくれたロザンナさんの笑顔が憎い……。
「ふう……やれやれ。やっと我が国で一番微妙な武器が旅立ちましたね……」
「ロザンナ様! 大変です!」
「どうしました?」
「が……蛾骨杖がありません!」
「な、なにぃぃぃっ!?」