第十四話 ていうか、ゲームでおなじみアイテムボックス。
無限の小箱。
もうRPGではお馴染み……ていうか、なくてはならないモノだろう。
簡単に言ってしまえば「お手軽に持ち運び可能! 収納に大きさの制限はなく、どんな物でも無限大に入ります!」 って感じ。
私が持っている魔法の袋もそれに近いけど「大きいモノは無理」「容量は持ち主の魔力に比例して変化する」「生き物はNG」といった制限がある。
「え? 生き物も入るのか?」
「……たぶん……」
「たぶんって……何か怖い表現ですね……」
「でもさ、これで〝死神の大鎌〟を持ち運ぶことはできるようになったわよ」
「これで馬車に乗れる……」
そうね。一番助かるのはリジーなのよね。
「じゃあ早速入れてみましょうか」
「………………?」
……リジー?
「……どこにあるの?」
? ……あ、そうか。説明も登録もまだしてなかったっけ。
「リジー、魔力を集中して」
「ん」
あとは……操作して……。
………………。
『リジーの魔力を登録しました』
「わっ!?」
「はい。これで使えるわよ」
「??? ……よくわからない」
「ステータスを開いてみて。一覧の下に『どうぐ』って欄が追加されてるから」
「えっと……あった」
「それを開いて」
「ん…………あ、空に穴ができた」
リジーの前に、ぽっかりと黒い穴が開いている。
「そこに収納したいモノを放り込めばOKよ」
「わかった。えい」
リジーが〝死神の大鎌〟を穴に突っ込むと、跡形もなく消えた。
「出したいときはステータスから、どうぐの一覧を開けばOKよ」
「あ、本当だ。どうぐの一覧に〝死神の大鎌〟が載ってる」
「じゃあ私達も……?」
「そうね、今のうちに登録しちゃおか。二人とも魔力を集中して」
「あ、はい」
「わかった」
………………。
『……エイミアとリルの魔力を登録しました』
「お、いきなり何か出てきた」
「私もです」
「これで良し……操作は身体で覚えてね。魔法の袋と違って、手探りでアイテムを取り出す必要はないけど、いちいちステータスを開いてアイテムを選ぶっていう作業があるから『咄嗟に武器を出す』みたいな使い方には向かないわよ」
「そうだな……まあ普段から武器は持ち歩いてるから、特に問題ないな」
「私もですね」
問題は……リジーかな。
「大丈夫。今までみたいに大鉈だけ魔法の袋簡易版に入れておく」
……まあ、それがベターかな。
魔法の袋簡易版ってのは、容量が小さいけど出し入れがしやすい袋だ。リジーみたいに大型の武器を使う人がよく使っている。
容量はホントに小さくて、リジーの〝狩りマチェット〟だけで容量ギリギリだ。
「サーチ……さっきの生き物の話なんですけど……人間も……ですか?」
「ん? 大丈夫じゃないかな……ちょっと待ってて……」
ステータスから無限の小箱を起動する。空間に穴が出現した瞬間に。
「えいっ」
どんっ!
「わっ! ちょっ」
……リルが消えた。
「ホ、ホントに人間が収納されちゃった……」
「中はどうなってる?」
「魔法の袋と違って食べ物も永久保存できるから……」
「え、永久保存!?」
「確か時間を止めてるらしいから」
出来立てを入れておいて、二三日後に出したらまだ温かかった……なんて話もあるくらいだし。
「……じゃあ収納されたリルも……」
……たぶん……時間を止められてると思う。
「……早く出してあげてくださいね?」
「ん〜……そのつもりだったんだけど……」
「? ……どうかしたんですか?」
「………………出した時が怖い」
……アイテム欄の表示からして……ヤバい。
「大丈夫だと思う……時間が止まるのなら、リル姉は収納されてから出るまでの記憶はない」
「あ、そうですよ。リルには『どんっ!』と押されたとしか認識されません」
「そういうことじゃないの……ほら、私のステータス。どうぐの一覧見てみてよ」
そう言われてエイミアとリジーが覗きこんだ。
「えーっと……? 道具が多すぎてわかりません」
「横にスクロールバーがあるでしょ。それを触って下げれば早く移動するから」
「???」
「エイミア姉。これをこうして……サーチ姉、この一覧は何順で並んでる?」
「まだ並び替えしてないから、リルは一番下」
「わかった」
「うわあ! すごく早いです!」
……スクロールバーで感激する人も珍しい。
「あ、あった………………サーチ姉、絶対に怒られる」
「え、何で………………う〜〜ん……リルじゃなくても怒ると思う……」
……どうぐの一覧には。
リル
の下に。
リルの下着
リルのインナー
リルの財布
……等々、リルの身につけていたモノが一つ一つ表示されている。
……つまり……このまま無限の小箱から『リル』だけを出せば……。
「まあ……一か八かやってみるわ……えい」
どうぐの一覧から『リル』を取り出すと。
「……とっと。おいサーチ! いきなり押すんじゃねえよ!」
……リルが出てきた。
やっぱり『リル』だけ。
「リル姉、これ」
リジーが外套を取り出してリルに渡す。
「……? 何で外套なんかいるんだよ?」
エイミアが下を見るよう促す。
「?? ……一体何なん……だ…………きゃあああああああああっっ!!」
……どうやらリルが身につけていたモノ、全てが一つのアイテムと解釈されるようで……リルは何も装備してない状態だった。
ぶっちゃけて言えば、スッポンポン。
「サーチてめえ……」
「悪かったわよ……まさかこうなるなんて思わなかったから」
リルに一つ一つ装備品を渡しながら謝り続ける。
エイミアとリジーが運んできたパーテーションの裏側で、リルは半泣きで装備品を身につけていった。
「見てたのは私達だけですよ。気にしないでください」
「そういう問題じゃねえんだけど……まあいいさ。サーチが何か奢ってくれるからさ」
う゛っ! そうきたか!
「っ……わ、わかったわよ! あんまり高いのはダメだからね!」
「よっしゃ! 鯛の活き造りだな」
うぐっ!
「め、めちゃくちゃ高いじゃない!」
「いいじゃねえか。無限の小箱の性能をバッチリ確かめられたんだからさ」
くっ………………むぅ。
「はああ……わかったわ……」
……ずいぶん高い実験代だわ……。
「それにしても無限の小箱の性能はスゲエな……」
「下手したら家ごと持ち運びできるわね」
容量無限大ってのは、やっぱスゴい。
「ねえサーチ。結局無限の小箱ってどういうモノなんですか?」
「ん〜……説明しづらいわね……」
「でもお前ロザンナさんから直接貰ったんだろ?」
貰った……って言えるのかな?
「そうね〜……ロザンナさんから無限の小箱を使う許可を貰った……とは言えるかな」
「許可……ですか? ますますわかりにくいんですけど……」
「う〜〜〜ん…………あ! ロザンナさんを大家さんだと思って。私はロザンナさんから部屋を借りてカギを預かった……てイメージかな」
「……じゃあ私達は?」
「私を通してロザンナさんからカギを受け取ったってこと」
「……ん〜……わかったと言いたいんだが……釈然としない……」
「私だって釈然としてないわよ……だいたいロザンナさん自身も理解してないんだから……」
「「「はあ?」」」
「ロザンナさんも人伝に貰ったんだって……」
「………………くれた本人がわからないんじゃ、どうしようもねえか……」
「それよりリル。少し楽になったんじゃない?」
「? ……何でだよ」
「え、だってアイテム欄に『リルのノミ』が残って」
がしっ!
「……余計ニャことは言わニャいこと」
……は……はい……。
ピコーン! ピコーン!
「んん!? また誰かに無限の小箱が広がったねぇ〜」
自分のステータスのスキル欄から、誰が無限の小箱を受け取ったか調べる。
「お? おお! サーチじゃん! もちろん許可許可」
アタシが許可したことによって使えるようになる譲渡スキル。順調に広がって大変よろしい。
「あいつら何を収納すっるのかな〜♪ …………ぶはっ! 『リル』って……サーチったら自分の仲間を収納したわけ!? あははははははは!」
ほんっとに楽しい。サーチと友達になってよかった、とつくづく思う。
「……おお♪ ちゃんと〝死神の大鎌〟も収納されてる! いよいよねえ〜! 楽しみ楽しみ♪」
……譲渡スキル≪無限の小箱≫を作ったのがソレイユだと私達が知るのはまだずいぶん先のこと。
しかも作った理由が「たま〜に欲しいモノがあったら頂戴する為」なんて超くっだらないモノだと知るのは…………さらに先の話。




